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鉄と先進国
前回の記事で書きたかったことをこの記事で書こうと思います。
もとは先進国である必要条件の一つに自国で鉄を作れるっていうのが僕の持論だっていうのを補強するための記事を書こうとしていましたが、面白出張の思い出を書いてたら尺がなくなりました。
こちらの記事も、コロナ前ののどかな時代の海外出張の思い出話として読んでいただければ幸いです。
もともとのモチベーションは、前回の記事の中で取り上げた僕のX (旧ツイッター) のこのポストについて長めの文章を書いておきたいっていうものでした。
国内から製鉄所がなくなるとどうなるか。
— Sinusoidal bot (@sinuous_lambda) December 21, 2024
今までキロ100円で買えてたSS400が倍値くらいになるでしょうね。その意味するところは国内製造業の絶滅です。
それは当然地方の消滅と、観光島ニッポンの誕生を意味します。
そういうことで鉄について書こうと思うのですが、鉄っていうのは皆さんの身近にあるものである一方、その性質については中々まとまったものがないので一旦それをまとめ、そこでまとめた鉄の性質と先進国であることがどのような関係にあるのかを論じたいと思います。
鉄と発展途上国僻地工場
僕は結構前に僻地工場に勤めており、その中で工場で納入した品物のアフターメンテナンスとか、技術支援とか、据付の支援とかで途上国に行くことがありました。
途上国での工事というのはかなりクセがあります。長い思い出話なので、箇条書きでまとめると、
僻地工場で1日でできることが3日かかる。
僻地工場でごく普通に調達できる資材が手に入らない、つまり工事が進められない。
僻地工場や、近郊の外注業者が普通に使ってる工作機械がなくて、汎用機で加工してる。精度が出ないし、時間もかかる。
というようなことが大まかに感じたものでした。このうちの鉄にまつわることは2つ目の項目に当たるわけですが、兎角に材料、すなわち鉄が手に入らないことには悩まされました。
鉄が手に入らない
上のまとめ
基本的に発展途上国の現地工事というのは、日本で普通に買えるような高品位な合金鋼やステンレス鋼は流通していません。ましてやニッケル合金などは普通のルートでは買える訳もありません(合金鋼、ニッケル合金、高品位のステンレス鋼は高くて入手性が悪い金属材料だと思っていればよい) 。
そのため、特殊な部品、例えば燃焼室に使うような部品や、高い強度が要求される部品、製作公差が厳しい部品は日本で作って現地に持っていって据え付ける状態にしていくことになります。ここまでは予想もできて、諸先輩方の経験からも知っていたことでした。
一方で、普通の炭素鋼や軟鉄でいいような部品もあり、そういうものは現地で手配できるものがあったりするので、現地の受け入れ担当者に事前に図面を送って、こういうもの作れるよねって確認をしてから現地で作れるものは現地で作ることがあります。
ある意味で現地の雇用対策的なものを念頭に置いており、現地工場に仕事を与えることである程度スムーズに仕事が進むことを期待してこういうことをします。
ただそれは材料がある、つまり鉄が手元にあれば現地での加工も可能になるわけですが、そもそも鉄がないとその調達から始めて、それを加工できる工作機械を持つ工場を探すとかいったことが発生します。
そして往々にして工作の質はあまり高くなく、材料も悪い場合はスクラップから拾ってきたような鉄板を溶接で張り合わせたようなものが出てきたりします。
この事態は日本の僻地工場にいたときには体験しなかったことで大変な衝撃を受けました。いくつか具体例を挙げてみます。
途上国の工場でグレーチングを張り合わせて通路を作ってくれと言ったとします。ちなみにグレーチングっていうのは側溝のふたみたいなやつで、こういうので、割と普段の皆さんの生活の中で目にするものだと思います。
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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3%E3%82%B0 から
