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糖尿病と栄養不足 其の二

以前に書いた記事を自ら実践してみたところ、結果はこうなりました。じつはこの記事、毎年受けている健診で空腹時血糖が高くなってしまい、目の色を変えて情報を集めた末にできあがったものなのです

右から2022、2023、2024の健診結果です

実践した期間はおよそ一年。HbA1cと空腹時血糖は上表のようになりましたが、食後にちょくちょく尿糖が検出されてグルコーススパイクが疑われるため、近ごろ方針を変えて新しい方法を試しているところです。これまでは血糖を下げる唯一のホルモンであるインスリンを増やそうと努めてきたわけですが、まだまだ改善の余地がありそうなので、今度は血糖を上げる第一のホルモンであるグルカゴンを抑えることにしました。やり方は至ってシンプルで、食事の少し前にあるものを摂るのみ。たったこれだけのことなのですが、面白いことにこの方法に変えてからというもの、食後1時間に行っている尿検査で全く尿糖が検出されなくなりました! インスリンとグルカゴン。例えるなら漢方の陰陽みたいなものなのかもしれません。


いったいどういう理屈でそうなるのでしょうか。じつは多くの実験や観察から、グルカゴンの量をコントロールするホルモンが消化管から分泌されることがわかっています。下部腸管のL細胞からはGLP-1、上部腸管のK細胞からはGIPが分泌され、どちらも分類上ではインクレチンと呼ばれるインスリン分泌刺激ホルモンでありながら、グルカゴンに対する作用は正反対になっています。GLP-1はグルカゴン分泌を抑制する一方、GIPはグルカゴン分泌を促進するのです。また、インクレチンはそれぞれの場所での食物の消化と吸収の速度に応じて分泌量が調節されているようなので、もしグルカゴンの分泌を減らしたいのであれば、上部腸管では消化されずに大腸にそのまま送られ、そこで腸内細菌により発酵を受けるような食物が当を得ることになります。

十二指腸を素通りするとGIPが減りGLP-1が増える


とは言うものの、実際にはそのような食品を入手するには少々手間がかかるかもしれません。なぜかというと現代では米や小麦を精白するのが当たり前になっているからです。わたしたちは主食として米や小麦からつくられるご飯やパンや麺類などを摂っていますが、穀物をそのまま食べるのと精白された後に食べるのとでは下図のように含まれている栄養素に違いが生じます。

『健康食雑穀 あわ、きび、ひえ…etc.』農文協 より

ご覧のように、精白加工されることで食物繊維や微量栄養素がほとんど削り取られてしまうのです。このおかげで上部腸管での消化吸収が頗る容易になり、GIPの分泌が増加します。さらに本来ならば下部腸管で腸内細菌のエサになるはずだった食物繊維が少なくなるのでL細胞への刺激が減少し、GLP-1の分泌は抑制されます。こうしてグルカゴンを増やすホルモンが過剰に分泌されると同時にグルカゴンを減らすホルモンが抑制されるという言わば負の相乗効果によって現代の食生活では血糖値が上がりやすくなってしまうのです。

そこでこの悪しきパターンを反転させるために上述の『あるもの』、食物繊維を摂るわけです。食物繊維の中でも特に難消化性デンプン(レジスタントスターチ)と呼ばれるものが有効で、その名の通り上部腸管では消化されることなく素通りして未消化のまま下部腸管にまで到達します。それゆえGIPは抑えられ、GLP-1は増加しますので、その影響を受けて膵臓からのグルカゴンの分泌は減少し、血糖値は安定するようになるのです。つまりグルカゴンさえ抑制することができれば、たとえインスリンの分泌が少なかろうが高血糖にはならないらしいのです*。実際、試してみると本当にその通りになりましたので、想定されている作用機序に間違いはなさそうです。もっとも私の場合はグルカゴンやインスリン、GIPやGLP-1などは計測していませんので、本当にこの仕組みが働いて効いたのかどうかは分からないのですが、目的である血糖値が下がったのでよしとしましょうw 


* 実験によるとインシュリンの分泌が全くない場合はいくらグルカゴンを抑えても血糖値は改善されなかったそうです。ただインスリン分泌が完全にゼロになっている人というのは1型糖尿病患者の中でもわずかしかいないとのことなので、グルカゴンの抑制は多くの人にとって試してみる価値のある方法ではないかと思います。



なお理論の詳細を知りたい方は下記の本を御一読ください。




今回この方法を試していて思い出したのは、糖尿病は人間と、人間と関わりのある動物にしか起こらないという話です。そもそも米にしても小麦にしても精白しなければ胚芽やフスマや糠の部分に栄養や食物繊維がたっぷりと含まれています。それを加工して微量栄養素や食物繊維を削り取ってしまうからさまざまな問題が生じるのであって、かつての日本人がそれらを豊富に含む大麦や雑穀を主食としてよく食べていた頃は糖尿病の有病率が今より大幅に少なかったというのも大いに頷ける話です。

『糖尿病に勝つ!「マグネシウム食」革命』より


今夏もまた健診がありますので何か変化があれば『其の三』を書くかもしれません。お楽しみに👋




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