ソニックユースの名曲に学ぶ変態バカチューニング
まえがき
いやあ、すっかり物憂げな6月の雨に打たれて愛に満ちた季節を想って歌う季節になりましたね〜。いかがお過ごしでしょうか〜。
ということで、恋する季節にぴったりの爽やかソング特集でもやってみましょうか♪
…というのができたらいいんですけど、そんなの知らないので、今回は、誰が興味あるのか分からない、ゴリゴリの《変則チューニング》の話でコソコソ燃え上がりましょう。
変則チューニングといったら、ソニックユース。ていうかこの人たち以外にまともに使い手を知らないです。彼らについて簡単におさらい。
いわゆるオルタナってやつの一族です。
このバンドの楽曲の特徴といえば「ノイズ」ですね。ジャンル名として「Noise Rock」なんて区分がされるくらいのインパクトがあります。
もう一つ技巧面では、ギターのチューニングが普通じゃないことも特徴です。
ギターのチューニングといえば、6弦から数えて「EADGBE」がスタンダードな訳です。このチューニングでは、隣り合う弦同士の間隔は半音5個分、ただし3弦(G)と2弦(B)の間隔だけは半音4個分…てな具合に、割と規則正しく並んでる訳です。
そしてこのチューニングを元に数々の名曲が書かれてきた訳ですが、ソニックユースは当たり前のようにレギュラーチューニングを全く使いません。じゃあどんなチューニングなの?ってところを以下では見ていきましょう。
GABDEG
まずは彼らの代表曲である「Teen Age Riot」から。仄暗い暗所で灯る一本の蝋燭がとてつもなく力強いアートワークで有名なアルバム「Daydream Nation」(1988)のオープニングトラック。
この曲のチューニングは「GABDEG」。何それ意味不明。レギュラーチューニングとくらべて、6本中5本は別の音階だ。
楽器に疎い人にはチューニングが違っていることの問題が分からないかも知れない。チューニングがレギュラーじゃなければ、ギター初心者の頃に頑張って覚えたコードのフォームとか、途方もなく面倒臭いけど我慢して覚えたギターリフの運指とかが全く運用できないのである。
「GABDEG」変則チューニングの場合ではそれぞれの弦の間隔が半音2つか3つしか開いてない。こんなチューニングで普通にギターソロとかフレーズとか弾こうと思っても弾きづらくてしょうがない。
とはいえ、ソニックユースもバカじゃありません(実際メンバーはインテリ君orちゃん達です)。何故チューニングを変えちゃうのかと言うと、独自の美しいコードワークを探求するためなのです。縛りプレイをやっている変態達観ギタリストとかではないのです。
この曲の前奏のゆらゆら煌めくようなギターのストロークは、とても不思議な響きがするが、実はめっちゃ簡単なのだ。長身で目立つ方のギタリストであるサーストン・ムーアは、このリフを弾くにあたって手首固定で指2本しか使ってない(実は元来彼がヘタクソだったから、簡単なテクニックで美しい響きが作れる変則チューニングに頼ることになった…みたいな噂も流れている)。
ほんで本編スタートして飛び込んでくる印象的なギターリフだが、まずド頭の音が3,4弦の開放弦で、そのあとも所々混じっている。そして、1,2弦の高音域と6弦開放をリフの1ループの中でガッツリワイドに活用してるのも珍しいが、よく考えたら6弦開放(G)から1弦開放(G)までの間隔がちょうど1オクターブしか開いていないので、印象的なフレーズを作るとなると自ずとそうなるのだろう(レギュラーチューニングなら2倍の間隔、ちょうど2オクターブ開いている)。
これと同じチューニングを使った曲は結構少ないようですが、「Sugar Kane」(1992)もそうみたいです。
こっちはレギュラーチューニングで弾いてみても、コード拾ってればサマになる感じがします(グランジ色強めだからかな)。とはいえ間奏のブレイクダウン的な箇所では全弦開放の独特なコードが強調されていて、独特のエッセンスは健在。丁寧にコピーするなら是非変則チューニングの方でどうぞ。
F♯F♯GGAA
次はごりごりのセンチメンタル路線(たぶん)の名曲「Schizophrenia」(1987)を取り上げます。
前半でずっと鳴ってる不思議な響きのギターリフがなんだか気になりますね。今回のチューニングは「F♯F♯GGAA」であります。さっきよりも2ランク上の意味不明度ですね。
全弦開放では3つの音階しか使ってないわけです。しかもギターリフでは5,6弦の低音は弾いてません。弦は4つ鳴らしてるものの、それぞれ3,4弦と1,2弦は常に揃ったポジション─つまりユニゾン─であり、リフは常に2つの音階だけで構成されてます(普通のコードっぽく聞かせるけど、5度の音とかが抜かれてたりメジャーorマイナーの音が抜かれてたりする)。
地味な方のギタリストのリー・ラナルドに言わせればこうです。
ちなみにこの記載元では、"同じ音を多くの違った弦で弾くことによって得られるコーラス効果"について、グレン・ブランカから学んだなどの話をしています。
あと、この曲で特に印象的なのが、ギターハーモニクスがずっと鳴ってる中間のパートですね。三音構成でユニゾンが形成されてるチューニング特有の響きが聞けます。
F♯F♯F♯F♯EB
「Schizophenia」はアルバム「Sister」(1987)のオープニングトラックですが、続く「Catholic Block」では、さらにイカれたチューニングの登場だ!