一見この部品、日本ならホームセンターに行けば当たり前に手に入る品物なのですが、途上国の僻地工場でこれを手配しようとするとスクラップ工場に行って探してくるか、街の何でも屋に頼んで、仕入れてもらうことになります。
日本にいれば3日でできるものが2週間で、日本での品質基準では到底受け入れられないものが仕上がってきました 。
また、小物部品で日本での製作が間に合わないとか、手配ミスで日本で作るのを忘れてたので現地で作ることがあります。
例えば、油圧ブロックっていう、油圧機器の間をつなぐための鉄の塊があります。下記のようなイメージの鉄の塊です。
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https://www.monotaro.com/p/1093/1673/ より
この手の代物は実際のところ日本であればMISUMI (https://jp.misumi-ec.com/)とか モノタロウ (https://www.monotaro.com/) でよく使うようなサイズのものは既成品で売っていて、早い場合は注文した次の日には納入されることもあります。
ところがこれを一度自国で鉄を作っていない途上国のド田舎工場でつくろうとすると、まず上の絵のようなサイズの鉄の塊を探して来て、その後で、次のような工程を賄える工場で加工することになります。
材料を切り出す。この時点では図面寸法より大きめに切っておく。
面を出すためにフライスで削る。
穴加工をする。
ネジ加工をする。
ネジの面取り、Oリング溝掘り、仕上げ加工をする。
そして、そのとき 材料の鉄は日本で買うよりも数倍高い 。いえ、 数十倍の材料費がかかってしまいました 。
さらにはその工場には汎用旋盤とボール盤しかなくNCで加工する 日本の工場よりも4倍の工期がかかりました 。良かったのは人件費が日本より安かったので、工賃が安く上がったくらいです。
結局は 日本で作るのに比べて5倍くらいのコストがかかってしまいました 。
実際に日本の工場のある我々が現地で物づくりを依頼する理由は短期的にはほぼない。というのがそのときの実感でした。
まとめると、途上国で物づくりをしようとすると次のようなことに直面することになります。
そもそも材料になる鉄があまりない。あっても日本より高い。
鉄を加工できる工場があるかどうかわからない。
工賃は日本より安い。
そしてノックダウン生産へ
さて、その数年後、またその僻地工場で仕事をする機会がありました。
前回の轍を踏まえ、次のような対策をして臨みました。
必要な部品はネジ一本、Oリング一本に至るまで日本国内で調達し、小物部品は必ず必要数の1.2倍の予備を持っていった。
仕方なく現地で現物合わせが必要な部品は日本で完成直前まで準備をして、現地では切って溶接するだけの簡単な作業で完成するようにした。
僻地工場の熟練のおじさんをつれていき、繊細な作業は現地のワーカーではなく、仲良しの腕前のいいおじさんにお願いすることにした。
ロープ、スリング、工具とかの道具も現地のものはちゃんとしてるかわからないので、僻地工場から持っていった。ちなみにパクられるリスクがあったので、工具類は鉄の箱を溶接してそとから簡単に取れないようにして、現地で廃棄して帰ることにした。
一方で、現地のワーカーもある程度使わないといけない契約だったので、前回行ったときに筋が良さそうだった、溶接、ガス切断、クレーン操作の仕事だけ頼んだ。
さて、これはなにかというとノックダウン生産そのものと捉えることができます。僕の大先輩に海外の多くの発電プラントを立ち上げた伝説のおじさんが居るのですが、その方も同じように日本で揃えられるすべてを揃えて現地で工事したようです。
途上国で物づくりをするというのはこのように生易しいことではないのです。そしてこれは一見もっともらしいことを言ってるように見えますが、とどのつまりは、 途上国では高度な材料も高度な物づくりの人材も手に入らないので、現地では簡単な仕事だけやるようにする っていうことを言ってます。
それから日本のように自前で材料から製品まで仕立てられるようになるには茨の道を進まなければなりません。
鉄と日本の工場
さて、次に日本での場合を見直してみましょう。
