北朝鮮へのエクソダス
この本は、日本の終戦直後にはじまった、朝鮮半島を出自とする人々の、日本から北朝鮮への帰国事業について書かれたもので、英国生まれのオーストラリア国立大学の教授が、赤十字国際委員会の歴史文書の丹念な調査や、当事者に対するインタビューにより、事業の全体像を描いた力作です
この本は、2007年に書かれた本ですが、僕がこの本の存在を知ったのがつい最近で、図書館でリクエストして数日前に読み終えたところです。
北朝鮮への帰国事業のことについては、既に高校生の時から知っていましたが、これまでは「当時の日本は貧しく、一方で北朝鮮は「理想の地」だと喧伝されて実像は外部に知らされず、結果的に騙されたかたちで、多くの人が北朝鮮に行ってしまったのだろう」といった程度の認識しかありませんでした。
北朝鮮の帰国事業については、当事者の多くが北朝鮮にわたり、その後の正確な消息がわからなくなっており、もともと、当事者へのアクセスが難しいことや、
本が書かれた時点でも、既に事業実施から半世紀が経過し、生き証人も少なく、関係者が複雑に関わって全体像がわかりにくうえに、当事者の一方である北朝鮮当局からは情報が得られず、赤十字国際委員会の機密解除資料など、限られた資料をもとに書かれていることから、この本についての評価も、分かれているようです。
ただ、日本が敗戦後、戦争継続によって生産力が極端に低下したところに、戦地や大陸から復員兵や一般国民が大挙帰国し、朝鮮半島出身者の立ち位置も微妙になり、さらには半島が南北に分断、しかも南の李承晩政権と日本は正式な国交もなく、むしろ一触触発の緊張関係にあり、南北の経済力や政治体制も現代とは大きく異なる環境下では、北朝鮮ヘの帰還、時の金日成政権に望みを託するのは、今考えるほど荒唐無稽ではなかったのだろうと思います。
ただ、受け入れ側にとってもキャパオーバーとなり、その後の成長曲線が想定を大きく下回ったことと、国際関係の変化、資源に乏しい韓国側の漢江の奇跡と言われる急成長もあり、結果的にその選択は多くの人にとって正解ではなかったわけですが、変化の時代に正解を選び取るのは容易ではなく、歴史の狭間に取り残される人は必ずいるわけで、これからも繰り返されるのだろうと思います。
さまざまな人の思い、打算と希望と無責任が混ざりあい、誰かの責に帰することも難しく、読み終えてなんともやるせない気持ちになりました。