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「清三」

 今ぁ寄席は
数えるほどしか有りませんが、
江戸の末期には
400を越える寄席が
あったそうで。
 もうそれは辻辻に、
どこの町内にも
寄席があるといった訳です。
ですから落語家も
たっくさん居たんですね。
 その頃は
落語はとっても身近な娯楽です。
寄席で落語を聴いちゃ、
ああだこうだと言ってまして。

● いゃぁ、
今日のトリ、
よかったなあ。
ぐっときたぜ幾代餅。

○ うんうん、
ぐっときた。
こっちまでくんなましちゃった
よ。

● ははは、
だけどよ、
あんな風に調子よく
くんなますもんかねぇ。

○ なに言ってんだい、
そりゃくんなますだろ。
清三だぜ。
おかしいかぃ。

● だってよ、
清三は初回だぜ。
初回でいきなりぁ
そらぁちょっと無いだろうよ。

○ そうかあ、
でもよ、
清三はウブなんだぜ、
清三の純真なウブさに
幾代太夫はまいったんじゃねぇ
か。
 ほら、幾代太夫が
「紙より薄い人情の
この世の中に」
って言ってただろう。

● いや、
いくらウブだからって、
そう簡単に惚れられないだろう
よ。
 オレだってよ肩上げ下ろす頃
あ、そりゃウブだったけどよ、
自慢じゃねぇけど、
オラぁモテなかったぞ。

〇そりゃ
おめえみたいなシタタカもんは
モテねえだろうよ。
 ん、
でもよ、
吉原の売れっ子太夫といやぁ
客はみんなお大尽だろう。
そりゃあみんな
立派なお偉いさんに違ぇねぇ。
 そんな中に、
右も左も分からねえような
ウブなのが紛れ込んでくりゃ、
そりや、
幾代太夫でなくたって、
こいつぁ可愛いなと
思うんじゃねぇか。

● いやいや、
そりゃ違うな。
 だってよ、
来た時あ
醤油問屋の若旦那って
ふれこみなんだぜ。
次にゃ馬の背に
千両箱持ってくるって
言ってんだよ。
 そりゃいいお客だと
思ってたはずだぜ。

〇ああ、まあ、ハナはな。
 でもよ、
海千山千の太夫だぜ、
口に出さなくったって、
そんなこたあすぐに
割れちまっててよ。
 だからきっと、
幾代太夫あ
きっとこのしとぁ
おバカな若旦那なんかじゃない
って思って見てたら
その清三の、
素直で実直な目に
見つめら返されたんだぜ。
 な、
そりゃ、
グッときたに違いねぇだろ。
 あ、
そうそう、
親方に
「ありゃ嘘だ」
って言われたときだってよ。
 オレだったら、むくれて、
「やってられねぇや」って、
「こんなとこぁいられねぇ」
って飛び出すぜ。
 それを
「だったら又患いついちゃいま
す」だなんて、
まあ、可愛いこと言うだろ。
あれだよあれ。
ウブで純。
素直で実直。
あんなふうだから
惚れられたんだろ。

● そぉかぁ。そおかなぁ。
それでモテるたぁ思えねぇなぁ。
 だいたい女なんてなぁ
気持ちだけで動かねぇもんじゃ
ねぇか。
 そんなふうに
マジに押すだけで
惚れてくれるんだったら、
オレなんかもうとっくに
モテモテのはずだぜよ。
 ウブで純ならモテるって。
そんなわきゃねぇ。
え、なに。
いゃぁ
オメェがいくらそう言ったって
そうは思えねぇな。
 それに、
「紙より薄い人情のこの世の中
に」って始まるのは朝の事だぜ。
 だろぅ。
だから惚れられたなあ、
朝よりずっと前のことだろうよ。
 そこだよそこ。
そこんとこあ
一番大事なとこなのによ。
そこやってくんないから
わかんねえんだよ。
「どこをどう気に入らいたのか
しと晩ゆっくりふたりで
過ごすことが出来まして」って
ただ聴いただけじゃ、
なんで清三が惚れられたのか、
しとっつもわかんねぇよなぁ。

○ うんうん、
ああ、
じゃじゃじゃあ、
詳しい先生に聴こうじゃねぇか。

● ん、誰よそれ。

○ 横町の藪井竹庵だよ。

● ヤブ医、あああ、
あの先生かい、
あははは、
確かに幾世餠の藪井竹庵に
似てるかもな。
女郎買い好きの医者だからな、
藪井竹庵そのものかもな。
あの先生なら清三のモテた訳を
知ってるかもしれねえ。

○ おお、行こ、行こう。

● 先生、お願げぇしますぅ。

★ はいはい、おお、クマさん。
これはこれは、
お前さんが患うとは
珍しいこともあるもんだ。
まあまあ、お入り。

● どうも先生、
いやじつぁ病気じゃねぇんすよ。
ちょいとききたいことが
ありあしてね。

★ おやおやなんだい。
おや、タケさんも一緒かい。
二人揃って
聴きたい事ってななんだい。

● それがですね。
こいつと話してて、
どうしても分かんねぇことが
ありあしてね。
まぁ、落語の事なんすけどね。
ぜし教えて欲しいんですよ。
 いやね。
先生は横丁一の落語好きだ。
ね。
で、そりゃ、おれたちよりゃ
いろいろとご存じでしょ。
ま、そこを見込んでの
お願いってやつでしてね。

★ ふぅぅん、落語かい。
まぁ、病も落語もな、
いったん取りつかれると
熱が出るからな。
そんなとこぁ、
似ていなくも無いか。
よしよし、どれどれ、
その教えて欲しいってなぁ、
なんなんだ。

● 幾代餅なんすよ。
あの清三ね。あいつ。
なんでああ上手い具合に
ああなっちゃったんすかね。
なぁ。

○ ええ、
こいつといろいろ考えたんすが、
どうにもわからねぇんすよ、
いや、
あんなにモテんなぁ
どうにもおかしいでしょ。
こりゃなんか
あるんじゃんじゃねぇかって
思いましてね。
ええ、
先生、どうですかねえ。
ありゃいってぇ
どうなってるんすかねぇ。

★ うんうん、なるほど、
お前たちゃなにかい、
その訳が分かったら、
それでもってその技で
モテようって魂胆かな。

● え、ま、ぁ、なぁ。

○ いやぁ、べつに、
そんなことぁ知らなくたって
モテちゃうけどね。
 先生、
オレ達ならモテんなぁわかる。
けどよ、
なんで恋煩いなんかで
寝込んじまうようなヘナチョコが
モテちまうのかと思ってね。
なあ。

● そう、そうなんすよ、
あいつぁヘナチョコすからね、
あの清三っての。
おかしいや、やっぱ、うんうん。

★ ははは、そうかい、
ま、いいだろ、
じゃ、教えてやろうかな。
でもな、
ここからはちょいと
大人の話になる。
 悪いが
子供らを少しでも避けるために、
ここからは有料にさせて貰うぞ。
 また、
今これを読んでる子供たち、
君たちにゃ悪いが、
この続きは君たちが
大人になってから
読んでもらいたい。
 さ、じゃあ、
お金を払ったら二人とも
もそっとこっちに来なさい。
 なんせ
大っきい声じゃ話せない。
かといって、
ちっちぇえ声じゃ
聞こえないからな。

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落語を考える事は限りなく深い森の姿を探求する旅のようなものです。森の中にいる私には、森の外から見ての意見で、見えないものが見えてくると思います。そして、一人より二人、二人より三人と、誰かと一緒に考えて行きたいです。スキ、コメント、サポート、みんな大歓迎です。よろしくお願いします。