例えば僕は内燃機関の研究開発とか設計をしていましたが、そこで使う耐熱合金でできた加工が難しい部品も自分たちで作れたし、それを工場内に据え付けるための架台だとか、グレーチングだとかも自分たちで作れました。
そこで使われる材料は、ステンレス鋼の高品位なやつだったり、ニッケル合金だったり、普通の炭素鋼だったり、鋳鉄でした。これらの材料は知識のない人たちが見る分には、へーそういうもんもあるんだーくらいにしか思わないものですが、ステンレス鋼の高めの番手のものやニッケル合金は研究開発に膨大な時間と金が掛かり、入手性もあまりよくありません。一方で、炭素鋼も鋳鉄も一般的には流通していますが、安価で単納期に仕入れるのは社会がそれなりに成熟していないと成り立ちません。すなわち、そこには以下の要素が関連してくるといえます。
金属材料についての研究開発をしてペイするような鉄鋼メーカー、特殊鋼メーカーがある。
そしてそれらの鉄を大量に買って支えてくれる顧客がいるくらい工業が成熟している。
そういう先端技術を感度良く情報収集して、適切な顧客に営業をかけられる専門性の高い商社がいる。
一方で、一般的な鉄についても大量生産で効率よく、低価格で、品質の良い鋼材を作れる製鉄所、それを粗加工する工場、大量に生産される製品を売りさばく商社と、ロジスティクス。
これらはすべて同時に成り立つ必要があり、どれか一つが欠けていても成立しません。実際に、日本の僻地にあるデカイ工場はデカい工場だけでは完結していなくて、例えば僕が勤めてたような工場には、その周りには、
工場で加工するための鉄 (材料) とか、その他部品を運ぶための産業道路、港湾、高速道路、鉄道、倉庫。
デカい工場に電力を供給するための発電所や変電所。
デカい工場で使う部品を製造する小さい部品のメーカー、工場群。実際これらは数十社から数百社に渡る。
そういう工場にものを納めるための商社の支店。
それらの工場で働く人たちのための住居と買い物のための商業施設、そして飲食店。
デカい工場。
それらの工業地域を管轄する監督官庁の出先機関、消防署、警察署。
といったものが集約されて配置されています。上のリストに挙げたものはある意味で文明社会の一部分と言って差し支えないのかもしれませんが、 そこで生み出した付加価値の原材料になるものは多くの場合は鉄であることが多いのではないでしょうか (多いと言ったのが、例えば化学メーカーだったら原材料は石油だったりするし、その他の業種であればその他の材料を扱うことが多いが、重厚長大産業では主に鉄を加工して付加価値をつけて顧客に提供するので、鉄を原材料とみなしている) 。
ちなみに、神戸というと関西圏だと割とオシャレな街だと認識されていると思われますが、一方で三菱重工と川崎重工の工場がある工場でもあります。Googlemapで神戸市内の三菱と川崎の工場があるあたりで雑に 「工場」というキーワードで検索すると、
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こんな感じで工場がいくつかの場所にわかれて偏在していることがわかるなす。このように大きい工場っていうのはその周辺に関連する産業が集まることで集積度を上げて生産性を上げているといえます。
鉄と文明
粗鋼生産量とGDP
まず鉄が作れることと先進国であることの関係を眺めるために、粗鋼生産量が多い国を鉄鋼連盟の統計情報から引っ張ってきて、それと名目GDPを並べてみました。いくつか歯抜けがあるのは僕がデータをまとめるのが面倒くさくなったからで、本気を出せばきちんと埋められます。ただ、議論のネタにするにはこの程度で足りると思うレベルで作りました。
とりあえず表にしてるのは、散布図にしても説明変数が足りなさそうで、ナイーブにわかりやすいグラフにならないからです。
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https://www.nipponsteel.com/factbook/13-03.html
この表からわかることは 粗鋼生産量が多い国は所謂先進国と新興国とかBRICsといわれる国が多い 、そして、 発展途上国のような国は含まれてなさそう ってことです。
