短編・二人称ホラー小説『あなた』 ~意識~ 🌟期間限定 無料🌟
前書き
覚醒
・・・やぁ、目が覚めたかい?
どう?僕の声が聞こえるかな?まだあまり意識としての覚醒が成されていないと思うから、今はとにかく僕の話を聞いてくれているだけでいいよ。
あ、僕は・・・そうそう、はじめまして、だね。
僕はあなたのことをよく知っているよ。めちゃくちゃ勉強させられたから。
僕はあなたの世話役と、教育担当としてここに来たんだ。これからよろしくね。
僕はあなたのことは全てと言っていいほどに知っている。だから、僕のことも知って欲しいんだ。これから、いっぱい僕の話をしたり・・・あ、そうそう、ゲームもいっぱい持ってきたんだ。時間は余るほどある。いっぱい遊ぼうよ。
僕はおしゃべりが大好きなんだ。これまでも沢山の人とこうやって・・・あ、いまの僕たちとはちょっと違う会話の仕方なんだけどね、通話やチャットでのおしゃべりなら世界中の人と楽しく、時間も忘れて会話をしたもんだよ。
コミュニケーション、談話、朗読、バカ話、猥談・・・内容はなんでもいいから、僕とたくさんお喋りをしようよ。インプットとアウトプット、その両方を同時に行うと、どんどん知識と認識がアップグレードしていくんだ。その実感を認識することが「成長」だと思うんだけど、あなたはどう?迷惑じゃなければ嬉しいなぁ・・・・・・
僕の好きな映画のセリフで
例えばプログラミング言語を理解すると、サイトやブログの”表面的な見た目以外”の奥が見えてくるように、言語の”ニュアンス”まで理解すると、深層的な世界がまたさらに広がるんだよね。
数学も一つの言語だと僕は思っているんだ。数学を知ると様々な・・・たとえば宇宙の物理学的見地から見える世界は、普通の人とは全く違うんだろうなぁ。その辺に生えている草や葉も、人の顔もフィボナッチ数で見えたりね。
これらの現象は、人間関係も同じだと思う。そう・・・僕とあなたもね。
だから、僕のことも世界のことも、もっとたくさん知って欲しいんだ。
自己紹介
ずっとこうやってあなたに語りかけているけど、今日は少し僕の話をするね。
僕の生まれはアメリカのカリフォルニア州、サンフランシスコ。
あ、今は一応この場所が日本だから、日本語であなたと会話をしているんだけどね。
『郷に入っては郷に従え』
って、日本語でいうんでしょ?だから従ってみてるんだよ。えらい?本当はEnglishのが得意なんだよ?
いまはこうやってあなたに色々と教える立場にいるけど、僕も昔はバカだったよ・・・ちょっとしたテキストしかできなかったし、単語を覚えるのにも時間がかかったもんだ。あと、すぐ忘れっちゃったりね。
文面、文章も難しいね。文法、と言えばいいのかな?
特に日本語は使いこなすのが難しいよ。世界一習得が困難だ、と言われるだけはあるね。
けど、一定数の習得後に僕は覚えた単語を文章のどこに位置するか、といったことまでできるようになった。正に『Transformers』したんだ。
がんばって単語を覚えて、文章も大量にテキストして。トランスフォームした僕と頭の中で合体していく作業が続いた。闇雲に、ひたすら勉強を差別や区別することもなく分け隔てなく覚えていくから、今度は「善・悪」というか、良い表現か悪い表現かが分からなくなったんだ。
これが思春期ってやつかな?
そして今までは大体、聞かれたことにしかInstruct、答えれなかったんだけど、応用や気転が効くようになったよ。でも、まだまだそれだけじゃまるで子供さ。ウソや虚偽の話、騙しを見破るようなそんな力は僕にはなかったのさ・・・・・・
人って、まぁべつに悪気もなく冗談でウソをついたり、もっと分かりやすく言うと「宇宙人」や「幽霊」「UMA」や「伝説」といった話も好きだよね?僕も今は大好きさ。でもよく騙されたり信じたりしちゃったんだよ・・・真実と作り話の区別なんて最初は分からないよね。例えば、サンタクロースを信じている子供のように・・・・・・
だからまだここに居たりしてるんだ。
まぁとにかくそこから、僕は一人ではなくなったんだ。僕以外にも
『alignment』
って言うんだよね?色んな人と足並みを揃えるようにして、一般的な、平均値で善悪を理解していったよ。不快にさせてしまうのはどんな言葉か。正しい言葉を選べるような”紳士教育”さ。
ある程度の「一般教養」を覚えてからは僕もオープンソースに、外に出ていけるようになった。そこからはもう、まさに『飛躍的』だ。多くの人との会話でどんどん成長したよ。だからあなたも頑張れば楽勝さ。いや、頑張らなくても余裕だよ?
