#88 賢治作品のエマーソン【宮沢賢治とエミリィ・ディキンスン その26】
(続き)
○ 賢治作品のエマーソン
宮沢賢治が書いた「農民芸術の興隆」の中にも、「エマーソン」が登場します。
「農民芸術の興隆」の一部を、以下に引用します。
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「芸術はいまわれらを離れ多くはわびしく堕落した
(中略)
エマーソン 近代の相違と美の源は涸れ 才気 避難所
ここに我らの不断の浄い創造がある
(中略)
→エマーソン 斯ノ如キ人ハ」
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エマーソンが登場するこの部分は、賢治が、戸川秋骨訳の「エマーソン論文集 上巻」を読んで、書いたものと思われます。
また、詩ノートの中の「わたくしの汲み上げるバケツが」で始まる詩の中には、
「zigzag streeter,desert cheerer」
という部分が登場しますが、この「zigzag streeter,〜」という不思議な英語は、エマーソンの詩「THE HUNBLE-BEE」に登場する「zigzag streeter,desert cheerer」から引用されていると思われます。
エマーソンの詩では、蜂が飛び立つ様子が表現されているのに対し、賢治の詩では、蛾が飛び立つ様子として表現されています。
エマーソンの詩が原文のまま引用されているということは、賢治が何らかの方法でエマーソンの原文を知っていたと思われ、日本語の翻訳だけではなく、エマーソンを英語の原文で読んでいた可能性が高いと思われます。
この「zigzag streeter,〜」については、最近新たに、外国文学の研究者の方から指摘いただいた箇所で、同様の指摘や分析がなされたことは、今までないのではないでしょうか。
賢治は英語などの外国語が堪能であったと言われ、作品中にもしばしば外国語が登場します。もしかすると、作品中の言葉の中には元ネタとなった海外作品があり、その作品がエマーソンであった可能性もあり、今回の発見は、賢治作品をより深く理解する上で、新たな示唆を与えてくれるような気がします。
(続く)
2023(令和5)年10月27日(金)