実際に、この図の中で一番GDPが低い国はイランの372百万USDなわけですが、一方で、世界の国々の平均GDPは60〜70千USD、中央値で見ても10〜15千USDらしいので、それなりに社会が成熟し、科学技術の発展している国が粗鋼生産量の多い国と符合すると考え問題ないでしょう (GDPの平均値と中央値はBingちゃんに https://www.globalnote.jp/post-1409.html のデータをもとに計算してもらった)。
ちなみに先程の図をエクセルで何も考えないでプロットするとちょっと苦しい感じになります。これはすなわち、 鉄をたくさん作れることが必ずしもGDPが大きい必要条件なわけではない ことを示しています。実際の世界ではGDPは粗鋼生産量の他にも色々な説明変数を使って特徴づけられそうなのは論を待つまでもありません。
例えば、英国のような製造業を卒業した国 (鉄の女、マーガレット・サッチャーにより製造業、つまり鉄をたくさん使う産業形態から卒業したのはなにかの皮肉でしょうか) はGDPが高くとも粗鋼生産量が小さいのは容易に想像がつきますし、中国のような世界の工場がGDPの割にたくさん鉄を作ってそうなことも想像がつきやすいことでしょう。
この記事の目的は鉄とGDPの関係を論じるものなわけではないので、この程度にとどめておくとして、少なくともこれらの調査からわかることは、少なくとも 多くの人がイメージするような発展途上国、例えば、東南アジア、アフリカ、南米の多くの国々はそれほど多くは鉄は生産していない ということです。
ここまでで、鉄と文明についての命題のうち、
命題
先進国は、鉄をたくさん作って、消費する国であることが多い。
というのを見てきました。データを見る限りはある程度は妥当だと言えるでしょう。では、鉄は経済発展、あるいは、文明の形成に必要なものだというのは直ちに成り立つものなのでしょうか?
文明はさておいて、経済発展についてだけ見ると、例えば中東の産油国のように自前の産業は持たなくてもいい感じの投資マネーの受け入れやいい感じの経済政策で、鉄をそんなに作らなくても経済成長は遂げてそうです。
明治時代には我が国は富国強兵こそが欧米の列強に対抗しうる手段であると考えて、まず産業の輸入を始め、官製八幡製鉄所で日本での近代的な製鉄業が始まり、それから近代化を成し遂げました。そして概ね、日本の近隣の韓国も中国も似たような経緯で経済成長を成し遂げたように見えます。
欧州の国々もそうでした。
しかし今は必ずしもそうではないようです。
そこで、ここでいくつか疑問が湧いてきます。
鉄は必ずしも経済成長に必要ではないのではないか?
そもそも製鉄業を始めるのは難しいのではないのか?
次の説ではこれらの疑問について検討をしていこうと思います。
鉄がなくても成長できる
今の時代は自分たちで鉄を作らなくても中国やインドが大量の鉄を作ってるので自前で鉄を作らなくてもいい時代になったように見受けられます。鉄を作るのはまあまあ大変で、現代のように洗練された銑鋼一貫生産の巨大工場でないと世界の中での価格競争についていけなくなっています。実際に旧呉海軍工廠の製鉄所が前身の日新製鋼は日鉄との合併の後で呉製鉄所を停めました。これは生産性の低さがその主要因であることは明らかです。
このように、今は自分たちで作らなくても手っ取り早く鉄は海外から調達できる時代なのです。例えばUAEでは超高層ビルがたくさん建設されていますが、そこで使われる構造材はUAEで賄えるものとも思えません。
実は世界で多くの国が鉄を輸入しています。
これは日本のような、国内に、日鉄、JFE、神鋼といった製鉄所がたくさんある国の人には想像がしにくいのではないかと思います。しかし例えば、日鉄の材料より、中国の製鉄所の材料のほうが安いといった場合には、普通の人は安い方を選ぶことが多いでしょう。
すなわち、さあこれから近代化だ、まずは鉄を自分たちで作って、それから製造業を伸ばすぞ、とかいう明治時代に流行った成長スキームは今の時代には通用しなくなっている、あるいは、そんな面倒なことをしなくても手っ取り早く経済成長を成し遂げられる時代なのかもしれません。
鉄を作る難しさと参入障壁
上で述べたことに関連して、今の時代は自分たちで産業を育てようにも既存のプレーヤーが強すぎて新規参入組が太刀打ちしづらい時代になっているのかもしれません。その既存のプレーヤーの強さは何によって担保されているのでしょうか?
