一度だけの蕎麦打ち体験
蕎麦の乾麺をスーパーの棚から探すときに、食塩無添加かどうかをつい見てしまう。スーパーでは、たまに食塩無添加の乾麺を見かけて、その技につい惹かれてしまう。うどんは、小麦粉のグルテンの働きを出すために塩を入れざるを得ない。しかし蕎麦は塩がなくても打つことができる。十割そばで塩つなぎはありえない。しかも蕎麦湯が飲める。そんなそば粉だけの蕎麦打ち体験を随分と昔のことだが、一度だけ新潟県六日町のJAが主催する農業体験の中でした。
そば粉、水に、つなぎは、やまいもだった。初めての体験だ。そば粉をこねて、伸ばして、切るまでを奮闘した結果、太い所や細い所が混ざり合い、長いものや短いものがある奇妙な蕎麦が出来上がった。とても食べたくなるような代物でない。
スタッフから「今日はそば粉打ち名人の先生に来ていただいてます。先生の打った蕎麦を召し上がれます。」と喜びの言葉もつかの間に、それに続いて「ただし自分で打った蕎麦は、ご自分で責任を持って食べていただきます」の言葉に覚悟を決めた。
やがて、茹で上がった蕎麦が現れた。やはり太かったり細かったり、長かったり短かったりという奇妙な蕎麦だった。ツルツルとは行かずに、ボソボソと蕎麦がきを食べているような感じである。
やがてお待ちかねの先生の打った蕎麦が現れた。やはり蕎麦が細くて長い。蕎麦を箸でつまんで、蕎麦猪口に浸すと、細い蕎麦の間から蕎麦つゆが上昇し、ツルツルと食べられて美味しい。食塩を入れない、打ちたて、切りたて、茹でたての憧れの十割そばが食べられた。やはり、職人の技はたいしたものだなと感心した。