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大腿筋膜張筋の活動を最小限に抑えながら臀筋を活性化するエクササイズとは?

はじめに

股関節周囲の筋機能は
歩行やスポーツ動作など
様々な動作において重要な役割を果たしますよね

特に
中殿筋や大殿筋などの臀筋群は
骨盤の安定性や下肢アライメントの制御に貢献しています

しかし
これらの臀筋群の機能不全は
膝蓋大腿痛、腸脛靭帯症候群、前十字靭帯損傷、腰痛など
様々な筋骨格系障害のリスク因子となることが指摘されています

これら障害において
股関節内旋筋である
大腿筋膜張筋(TFL)の過活動と臀筋群の筋力低下

そして
それに伴う股関節の内旋や内転などの
運動異常が観察されるケースが多く見られます

そのため
これらの筋骨格系障害に対するリハビリテーションにおいては
TFLの活動を抑制しながら
中殿筋と大殿筋
特に歩行中に重要な役割を果たす大殿筋上部(SUP-GMAX)を
選択的に活性化できるエクササイズが重要となると言えます


これまでの研究

これまでの研究では
様々なエクササイズ中の臀筋の活動を評価し
最適なエクササイズを提案してきました

サイドブリッジ、ウォールスクワット、フォワードステップアップ、四つん這いでの上下肢の挙上、立位および横向きでの股関節外転
などがその代表例です

しかし
これらの研究の多くは
表面筋電図(EMG)を用いて筋活動を評価しており
表面電極の特性上
目的とする筋肉以外の筋活動も
拾ってしまう可能性がありました

また以前の研究では
TFLの活動には焦点を当てずに
臀筋群の活動のみを評価している研究が
当然多くありました

先程述べたように
TFLの過活動は
筋骨格系障害に関与している可能性があるため
臀筋群とTFLの両方の活動を考慮し
エクササイズ選択が重要となるのです

Selkowitzらによる研究

このような背景のもと
Selkowitzらは
細線電極を用いた筋電図学的手法を用い
TFLの活動を最小限に抑えながら
中殿筋とSUP-GMAXを選択的に活性化するエクササイズを
特定するための研究を行いました

この研究では健常成人20名を対象に
11種類のエクササイズ
(横向きでの股関節外転、クラム、両側ブリッジ、片側ブリッジ、膝関節伸展位および屈曲位での四つん這いでの股関節伸展、前方へのランジ、スクワット、サイドステップ、ヒップハイク、前方へのステップアップ)
の臀筋群とTFLの筋活動を測定し
比較しました

Gluteal to TFL Activation Index(臀筋対TFL筋活動指数)
数値が大きいとTFLと比較して臀筋のEMG振幅が高い

その結果
以下の5つのエクササイズが
TFLの活動を抑制しながら
中殿筋とSUP-GMAXを選択的に活性化するのに
有効であることが示唆されました

TFLの活動を抑制し臀筋を活性化するエクササイズ

1.クラム

股関節の外旋と外転を伴う運動であるため
他のエクササイズと比較してSUP-GMAXの活動が高く
TFLの活動が低いという結果が得られました
これは股関節の外旋位をとることで
TFLの起始部と停止部が近づき
筋活動が抑制されやすくなる
さらに
大殿筋、特にSUP-GMAXは
股関節の外旋位において強力な外転作用を発揮するため
相対的に活動が高まると考えられる

2.サイドステップ

スクワット姿勢で行うことで
臀筋群の活動が高まり
TFLの活動が抑制されるという結果が得られました
これはスクワット姿勢では
股関節が屈曲位になるため
その活動が抑制される
さらに臀筋群は
股関節の安定化と伸展動作に貢献するため
活動が高まると考えられる

3.片脚ブリッジ

両側ブリッジと比較して
股関節外転筋の活動が高くなるという結果が得られました
これは片側ブリッジでは
支持脚側に体重が偏るため中殿筋が
体幹の側方への傾斜を防ぐために
より大きな負荷で活動する必要がある
と考えられるから
さらにTFLは
股関節の安定性にはあまり寄与しないため、
活動は比較的低くなると考えられます

4.四つん這いでの股関節伸展(膝関節伸展位)

股関節の伸展と外旋を伴うため
SUP-GMAXの活動が高くなるという
結果が得られていました
SUP-GMAXは
股関節の伸展と外旋に大きく貢献する筋肉であり
四つん這いでの股関節伸展では
これらの動作が強調され
SUP-GMAXの活動が高まると考えられます

5.四つん這いでの股関節伸展(膝関節屈曲位)

膝関節屈曲位とすることで
ハムストリングスの活動が抑制され
より選択的に臀筋群を活性化できるという
結果が得られました
膝関節屈曲位では
ハムストリングスの股関節伸展作用が減弱し
股関節伸展動作において
臀筋群がより優位に活動すると考えられます


一方
両側ブリッジやスクワットなどのエクササイズは
TFLに対する臀筋群の相対的な活動は良好でしたが
臀筋群自体の活動レベルは低いという結果でした
これらのエクササイズは
抵抗負荷を増加させることで
臀筋群の活動を増加させることができる可能性があります

まとめ

Selkowitzらの研究結果は
TFLの活動を抑制しながら
臀筋群を選択的に活性化するエクササイズを選択する上で
エビデンスを提供しています

クラムやサイドステップなどのエクササイズは
股関節周囲の筋力強化だけでなく
股関節の運動制御や安定性の向上にも
効果的である可能性があります

ただし
本研究は健常成人を対象としたものであり
その結果をすべての患者に一般化できるわけではありません
股関節周囲の痛みや可動域制限がある場合は
これらのエクササイズが適さない場合もあります

今後の展望

Selkowitzらの研究は、細線電極を用いた詳細な筋活動解析を行うことで、従来の研究では明らかにならなかった臀筋群とTFLの活動パターンを明らかにしました。

今後は、様々な病態を持つ患者を対象に、これらのエクササイズ介入の効果を検証する研究が必要となります。また、より効果的なエクササイズプログラムの開発や、エクササイズ中のフォームや負荷量などの最適化に関する研究も期待されます。

参考文献

Selkowitz DM, Beneck GJ, Powers CM. Which Exercises Target the Gluteal Muscles While Minimizing Activation of the Tensor Fascia Lata? Electromyographic Assessment Using Fine-Wire Electrodes. J Orthop Sports Phys Ther. 2013 Feb;43(2):54-64. doi: 10.2519/jospt.2013.4116. Epub 2012 Nov 16. PMID: 23151746.

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