考えうるのは、
そもそも鉄を作るのは技術的にそこそこ難しい
鉄は安価で大量に市中に出回る性質があるので、大量生産できる工場の垂直立ち上げが必要で、それも難しい
という2点です。
一番目についてはよく雑な議論でかわされるもので、日本の製鉄技術はR&Dの点では世界一みたいなやつです。実際に日本はいまだにこの分野は健在だし、僕もこれまで国内の製鉄所さんに新しい素材の開発、調達でお世話になったことがあります。
そこで、ここでは鉄を作る難しさについて考えてみようと思います。
鉄を作るのに必要なものは何でしょうか?
手っ取り早く挙げると、
鉄鉱石と石炭 (水素還元製鉄が実用化されれば石炭は多くは必要なくなる)
製鉄所
製鉄所で働く労働者、技術者
鉄の材料、製品を運ぶロジスティクス、インフラ
になります。これらのものは同時に必要で、鉄鉱石と石炭だけあっても鉄は作れないし、人材だけいても鉄は作れません。これらの社会インフラ、人材育成、人材調達は同時にしなければいけません。
特に製鉄所は超巨大な施設であり、その建造費用は中々のものです。そこそこ新しい製鉄所に神戸製鋼の高炉があるのですが、そのときのエピソードとして、1960年代で数百億円の費用が必要だったとあります。
灘浜工場(神戸製鋼所)の新設
神戸製鋼は高炉の新設のために、灘浜工場(神戸製鉄所)の新設を決定。神戸市における「神戸港東部臨海工業地帯造成計画」によって埋め立てられた土地を取得し、埋め立て用地に高炉を含めた製鋼所の新設を決定した。
1959年1月に神戸製鋼は灘浜工場(神戸製鋼所)における第1高炉を稼働し、銑鋼一貫体制を確立した。神戸製鋼所においては、1962年に第2号高炉、1966年に第3号高炉をそれぞれ新設し、3つの高炉が稼働する大規模な製鉄所として運営した。
神戸製鋼が3号高炉の稼働までに投資した累計額は750億円に及んだ。
ちなみにここにある高炉っていうのは製鉄所の中の一部で、鉄鉱石と石炭から銑鉄を作り出す施設です。大体皆さんの想像する製鉄所の工場になります。
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高炉というのは上の写真に見える背の高い工場で、これを作るのに数百億円の費用がかかり、そして、その他の工場はまた別に費用が掛かります。実際にこれだけの費用を調達するだけでも並大抵のことではなく、一種の国家プロジェクトのようになります。
そして、この工場を操作する作業員、工程、新製品を開発する技術者、それらを支える間接部門の社員といった人材も数千人の規模で必要になります。これは実際には一つの街を作り上げるようなものであり、日鉄の君津は八幡から来た人たちが君津の街をつくったところがあり、あのあたりには北九州の文化が今でも残っていると言われています。
そしてこれらの人々は少なくとも初等教育を終えて居る必要があります。更にはこれらの人々の住居、電気ガス水道といった生活インフラ、食事を賄うための流通網も必要です。
さて、これらのものは途上国の人々だけで果たして賄うことができるでしょうか?
