名前
私の名前は、しんさくです。
以前、投稿させてもらった、
「隠されたもう一つの生命の死」
で誕生日の事を綴りましたが、
もう一度書かせていただきます。
私が産まれたのは、多分北海道です。
母は、耳が聞こえない状態で、
17歳で私を産みました。
父は、私が産まれる前に姿を消しました。
なので、私は私生児です。
認知もしてくれなかったので、
母は貰えるはずの手当てすら貰えません。
私が産まれたその日に、
私の祖父母は他界しました。
私が産まれたのを見届けて、
その帰りに交通事故で亡くなりました。
そのせいで、母は唯一の肉親の姉と、
親戚一同に勘当として縁を切られました。
私を産んだばかりなので、
母は葬式にも行けず、亡骸にも会えず、
退院すると、すぐに最小限の荷物と共に、
北海道を逃げる様に離れました。
その事を知ったのは、
私が17歳の誕生日の日になります。
ある時、取り寄せた、
戸籍謄本では、本籍は今いる地名なので、
出生届は、こっちで出した事になります。
母も本籍はこっちの住所になってました。
それから、私の名前の由来は知らずに、
特に気にもせずに過ごしてました。
母が亡くなりました。
葬儀屋さんの助言で死亡届を出しに、
役所に行きます。
そこで、母の除籍謄本を役所で、
発行してもらいました。
そこには、北海道の地名と、
祖父母と叔母の名前が書いてありました。
そして、初めて気付きました。
私の名は祖父の名と一緒だと。
つまり、
母は自分の父の名を私に与えた。
私は祖父の名で生きていたのだ。
母はもういない…。
どうして、祖父の名を私に与えたのか。
命のバトン。
これは、憶測や推測でしかない。
母、いわゆる、かあちゃんは、
私に祖父の名前を与える事により、
これから孤独に生きる為に、
少しでも祖父の近くにいたかったのか…。
私が女だとしたら、
かあちゃんは、祖母の名を与えただろう。
そうする事で、
かあちゃんは生まれ育った故郷を、
忘れる事もなく、寂しくなっても、
私の名の中にいる、
祖父をお守りにしていたのかもしれない。
思い出したら、かあちゃんは、
私を名前で呼ぶ事はあまりなかった。
お前、あんた、おい、ちょっと、ねーねー、
と流れの様に、私を呼んでいた。
さすがに、祖父の名を呼ぶのは、
気が引けたのだろうか…。
もしかしたら、祖父は立派な人だった?
だから、
祖父の様に立派な人間になって欲しい。
そう思って、祖父の名を与えたのか?
もし、私の父が現れた時、
すぐに私があなたの子だとわかる様に、
ロマンチックにメッセージ的に、
与えたとしたら、ちょっと嫌だな…。
いや、
だとしたら、父の名を与えるだろう…。
うむ…謎だらけである。
こんな事になってるなんて、
思ってもいなかったもんだから、
今になって後悔するのである。
かあちゃんが生きていた時に、
ちゃんと名前の由来を、
聞いとくべきだったかもしれない…。
だが、かあちゃんの性格を考えると、
正直には、絶対に言わないだろうな…。
多分、かあちゃんは、
私が祖父の名と一緒だと、
気付かずに生きてて、
欲しかったのだと思う。
今さらながら、
私はこの、「しんさく」と言う名を、
語るには、その名に恥じない人生を、
送らなければと思ってしまう。
私には、
かあちゃんの血と、
祖父の名のもとで、生きている。
かあちゃんよ…。
正直に言わせてもらうよ。
じいちゃんの名を与えられ、
オレはすごーく荷が重いよ…。
かあちゃん。
どうして、こんな事したの?
このまま、知らなかったら、
ややこしくなるよ…。
同姓同名が二人だよ?
まぁ、かあちゃんなりに、
理由があったんだろ?
仕方ないなぁ…。
今さら漢字を変えるのに、
裁判所まで行きたくないし…。
オレ、案外気に入ってるんだ。
「しんさく」って響き。
かあちゃんのじいちゃんばあちゃんが、
しんさくって名前のつけたんだよね?
すごくセンスがいいね。
どんな、
ひいばあちゃんとひいじいちゃんだろう…。
もしかしたら、
祖父母が亡くなっている時には、
まだ生きていたかもしれない…。
相当な修羅場だったんだろうな…。
だから、逃げる様にこんな所まて、
ひっそりと暮らしていたのかな…。
申し訳ないと思って、
私の名におじいちゃんの名にしたのかな…。
そうだとしたら…かあちゃんだけではなく、
ひいじいちゃん、ひいばあちゃん、
じいちゃん、ばあちゃんの分まで、
私は、
この名前を背負って、生きてみせるよ。
なんたって、
かあちゃんの自慢の息子だもんな。
多分、
じいちゃんよりは長く生きてるだろう。
だって、かあちゃん17歳の時に、
じいちゃん死んだんだろ?
そう考えると、はるかに、
じいちゃんより長生きしてるはず。
除籍謄本取った時、よく見とけば、
良かった…。
住所と生年月日くらいは、載ってたはず…。
あーオレってバカだ。
でも…知らない事があっていいんだ。
知らない方が幸せかもしれない。
あの時、じいちゃんの名前を見て、
あまりにも衝撃すぎて、
何もかも記憶が吹っ飛んだもんな…。
かあちゃんの為に、
下手な詮索はしないでおくよ。
私は私なのだ。
だから、もうそれでいいんだよな。
でも、心強く感じるな…。
おじいちゃん自体がオレみたいなもんだろ?
ん?オレ自体がおじいちゃんなのか?
かあちゃん。
ありがとう。
かあちゃんが付けてくれた名前。
大切に大事にするからな。
安心して天国の、
ひいじいちゃん、ひいばあちゃん、
おじいちゃん、おばあちゃんと、
仲良く楽しく過ごしてくれよ。
天国でかあちゃん、怒られてたりして…。
なんだか、想像すると笑えるな。
とりあえず、
私は今を一生懸命に生きてます。
どうか見守ってて下さい。
二代目しんさくより。