ノーサイドという言葉を私に教えてくれたのは、2009年10月24日の札幌ドームでした
昨日の朝の風景。
雨上がりの朝。
通勤途中の道路沿いに広がる森林公園では、木々の若葉が一昨日よりも鮮やかに色濃くなっていた。
まだ渋滞が始まる前の国道前の交差点では、濡れた路面が朝日に輝いていた。
晴れて良かった。心からそう思った。
その前日、楽天モバイルパーク宮城で予定されていたプロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルス対北海道日本ハムファイターズの試合は、雨天中止になっていた。
三連戦の初戦となった4月24日もまた、小雨降る中の開催だった。
試合は延長の末にファイターズが勝利を収めたのだが、敗れたイーグルスもまたファイターズにリードされていた8回に代打で登場した茂木栄五郎選手がソロホームランを放って同点に追いつく等、見ごたえのある試合だった。
順位でいえば、ファイターズは現在2位。イーグルスは試合時点で5位。けれど、その試合内容はまるでシーズン終盤の優勝争いのような好ゲーム。両チームともベンチの雰囲気の良さも伝わってきただけに、この三連戦はおもしろいことになるぞと楽しみにしていた。
そんな翌日の、雨天中止だったのだ。
晴れて良かった。今日はテレビで応援観戦出来る時間に帰宅できるよう頑張るぞと思いながら、私は会社に向かっていた。
ちなみに我が家はイーグルスファンの夫とファイターズファンの妻という夫婦なのだが、一緒に観戦していても険悪になることは無い。
これは夫の温厚な性格によるところが大きいけれど、私も夫も自分の推しチームを応援する気持ちと同じくらいに「野球が好き」だからなのかもしれない。
もちろん、好きなチームが勝てば嬉しい。負ければ悔しい。勝てずに落ち込んでいく選手たちを見ると悲しくもなる。
けれど、対戦相手がいなければ、試合そのものが成立しない。
観戦出来ること、応援出来ること、それは本当に嬉しくて、幸せなことだと思う。
私には、忘れられない場面がある。
2009年10月24日。私は、札幌ドームの外野席にいた。
札幌ドームで行われたパ・リーグのクライマックスシリーズ第4戦。パ・リーグ首位の北海道日本ハムファイターズと2位の東北楽天ゴールデンイーグルスの試合は、9-4でファイターズが勝利を収め日本シリーズ進出を決めた。
東北楽天ゴールデンイーグルスは、チームを率いて4年目の野村克也監督がそのシーズン限りで退任することをすでに発表していた。
もちろん、私はファイターズを応援していた。試合終了の瞬間は日本シリーズ進出決定に歓喜した。
けれど、試合が終わると同時に込み上げてきた思いがあった。
ノムさん、これで最後なんだ。
そんな思いを抱いていたのは、私だけでは無かったと思う。
あの日、試合が終盤に差し掛かるにつれて球場全体を包んでいた空気を言葉にするのは、今こうして振り返っても難しい。
試合後、イーグルス側の応援席に向かう野村監督とイーグルスの選手達。けれど、惜しみない拍手と声援は、ファイターズのファンからも上がっていた。
あれは、試合終了から何分くらい経った頃だったか。
ファイターズの吉井理人ピッチングコーチ(現千葉ロッテマリーンズ監督)がイーグルスの選手たちの輪に駆け寄り、野村監督に握手を求めた。稲葉篤紀選手(現北海道日本ハムファイターズ二軍監督)も駆け寄り握手を求める。そして、ファイターズの選手やスタッフも次々と。
やがて始まった、東北楽天ゴールデンイーグルスの選手・スタッフによる野村監督の胴上げ。
その輪には、ファイターズの面々も加わっていた。
胴上げの後、両チームの監督と選手たちは場内を一周してくれた。
もちろん、イーグルスの選手たちの表情は、笑顔ばかりではなかった。最後に野村監督を日本シリーズへ、という願いが叶わなかったのだ。涙もあれば、悔しさをにじませたままの選手もたくさんいた。一方、日本シリーズ進出を決めたファイターズの選手達もまた、笑顔ばかりではなかった。ファイターズにとっては、まだシーズンは終わっていない。日本シリーズに向けてここからがまたスタートだ、というような、引き締まった表情が選手達にはあった。
それでも、両チームの選手たちがごちゃ混ぜになり、言葉を交わしながらスタジアムに手を振っていたあの光景は、今も忘れられない。
「ノーサイド」という言葉は、以前から知っていた。それがラグビーにおいて、試合が終われば敵も味方も関係なくお互いの健闘を称え合うというものだということも。
けれど、
私にその言葉の意味と素晴らしさを実感させてくれたのは、あの日、札幌ドームにいた人達だった。
雨天中止を挟んで開催された昨夜の東北楽天ゴールデンイーグルス対北海道日本ハムファイターズの試合は、5-1で東北楽天ゴールデンイーグルスが勝利を収めた。
東北楽天ゴールデンイーグルスは、ここまで勝ちに恵まれなかった39歳のベテラン岸孝之投手が7回8安打1失点、4奪三振で今季初勝利。小郷裕哉選手が初回に初球先頭打者本塁打で先制、5回には浅村栄斗選手にも2号3ランが出るなど、投打が噛み合っての快勝だった。
敗れて連勝ストップとなった我が北海道日本ハムファイターズも、今季初先発の鈴木健矢投手は4回6安打2失点。初回が悔やまれるものの、今後の登板に期待の持てる内容だった。攻撃面では6回に万波、マルティネス、田宮の3連打でもぎ取った1点だけではあったけれど、得点にはつながらなかったものの9回の怒涛の攻撃が本当に凄くて、これは逆転もあり得るのではと一瞬思ったほどだった。
口惜しい敗戦だけれど、次につながる試合だったと思う。
良い試合だった。
野球のある毎日は、楽しい。
応援出来るものがあるのは、幸せだ。
さぁ楽しんでいこう。