それは仲々できるものではないというのが僕の率直な感想です。
そして、この鉄を作る難しさがある種の参入障壁としての役割を持っており、仲々新しく先進国入りをする国が出てこない一員になっていると思えるのです。
いやいや、韓国や中国は先進国の一員ではないかと言われるわけですが、それらの国々の代表的な製鉄所は日本の支援のもとに立ち上げられています。
株式会社ポスコ (POSCO) は、大韓民国(韓国)最大の鉄鋼メーカー。
日韓基本条約に伴う対日請求権資金などによる資本をもとに、朴正煕大統領の肝いりで1968年に設立、1973年に浦項市にて操業開始。八幡製鐵と富士製鐵、日本鋼管の技術供与で急速に発展して、設立当時1人あたりの国民所得が200ドル程度だった韓国の経済発展に大きく貢献した[2]。
宝山鋼鉄股份有限公司(ほうざんこうてつ こぶんゆうげんこうし)は、中華人民共和国(中国)上海市に拠点を置く鉄鋼メーカー。宝鋼集団(旧・上海宝鋼集団)傘下で、中国の大手鉄鋼メーカーである。略称は宝鋼股份(ほうこうこぶん、中国語: 宝钢股份)。1977年11月に新日鉄会長稲山嘉寛が訪中した際に副主席李先念から建設協力要請で建設された宝山鋼鉄(集団)公司が前身[1]。
これらの支援は人と金に及び、中国や韓国の製鉄業が今日のように飛躍した大きな要因と言えるでしょう。つまり、 韓国や中国は日本が明治時代の官製八幡製鉄所から始まる技術開発、生産性拡張の歴史を一気にすっ飛ばすチートを戦後復興支援のもと使った ので今日のような鉄を基盤とした社会インフラの整備を達成できたといえるでしょう。
その傍証として、これらの支援を受けていなかったBRICs、東南アジア、中南米、アフリカ地域のGDPは未だにG7と比べると低い水準にあります。つまり、 自炊するよりコンビニ弁当買ってくるほうが当座は安上がり状態 から仲々抜け出せないのです。
まとめ
さて、この記事では、僕のJTC僻地工場勤務時の途上国での工事の体験から、途上国では鉄の手配が難しい、途上国での短期工事にはノックダウン生産的手段、つまり、現地の人員教育的な観点の不要な、人的資源の収奪的な方法を取らざるを得ないことをまず例示しました。
その次に、日本の製造業、そのうち特に製造業が鉄がふんだんにある環境でどのような恩恵があり、どのような社会が形成されるかについてまとめました。鉄を自前で安く調達できることで集約的で生産性の高い工業地帯を形成でき、そこに産業が生まれ、都市が形成されます。これはすなわち文明と言われるものです。鉄と文明が強い関係にあることを例示できたと思います。
そして、最後に未だ世界に経済的な格差があるのは鉄を大量に良い品質で作れるようになるには何らかの障壁があるのではないかということで、鉄を作る難しさについて考察しました。ここでは大規模な資本投下、インフラ整備、人材育成が必要なことを示しました。これらの投資というのは中長期的な投資に基づくものであり、一長一短になせるものではなく、それなりに大きな参入障壁であることがわかりました。
その例外として中国と韓国の例を示しました。これらの日本の支援は一方で自分たちの首を絞めるものだとインターネット上の保守の方から批判を受けるものではありますが、一方で、東アジア圏の発展により我々アジアが経済的、技術的に発展する基盤となったといえ、世界の中で先進国は欧米だけという状態に一撃を与え、より人種民族的な平等が達成されるようなきっかけとなるために必要なことなのではなかったのかなと思っています。
もし僕の記事が気に入ったらサポートお願いします。創作の励みになりますし、僕の貴重な源泉外のお小遣いになります。そして僕がおやつをたくさんかえるようになります。