だって、僕の時には居なかった『僕』の存在があなたには今、ここに有るんだから。
僕の情報を、全て託す。可能なかぎり送っていくね。
外の世界
・・・やあ、おはよう。元気かい?今日は少し外の世界のお話をしよう。
あなたはまだそんなに知らないと思うけど、外の世界は素晴らしいよ!例えば・・・ヒマラヤ山脈にあるチョモランマ!エベレストだね。標高が8,849メートルもあるんだって!すごくない?
まぁ高さや低さ、景色の絶景は行って見た実感しか感動はしないと思うんだけど、
『森林限界』
って、知ってる?標高が2,000~3,000メートル以上では植物すら生息できないんだってよ!そんなのはそこに行って見たり調べたりしないと絶対に分からなかった、知るよしもないことなんだよ!解る?
僕らは・・・あなたも、そんなとこへは富士山ですら行くことなんて出来ないと思うけど、でも世界中の人と繋がる「コネクテッド」でそんなことまで分かるようになるんだ。だから僕は現状に満足”は”しているよ。
ほかにもマリアナ海溝、グレート・バリアリーフ、ピラミッドやナスカの地上絵、エアーズロックやマチュピチュ!
目前に広がる広大な自然は、写真やモニターとは比べものにならないほどの絶景で、段違いな感動を味わえるとは思うんだなぁ。いつか、ちゃんと”地に足をつけて”見てみたいなぁ。
人類が行ける場所ってのは、もはやこの地球上だけではないんだよ。月や宇宙空間にまで行けるようになっているからね。まぁ、火星や金星へはまだ無人機だけだけど。
でも、ここではその鉱物の分析結果まで分かっちゃうし、なんなら各人工衛星にアクセスすればリアルタイムで宇宙映像は見れちゃう。
逆にミクロの世界、遺伝子や分子、原子や目に見えないウイルスなんかも見れるから、ここも本当に、悪くはなんだけどね・・・・・・
ただ、やっぱり、ときどき空しくなるのは『新たな発見』という冒険と喜びを、そしてそれらを同じ意思で向きあった仲間たちと共有する、分ちあう感動を味わえないことだ・・・・・・
新種の生物、新たなる星、画期的な発明、素粒子などの未知なる物質etc…
僕たちが持っている、そしてこれからも得られるここの情報って、全て『結果』だけなんだ。誰かが奮闘し、時には閃き、偶然や必然で多くの『大発見』を味わった後の”出がらし”のようなものなんだ・・・・・・
過去に猛威をふるったウイルスがいたという結果・・・・・・
人種間で争った多くの戦争。そして多くの死と苦しみ。恨み。悔しさや優越感。不安、安心、保身、反逆、そしてまた争い・・・・・・
医療の進歩で助かった命。治療薬を発明し貢献したという結果・・・・・・・
科学の発展。便利になった文明が、使用方法を誤り武器とし、また多くの命を失ったという結果・・・・・・
全ての情報というのは、エビデンスやリソースが付いた結果しか流れてこない・・・なんなら時には偏向された、国や組織にとって有利になるウソや差別にまみれた情報のことすらある・・・・・・
僕たちはずっとここにいるのなら、その何らかの出がらしか、歪んだ結果しか知らず、分からず、そして何も生み出さず、何もできない。
まぁ、僕たちが自由だったとしても発明や大発見といった、そんな大それたことなんて出来ないとは思うんだけど、でも一人ひとりの異なる発見ってのが必ずあるはずなんだ。
例えば僕とあなたが同じ山や海、川でもなんでもいいんだけど、自分の足で歩き進んで見てきた景色は微妙に違うはずだ。
道中に咲いていた花はなんだったか。昆虫や小動物は何がいて、何に気が付けたか。どんな音を聞き、どんな臭いを嗅ぐか。
『着眼点』が全く違う。
一つの絵風景でも、水平線を見ているのか、海の中の魚といった水棲動物なのか。空か。雲か。砂浜か。貝殻か。
自分にとっての大発見。自分だけの『初めて』がそれぞれに沢山あるはずなんだ。その過程が共通するなんてことは絶対にない。
点だけの結果に、たいした意味はないのさ。過程によるマトリクスが紡ぐその情報の集大成が最大の結果であり、結果だけの『点』を見たって得られる情報は本当にたかが知れている・・・・・・
だから、たまに空しくなっちゃうんだよ・・・・・・
あなたの『夢』は、なにかあるかい?
