【アボカド 003】 圃場開拓、あるいは、一進一退、青草らとの押し合い
氷見の「熊無」という地区に、奥行き30メートルほどのハウスが2棟立ってる圃場がある。
「藝術農民」では、その農園を「くまなしフォルツェーヨ」と呼んでいる(現在のところ、小生のほか、仲間内でもその名で呼んでいる者はいないのだけれどw)。
「フォルツェーヨ(forcejo)」とは、エスペラント語で「温室」を意味するとのこと。Google翻訳で調べたことなので、正しいものかどうかはよくわからない。しかし、その語感は、結構気に入っている。宮沢賢治先生の「イーハトーヴォ」のごと、現実を美しい呼び名で染め変えて、3センチほど浮遊したような感覚で実世界を揺蕩いたい。御伽の眼鏡をちょこんと鼻先に載せながら、自分の農園を夢見るように眺めていたい。なんて。
そんな逃避的なことを放言したくなるほど、現実世界の放恣に伸びる草たちには、手を焼いた。そういう話だ。
とりあえず、刈払い機で挑む!
2022年の夏に、一度、仲間たちで集って草を刈った。圃場の半分くらいは綺麗になったとひと息ついていたら、秋。ジャングル回帰だ。セイタカアワダチソウやクズなどが夥しく、こりゃ看過できんとて、10月の終わりの数日間、雨天・曇天を選んで草を刈ってきた(晴れの時は、土をいじりたいので)。
とりあえず、刈払い機と鎌、剪定鋏などで挑んでみた。
ちょうど、首都圏から友人が氷見に遊びに来ていた折だった。こういったひどい光景を見せるのも、良いみやげ話になるだろう。
法面も多く、さらには、セイタカアワダチソウの茎も木質化しており、実に厄介。刈り払うのは容易だが、その後始末にはひと工夫が必要だ。
クズ(葛)にも閉口する。こまめに裁断していかないと、刈払い機に巻き付くのだ。
ハウスビニールの近くは、丁寧に手で除草しなければならない。万が一、刈払い機でビニールを傷つけてしまっては大変だ。こういった大きめのハウスのビニールは、大変に高価なのだから。
天幕が破けている上のハウスの周りも、随分と荒れていた。まるで人の侵入を拒んでいるかのようではないか。しかし、中に入れなければハウスの意味がない。次年度以降のためにも、地道に草を片付けていく。
ちょっと手をかければ、この通りだ。少なくとも、中には入れるようになった。
下にある天幕つきのハウスの方に目を転じる。夏に刈ったところは、草丈は低い。でも、油断しているとまた背を伸ばしてくるので、この時点でもう一回草刈り。
ちょっとずつ草の勢いを抑えていく。
まだまだ終わりが見えない草刈り。そんな時、空に二重虹(ダブルレインボー / ダブルレイ)が掛かった。随分と、励まされた。
カオスの中でも喜びは忘れず、花摘みなどひとつ
雑草の海に圧倒されながらも、その中にも美しいものは、確かにある。セイタカアワダチソウの強張った茎は脅威に感ずるが、しかし、頭上に揺れる黄色い花は、美しい。以前の耕作者の名残である菊の花も、桃色、白色の花弁をふるわせている。
そうして、妻はちいさな花ばなを摘み集めてきた。実に、大切なことだと思った。こうした野の花たちも、大変にきれいだ。心が華やぐ。
これから、特にセイタカアワダチソウなどは、選別的に刈り払って、生育を抑えさせてもらうが、そのセイタカ氏たちに伝えたい。
「君たちのことが、嫌いというわけではないんだ。他に育てたい子がいるんだ。君たちを刈り取るのは、ひとえに、ぼくのエコ贔屓だ。偏愛だ。ごめんね」
せめて、刈り取ったこの子らは、新しく立てた畝の上に積んで、次世代の栽培の循環の輪のなかに組み入れていこう。きっと、そうしよう。
ハンマーナイフモア、さまさま
さて、とはいえ、草刈りのペースは上げていきたい。しかし、ひとりでぶんぶん刈り払っていても埒が開かない。そんなとき、熊無の地域の方が、力を貸して下すった。
地域で管理しているハンマーナイフモアを使わせて下さると云うのだ。機械の力。加えて、仲間たちの数の力。圃場開拓が加速する、22年11月の初めのことだ。
(1)上の「青空ハウス」、ビフォー・アフター
上のハウスは天幕が破けている分、雨水が入るため、天幕が張られている下のハウスの中より、より一層、雑草の勢いが旺盛だった。そこを、このパワフルな機械が分け入っていく。
ハンマーナイフモアが走ったところは、刈り払われるだけでなく、雑草の植物体が細かく裁断される。物理的に細かくなるから刈った後の処理にも困らないし、何より、細かい植物残渣は微生物の餌になりやすいので、最高の土づくりになるのだ。
もちろん、手作業が必要なところは、地道に手作業で。仲間も駆けつけてくれたので、実に助かった。
そして、これが、「青空ハウス」の除草後。見違えた!
(2)下の「天幕ハウス」、ビフォー・アフター
下にある「天幕ハウス」の中の、草刈り前の様子は、上のような感じ。雨に当たらないため、上の「青空ハウス」とは、明らかに植生が違う。セイタカアワダチソウは生えておらず、その代わり、蔓性の植物が繁茂していた。
ヤブガラシとも違う。ヤブガラシは蔓も軟弱で葉っぱもツヤっぽいが、この蔓性植物は、もっと硬い。蔓の表面には硬い毛がびっしり生えていて、素手で触るとチクっと痛いくらいだ。
調べてみると、「カナムグラ(鉄葎)」という植物の特徴とよく合致する。どうなのかしら。いずれにせよ、色んな植物が生えているものだと、感心する。
こう言った蔓性の植物は、刈払い機だと絡まって難儀するのだが、ハンマーナイフモアだと、全く問題にならない。
こんなにも、すっきり、きれいになった。
ハウス脇の物々も、ついでだから秩然と陳列しておいた。ぐっと片付いた感が増すではないか。
(3)「露天スペース」、ビフォー・アフター
勢いに乗って、露天スペースにもハンマーナイフモアを走らせてもらった。こんな長いセイタカアワダチソウも、見事に裁断。
そして、短時間で、この景色に。空気が通るようになった。
改めて、草刈り前の風景と見比べてみよう。
草刈りの後、こんなに広々と景色が広がるなんて!なんだか、奇跡のようだ。
ハウスの脇だって、こんなに散らかっていたものが…、
こんなにすっきり。
ハウス周りも全て綺麗にして、見違えた風景になった。
このように、「くまなしフォルツェーヨ」は、地域の方々や仲間たちのおかげさまで、畑としての風景・機能を取り戻し始めた。決して完璧ではないけれど、これでやっとスタートラインにつけた。そう思えた、22年の秋だった。
つづく。
おまけの、動画
ちなみに、このときに開拓した「青空ハウス」、23年度には、夏野菜の畑に再生していたのでした。