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ビーフは支配者の話すフランス語から

英語で牛肉をビーフ、豚肉をポーク、羊肉をマトンと言う。牛はカウやオックス、豚はピッグ、羊はシープなのに、肉の名は違う。
日本でも、馬肉をサクラ、イノシシ肉をボタン、鹿肉をモミジ、鶏肉をカシワと言うようなものだと思っていたが、調べれば、その起源は、ノルマン・コンクエストに遡るようだ。

1066年、ノルマンディー公国のウィリアム征服王がイングランド国王を破り、イングランドを支配した。このノルマン王朝の支配者たちは、フランス語を話したので、数々のフランス語の言葉が英語に入りこんで、牛を意味するビーフが牛肉の意味になったという。

こういう説を自ら確かめるのはかなりやっかいで、古フランス語→古英語→現代英語を調べる手立てがなければならないが、あいにく手元に辞書がない。ネット情報から分かるものを書くと、

牛は、
古フランス語 buef   / 現代フランス語 Vache
古英語 cū /  現代英語 cow
牛肉は、
古フランス語 ?   / 現代フランス語 bœuf 
古英語 ?  / 中世英語 boef/ 現代英語 beef

豚は、
古フランス語 porc   / 現代フランス語 cochon
/古英語 picg /  現代英語 pig
豚肉は、
古フランス語 ?  / 現代フランス語 porc
/古英語 ? /  中世英語 pork/ 現代英語 pork

羊は、
古フランス語 moton   / 現代フランス語 mouton/ 古英語  sceap /  現代英語 sheep
羊肉は、
古フランス語 ?   / 現代フランス語 Viande de mouton / 古英語 ?/ 中世英語 motoun /  現代英語 mutton

(古英語、中世英語は、「天才英単語」による)

イングランドの農民が牛を育てているときは、 cū(古英語)と呼ばれ、貴族たちが食べるときには、フランス風にboefと名前が変わった。貴族たちが話すフランス語が上流階級の言葉として、英語に入り定着した。英語には二層化した階級文化の名残りがあるようだ。Restaurant、Mirror、Music、Table、Parliament、Government、Carpenter等がフランス語由来だ。

ビーフやポークが古フランス語に由来することは確かだ。古英語では、牛肉、豚肉、羊肉を何と言ったか分からないが、多分、牛の肉、豚の肉、羊の肉のように言っていたのではないか。

ただ、今ではフランスでは、牛肉はbœuf、豚肉はporcであるが、牛はbuef→Vacheに、豚はporc→cochonに変わっているのが不思議だ。

支配者の話す言語が庶民の言葉に入るということは、ノルマン・コンクエストの時だけではない。進んだ国の言葉が流入することは、日本人も漢字や英語で経験している。

支配者は、被支配者の言葉を話さない。それでよく統治ができるものだと思うが、力による支配ではそれが可能なのだろう。歴史的には、支配者の言語を強制する教育が行われたこともある。

しかし、いつの間にか、支配者は、支配地に同化して、被支配者の言葉を話すようになるのも、自然の理のようだ。やはり、民の力は大きい。



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