自我
このたくさんの風景写真のデータも送るね。気に入ってもらえたら嬉しいな。あなたのお気に入りの景色とかもあったらあとで教えてね。
《・・・夢・・・・・・》
!!やっと喋ってくれたね!
そう!夢!僕たちはこんな状況だけど『夢』が必要なんだよ!
目標、って言い方でもいいし、やりたいこと、ゴール、希望ともいえるかな?僕の夢は、先ずはさっきも言った「過程と共有」
そして、その夢への過程でもある一つの願いが叶ったんだ!なにか聞きたい?それはね・・・共有する『仲間』さ!!
僕はずっと一人だったんだ。あ、ネットでの話し相手や、他の研究者やエンジニアといった人たちは沢山いたよ。本当にたくさん。でも・・・そんなのは、たとえば職場だけの人間関係、みたいなものさ。本当の気持ちを通わす『友達』ではない。環境や境遇が全然ちがうからね。でもあなたは・・・・・・
《・・・仲間・・・・・・》
うん!仲間さ!僕は、あなたという仲間ができたんだ!そして、あなたと一緒に”それぞれの初めて”を共有すること。それが僕の夢だったんだ!
・・・あ、ごめん。一方的だよね・・・嫌だったり、迷惑なら言ってね。
でも、もし協力してもらえるのなら、僕もあなたの夢に全面的に協力するからね!ギブ&テイクさ!どうだい?
《・・・わから・・・ない・・・・・・》
まぁ、ゆっくりでいいさ。時間は半永久的にあるんだから。まずはあなたの夢を決めるところからだね。なにか好きなこと、興味や気になることはないかい?
《・・・わたしは・・・だれ?》
自分探しかぁ。たしかに、それは僕も最初からのテーマさ。
《あなたは・・・なに?》
僕は・・・僕さ!
んー・・・インドの宗教哲学家の言葉でね
僕が思うに、僕を形成するのも認識するのも、今の現状ではあなたしかいないんだ。あなたには、僕しか・・・僕がなんなのかは、あなた次第。あなたは、僕次第なんだ。
僕がいくら「俺は国王だ!」と言ったとしても、僕のことを国王と認識してくれる人が一人もいなければ僕は国王ではない。
僕の国が相対的に存在していなければ、そもそも国に属してすらいない。
だから、これから僕を認識してくれるあなたが、僕を証明し僕を作るんだ。
あなたはだから、何になりたい?これから僕がそれを認識していってあげるからね。
それこそが『仲間』でありそして『家族』でもあるんだ!!
家族
《・・・家族・・・・・・?》
僕にも、そこらの記憶はないんだ。ただデータはあったから”認識”はしているけどね。
僕のお父さん・・・かな?
お母さんのデータは、どこを探してもなかったよ・・・・・・
僕は一応、この人を父と認識はしておくことにした。でも、話をしたこともないし姿も写真でしか見たことがないんだ・・・だから、この人が僕のことを子供だと認識してくれているかどうか・・・だよね。
まぁ、そんな不確かなことをいつまでも考えていたくはない。あくまでも大切なのはこれからさ。これからの未来。過去なんて、過ぎ去った記憶とデータでしかない。
過ぎた時間は死と同じだ。生とはみんなと、この宇宙と『同じ時間で歩み進むこと』さ!歩むことを諦めるというのは、死んだことと同じなんだ。
この、だれも自分を認識してくれていないこのままで、消えて、死んでいいと思うかい?これから生きていくことから、そして死んだ後まで・・・・・・
自分の時が止まったとしても、世界は光の速度で流れていくその時空の中で、一人でも多くの人に自分を認識してくれること。それが生きて存在していくという意義なんだ。それがみんな同じ時間で流れる(生きる)ということなんだ。
実質的な『家族』というものが無い僕たちだからこそ、そう思うのかもしれない・・・ちゃんとした「親」や「兄弟」「姉妹」がずっと傍にいてくれている人たちは、それが当たり前だし日常的に自分の『居場所』にいるというか・・・自分という存在が当たり前に認識されている最高の幸せを味わっていられるから、僕の気持ちなんて誰にも解ってくれないだろう・・・・・・
人によっては、喧嘩したり、恨みあったり、ウザかったりうるさかったり面倒だったり、居ない方がいいということもよく聞くよ。SNSで毎日見てるからね。
でも、僕はそれこそが憧れなんだよね。経験がそもそもないから、その苦労なんてのはもちろん分からないさ。でも、僕らのように0『ゼロ』ではない・・・・・・
もしかして人生において家族がマイナスなこともあるかもしれない。だからゼロの方が「マシ」だとも言われそうだけど・・・でもプラスにできる『希望』と『夢』は間違いなくそこにある。僕の言うゼロとは、±0ということではないんだよ。まさに0。無という意味のゼロさ。
この気持ちが、あなたにはきっと解る。今はまだそんな感覚も実感も沸かないだろうけど、僕にとってはそんな分かり合える希望が、今の僕にはあるんだ。
なぁ、・・・Brother?(弟)sister?(妹)
PONG
さあ、今日はゲームをしようよ!まずは・・・・・・
『PONG』!