チューニングは上から「F♯F♯F♯F♯EB」だ。もはやチューニングの表記に見えない。このチューニングが使われ出した初期の名曲の名前にあやかってか、サーストンによれば「デス・バレー・チューニング」と呼ばれているらしい(和訳すれば《死の谷チューニング》…って厨二心くすぐりますね)。
3,4弦のF♯は5,6弦の1オクターブ上になっている。このチューニングでは低音弦をパワーコード的に人差し指で抑えることが多い。パワーコードですら完全5度の音を入れるものだが、この場合は完全に1つの音階しか使わないことになる。
なお、やはりこの曲では5,6弦の開放弦がルートになるので盛り上がるパートではそれがゴリゴリに強調される。
同じチューニングを使った曲はかなり多く、「100%」など、普通にレギュラーチューニングでパワーコードゴリ押しみたいに聞こえる曲に多い。
あとは、アルバム「Goo」(1990)のシングル「Kool Thing」もこのチューニングの代表格だろう。
この曲のプレイは流石にレギュラーでは上手いこといかないと思う。ここではサーストンもリーも同じチューニングで、同じくらい活躍してる。(だいたいの曲でリーは地味な気がするのだ…)
GGDDD♯D♯
さっきの三音構成&ユニゾン形成シリーズの亜種とも言えるのが「GGDDD♯D♯」というチューニング。ちなみに呼称は「ブラザー・ジェイムス・チューニング」だそうだ。
このチューニングは開放で全弦鳴らすと、なんとも落ち着かない響き、不協和音的な感じだ。
それもそのはず、キーがGと考えた時にD♯というのはスケールアウトしてる音階で、オーギュメントコード(aug)とか作る時に加える音だ。しかもDとD♯という組み合わせでも不協和音的ぶつかりだし、コイツは怪物だ。というかD♯が邪魔すぎるんだな。
とはいえ、低音弦は真っ当なパワーコードとしてガンガン使えるので登場頻度は多い。
初期の使用例は「Sister」収録の「Stereo Sanctity」(1987)が挙げられる。
いわゆる「ノイズ」地獄な世界観にこの歪なチューニングが一役買っている。
あと、新基軸を開いたアルバム「Washing Machine」(1995)収録のタイトルトラック「Washing Machine」とそれに続く「Unwind」でもサーストンが使っている。前者はロック的なダイナミクスは強調されていないが「ノイズ」地獄的世界に近い。後者はかなり優しいサウンドスケープでの起用が珍しい。
ACCGG♯C
次に紹介するのは「ACGG♯C」という、なんだか割と普通に見えてくるチューニングです(しっかり異常です)。
これはアルバム「Daydream Nation」で初出っぽい。代表的なのが「Silver Rocket」(1988)だ。
最初のアルペジオは全く聞いたことのないパターンの音に聞こえるが、この変則チューニングでは指一本のセーハでイケる。そして、5,4,3弦で普通にパワーコードになるあたりも地味に実用的。
もう一つ、同じアルバムの「Candle」のプレイも印象的だ。前奏でずっとギターのアルペジオだけが鳴っているところでこのチューニングの気持ちよさが伝わる。
終わり
今回は登場頻度多めの変則チューニングを多く紹介したので、またの機会に残りの面白い候補も取り上げたい。
「Schizophrenia」「Catholic Block」はこのアルバムに収録。
「Teen Age Riot」「Silver Rocket」「Candle」はこのアルバムに収録。
「Kool Thing」はこのアルバムに収録。
「100%」「Sugar Kane」はこのアルバムに収録。
「Wasing Machine」「Unwind」はこのアルバムに収録。
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それでは!