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5月のローストビーフ

ジューンブライドというくらいだから6月の結婚式は多いのだろう。

しかし誕生日となるとどうだろうか。何月生まれの人の割合は他より高いとか、どこかに統計がありそうではある。

私の知人にはなぜか5月生まれが多い。梅雨を迎えるまえの穏やかで、さわやかな季節。生まれ月は人格にも影響があると思う。

今週、内輪で簡単なお祝いの食事を出すことになった。

簡単とはいえ肉好きのあの人のために、何か華やかなものを、と考えてローストビーフにすることにした。

私は作ったことがないけれど、近所に美味しい手作りのハム屋がある。ソーセージやハムを買うときにいつも、「いつかはローストビーフを試してみたいなあ」と思っていたところ。

売り切れてしまわないように予約をしようと電話をかけた。約束の日の3日ほど前のことである。

「いまローストビーフはやっていないんですよ」

電話にでた男性は申し訳なさそうに言った。3日後なんですけど、それでもダメですか?すみません、材料の肉がなくて・・・入ってこないんです。

残念。

ローストビーフという思いつきは素晴らしいように思えたのに。諦めきれない。

ふと白金台の朝日屋さんを思い出した。松坂牛専門店で、三重から鳴り物入りで東京進出。白金台のドンキホーテの中に店を構えているらしい。うちからも遠くない。電話をかけて「ローストビーフ、置いていますか?」と聞くと、「解凍と生肉がありますよ。」という返事。はて、解凍は冷凍品という意味だろう、生肉とはどういう意味?ローストビーフの中のほうは確かに生だけど・・・

私の頭の中は一瞬???、しかし次の瞬間、ようやくわかった。そうか、調理前の生肉塊ということね。

「でも解凍品って言っても、素人が作ったものよりきっと美味しいですよね?」

「どうでしょう、僕は味が濃いと思うんです」

「でもでも、素人が作ってもそんな、上手にできないですよね?」

「いや結構皆さん作られますよ、僕もyoutube見て作りました」

・・・。そこまで言われたら私もやらざるを得ないではないか。とうとう生の肉塊を予約して、電話を切った。

当日、店に向かう私の心は不安しかなかった。実はドンキホーテというお店が少し苦手だ。そそっかしいので積まれた商品を落としてしまいそうで怖くて仕方がない。その恐怖の通路を辿って、奥にある朝日屋さんのショーケースの前へ。電話で予約していたものです、と告げると、すぐに出てきた、私の(!)お肉が。

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う、美しい。こんな芸術品を私のようなものが調理してしまっていいのだろうか。

しかしこの宝石のような断面を見ているとやる気しか湧いてこない。用意してきた保冷バッグにいそいそと肉を詰め、急いで帰る。

youtubeはもちろんcookpadもあれもこれも、いろんなローストビーフのレシピを調べてあった。その中で最もうちの台所にあう、好みに合う、そして私の力量に合うと思われるレシピを選んだ。ソースに使う玉ねぎの擦り下ろしすら初めてでドキドキする。

形崩れしないようにタコ糸でぐるぐるに肉を縛り、赤ワイン、ニンニク、塩胡椒に漬け込む。それをまずは強火で焼き付け、そのあとはごく弱火、回転させながら丁寧に焼く。この焼き時間が難しいところだが、焼き過ぎは取り返しがつかないので10分と短めに決めた。焼き終わったらアルミホイルで包み、まだ熱いフライパンに戻して冷めるまで余熱でさらに加熱する。完成だ。確かに工程はシンプルである。冷蔵庫にしまって、明日を待つことにする。

夜、ちょっとした買い物で外に出ているときに、明日は屋外で食事するのはどうだろう、と連絡があった。うんうん、それなら付け合わせで買ってあったクレソンと一緒にローストビーフサンドにしよう、卵サラダもできるから、あとはサンドイッチ用のパンと、サーモンも欲しいな。ちょうど歩くすぐ先に24時間営業のスーパーがある。

帰ったら、念入りに包丁をとごう。ローストビーフを薄ーく切るために。買い物を済ませると、夜の風が心地よく髪を梳いていった。

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