のびしろ。
退院して、しばらくは自由を謳歌していた。
私は以前、就労支援で働いていた。
そこの職員との繋がりがあり、
私の仕事をするにあたり、支援してくれる、
今度は利用者として、就労支援にお世話になる。
まずは、そこの就労支援に行く事を目標とし、
朝起きて、身支度を済ませて、いざ!って時に、
急に逃げ腰になってしまうのだ。
アパートのドアが頑丈な大きな門に見える。
ややしばらく、自問自答している。
なぜだ!なぜ!行けないんだ!
ドアを開ければ、それでいいはずなのに!
怖い…。
胸が苦しい…。
あーやばい…。
私は、負けてしまう。
行くと約束しているので、就労支援の職員から、
電話がきて、泣きながら現状を話す。
行きたいのに…行けないんです…。
ドアが怖いんです…。
こんな当たり前な事なのに…。
なんで、オレはダメな人間なんだろう…。
正直、悔しいんです…。
就労支援の職員は、
うん、うん、と聞いてくれる。
じゃあ、明日でもいいよ。
無理してまで、来る事はないし、
ダメな事じゃ全然ないからさ!
美味しいお茶を買ったんだ!
気が向いたら、飲みにおいで!
気遣いの言葉をもらい、
はい…行けたら行きます…。
なんか…すみません…。
泣けてくる。
外の世界が、まるで地獄の様に思えて、
怖くてたまらなくなる。
心音が身体中に脈打って、息苦しくなる。
自己嫌悪におちいっていると、
以前、とある利用者さんからもらった、
ステッカーが冷蔵庫に貼ってあった。
その一つに、
かわいいムササビのキャラクターに、
ある言葉が書かれていて、その言葉に救われた。
のびしろありまーす!
そう書いてあり、そうだ!
オレには、のびしろがある!
今がダメでも、これから大逆転してやる!
コツコツ少しづつでも、前に進めばいい!
オレには、のびしろがある!
そう、前向きになれたのだ。
次の日、約束の時間より早く身支度をし、
何も考えない様に、ドアに手を置き、
深呼吸すると、バッとドアを開けた。
ドアが開いた…。
ドアを開けれた!
やべ…泣きそう。
外の世界は、地獄でもなく、
梅雨の気配があり、薄暗いが現実の世界。
私は、そのまま何も考えない様にして、
その就労支援へ向かう。
何か考えてしまうとダメになりそうだから、
考える余裕を与えず、なんでもいいから、
的外れな事ばかり、考えて、無の境地に、
なる様に、目をつぶっては、深呼吸した。
就労支援に着くと、
職員はまだ朝のミーティング中で、
誰もいない。
どこからか、お茶のいい匂いがする。
あっ!これ!言ってたお茶だ!
ポットが置いてあり、
美味しいお茶、飲んで下さい。
と書いてある。
共有の棚に、いくつかの湯呑みが置いてある。
以前、私が置いといたお気に入りの湯呑みが、
紛れ込んでいて、私のかえりを待っていたのか、
久しぶりの再会に、嬉しくなる。
その湯呑みで、ポットのお茶を入れて、
手のひらで大切に包み込む様にして、
美味しいお茶を静かにすすり飲んだ。
のびしろがありまーす!
あのステッカーを、私がいつも使ってた、
ロッカーに貼り付けた。
就労支援の職員のミーティングも終わり、
久しぶりの人、初めましての人に、挨拶し、
まずは、私の担当してくれる職員は?と聞く。
すると、所長が担当してくれるとの事。
一番お世話になった人であり、
これから、かなりお世話になる人である。
持病の経過と状況を話し合い、
まずは、就労支援に来る事が出来るように、
なったら、次のステップに進もう!
という事で、とりあえず話し合い、
お茶菓子とお茶をたらふく、飲み食いして、
利用者は4時間しか利用できない。
次は約束できませんが、お先に失礼します!
と言って、就労支援を後にした。
家から出たついでに、銀行や、
買い出し等、出来る事をして帰った、
うむ…のびしろ…あるな!
ちょっと、前進した自分を褒めてあげました。
さぁ…明日は…行けるかな。
そして、何の仕事しよーかな…。
まぁ…受かればの話なのだが。