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正直に言うことが得策とは限らない

僕が勤務している会社は、いわゆる終身雇用の文化が根強く残る環境です。"骨を埋める"という言葉がまだ生きていて、一つの会社で長く働くことが美徳とされている雰囲気があります。

そうした風土が人事サイドに特に色濃く、昨今はその価値観をぶち壊されるように、若手が気軽に退職するため、転職という言葉を軽々しく話題にすることは、逆鱗に触れる気配もあり、難しいと感じる出来事がありました。

社会全体では、人材の流動化が進み、以前よりも転職が一般的になっています。実際、付き合いのある他の業界では、前々から担当者が別会社の担当者として再び現れることがあり、しばしば戸惑うこともありましたが、こうしたことは、だいぶ違和感なく受け入れられるようになっていると感じます。

僕の会社はそうした風潮とはまだ距離があり、組織内での文化も変化が遅いように思います。

若い社員は辞めることに対しては、基本的には会社側は、強く引き止める姿勢を取りますし、この風潮を広めてはならない、採用計画はあくまで新卒中心であるべきだという雰囲気を強く感じます。

このような文化の中で、特に「分別のある」と人事からみなされている、ミドル層が転職活動を始めた段階でそのことを人事に伝えるのは、非常にリスキーだと感じます。なぜなら、その後うまくいかなかった場合、再び元の立場に戻ることが非常に難しくなるからです。立場は戻るにせよ、ある種の「組織内異邦人」として、色眼鏡で見られるようになります。

こうした状況を踏まえると、個人としては、会社との関係をある程度ドライに捉える必要があると感じます。もちろん、会社への忠誠心や感謝の気持ちがあるのは良いことですが、それを理由に、早い段階からすべてをオープンにしてしまうのは、結果的にお互いのためにならない場合もあります。

僕自身、このことを考える中で、最終的には転職が確定した段階で通告するのがベストだと結論づけました。その際に重要なのは、引き継ぎをしっかり行うことです。業務を円滑に引き渡すことで、会社側への配慮を示しつつ、自分の新しいキャリアに向けた準備を進めることができるからです。

一つの会社で長く働くことには安定感や信頼関係という大きな利点がありますが、昨今、組織が個人を一度抱えれば、最後まで面倒を見るということ自体が、足元から崩れつつあり、個人のキャリアを自分で切り拓くことも求められ、個人の立ち位置が、不安定になっていると思います。

その一方で、会社の人事が、忠誠心をある程度の評価尺度としている場合は、そこにまともにぶつかるのではなく、価値観の違う者同士が、何となくぶつかる前にお互い道を避けて衝突を回避する、そんなある種の気遣いも、良い意味の処世術として、大事だと感じます。

うちの会社の場合、転職事例が少ないので、このへんをまともにアドバイスできる人も周りに皆無であり、転職して人生を切り拓く人へのサポートは、ほぼないと言って過言ではありません。

僕としては、骨を埋める文化の中の、隠れた異邦人として、転職により未来を切り拓こうとする人には、組織との間では隠し事も必要であることを、縁に触れ、伝えるような役回りも担えればと思います。

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