実録スピ散歩/「失言の導師」
その女性の先生は齢60にして、スリムな体型、お顔はつやつや、シワひとつなく、ショートカットの髪は黒々としてキューティクルてんこ盛り、というような外観を維持なされ、まあ、外人から見れば40台でも十分通じるのではないか、という方であった。
日頃、人間は中身で勝負だ!といってはばからないものの、その実、初対面の人については、その良し悪しを(良し悪しって、しかしw)まずは外見で判断する私としては、「うーん、覚醒すると、ヒトはかくも不老長生になるのか」と感嘆すること、しきりであった。
もちろん、本物の覚醒者だと確信したのである。
まあ、今思えば、体型はともかくとして、シワ取りクリームも某ぽーらさんとか、某しせいどうさんとかから発売されているし、何だったら某たかす院長に「これ、取って。アタシ、お金はあるからさあ」ってな選択肢も可能なのである。
髪は染めればいいし、その上から椿油とかラードでも塗っとけば、ミドリの黒髪、つやつやは保証されるのである。
それはともかく、当時、外見からこの方は本物だと確信した私は、その先生が開催されるセミナーに足繁く通ったのである。
その日も、私はセミナー会場の最前列に陣取り、恋する乙女のような熱い視線で先生の語る言葉の一つ一つに、うんうんと頷いていたのであった。
私だけではない。その日のお話は他の参加者も心の琴線に触れることがあったのか、皆、真剣な表情で聞き込み、会場はいつにも増して熱い雰囲気に包まれていた。
一方、先生ご自身も参加者の熱意に押されるように、ますますその語りのトーンは熱気を帯び、ジェスチャーも次第に大きくなっていったのだった。
「いろんな先生がいますよね。それぞれ、立派なことや、納得しやすいお話をなさるでしょう・・・。でもね、私は違うのよ!」
それまで先生は白いシートで覆われた大きな椅子の上にあぐらを組んで座っておられたのだが、その上半身を前のめりにさせて参加者に訴える。
「耳障りのいい言葉。素敵なお話。そんなものを聞き、家に持ち帰る。それだけで皆さん、救われますか!?」
息を呑む参加者・・・。
「大事なのは皆さんが今この瞬間に、どうであるかなのよ!」
先生は上に向けた右手の掌を参加者に向けて差し出し、さらに熱く語りかける。
「私は目に前にいる皆さんを、いま、この場、この会場で救う!
今ここが、まさに本番なのよっ!
そう、私は・・・」
ついに、先生は組んでいた両足をほどき、片足をドンと床に踏み出したかと思うと、上気した顔でこう言い放ったのだった。
「私はぁ・・・、本番女優なのよおっっっ!!」
「・・・・・。」
えーっと、先生。
そのフレーズは先生の意図とはまた違った意味が・・・。
本番女優、本番女優、本番女優・・・。
頭の中でぐるぐるリフレインされるその言葉に翻弄され、それ以降のお話の内容が頭の中に微塵も入ってこなかったことは言うまでもない。
一方で、そのフレーズ以降の先生のお顔が、いつもより15歳ほども若く見えた自分がそこにはいたのであった。
あぁ、自分が情けない・・・。
これでは、悟りの彼岸に漕ぎ出す舟すらもまだ、編めていない。
我が修行、未だ道半ばにも達せず、との思いを痛感させられた1日なのであった・・・。
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