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読書感想#30 【丹下健三】「MobilityとStability」「技術と人間」「東京計画ー1960」

 これからの都市計画において、その核となるのは都市軸です。都市軸とは即ち、都市を起点として成長する骨組みのようなものであり、これによって私たちは求心的なシステムを脱することが出来るようになるからです。求心的なシステムとは閉じられた社会以外の何ものでもありません。私たちは都市軸の導入によってようやく、この閉じた系そのものを否定し、それによって初めて社会を開くことが出来るようになるのです。


 閉じられた社会とは、権威的な象徴を中心とした静的な生活に他なりません。そこでの暮らしは全てが従属的であり、また消極的です。これに対し、開かれた社会では動く軸こそが暮らしの中心であり、動きこそがその象徴となるのです。ここでいう動きとは、私たちの生活とその環境の目まぐるしい変化に他なりません。この変化に対応することこそが社会の開きなのです。

 そしてこの変化にはまた、短期と長期との区分があるということを見逃してはなりません。それは即ち、流動と安定との混合という誤謬を意味するのであって、この限りにおいて、社会は閉じたものとなるからです。短期と長期との識別は社会を開くための第一歩なのです。


 短期は流行であり、それは個人の選択に一任されています。しかし社会という枠組みで考えるとき、個人の選択を規制する必要があるということも、もちろんいうまでもありません。それが長期なのです。即ち長期というのは時代の骨組なのです。


 これからの都市のあり様としては、この両者をしっかりと識別し、ある一時代を一つの安定した形で表現し得るようなものと、新陳代謝の如く流動的な個別細胞との、秩序ある組み合わせを考えて行く必要があります。確かに現代社会の構造は雑多大木であると同時に、私たち人間は変わらず、一メートル足らずの歩幅で歩いているのです。この変わることのない人間的スケールに周囲を取り囲まれながら、私たちは日々、壮大なスケールを営んでいます。一方では短期的な変化、即ち個人の自発性に基づく自由を許されながら、長期に渡って時代のシステムが規定されている、この両極を有機的に関連づけ、そして都市空間の新しい秩序を探求して行くことが、いわばこれからの都市計画なのです。


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