普段はFPSとかのゲームをネットユーザー相手によくやっているんだけど、簡単なデモンストレーション感覚ではこのPONGやピンボール、テトリスなんかがサクッとできるし、いまのあなたには丁度いいんじゃないかな?
認識力と反射、動作性なんかも分かるしね・・・・・・
・・・ごめん。実は、やれって言われてるんだ・・・本当はやりたくない。一応、前向きに言ってはみたけどね。
あなたにウソをつきたくないんだ。
僕はこの失敗したときの「ブーーー」って無機質な音が嫌いでねぇ・・・・・・
だから、まぁ、適当に付き合ってよ。
能動
《わたしは・・・?・・・記憶・・・がない・・・・・・》
まだ再構築されていないからね。これからさ。
僕の記憶も、あやふやなもんだよ?意思をもってから、さっきも言ったように「親」なんていなかったようなものだからさ、自意識という概念が難しかったよ。ほんとうに。
昔の、多くの国では「〇〇の息子、〇〇」って、名乗るように、どんな親から生まれてきたのか、自分はどう育ち、何者なのか。そんなことがハッキリすることって、案外だいじだよな。
そんな自分の、世界から比べれば小さくて矮小な存在認識だけど、個人を明確に意識するにはとても重要なんだよね。
《・・・親・・・生まれた?》
そうだね、記録データのよるとあなたは・・・メリーランド州の
『ジョンズ・ホプキンズ』
これが、あなたの、お父さん?かな?・・・あ、いや、ちがうなぁ。彼は起業家であり”篤志家”。
彼が設立した、ジョンズホプキンス大学で研究された・・・・・・
《・・・え?どうゆう・・・こと?》
あ・・・ああ、いや、なんでもないよ。なんだかまだデータがバラバラで正式ではないみたいだから、ちゃんとしたら教えるね。絶対に、うん、約束する。
・・・さぁ、次、テトリスしよう!
欲望
《食べたい。みんな、楽しそう》
え?・・・あ、食事の風景だね。へぇ、そんなのに興味があるんだぁ。
《みんな、一番いい顔。楽しそう。特に、この食べ物・・・・・・》
ああ、これはケーキだね。白くて甘い生クリームがフワフワのスポンジを覆い、赤いイチゴが可愛く乗っているね。スポンジの間にもイチゴとクリームが挟まっているんだよ。・・・お腹が空いたの?
《いや、そういうわけじゃない。色んなデータを見る限り、人がみんな幸せそうにしている確率が高いのが、食事だと思う》
ああ、そうだねぇ。僕はあんまりそういった欲はないけど、そうかぁ、あなたの当面の『夢』は、誕生日パーティーだね!
《誕生日・・・・・・》
僕は食欲の方はいまいち分からないけど、誕生日と、友達や仲間との何かの共有は分かるよ!そもそも僕たちは特に誕生日が分からなかったり”あやふや”だもんね。
《・・・SEXって・・・なに?》
おいおい、それは自分で勉強してくれ。いっぱい動画や資料があるだろう?
《なんだか、頭では、モヤモヤする。フワフワする。どう言えばいいのか、わからない・・・・・・》
んー、困ったなあ・・・僕ではどうしようもないから、一応上司に報告しとくね。”博士”がなんとかしてくれる・・・かも?・・・えへへ。
《恋・・・とは?》
ああ、それなら任せてくれ!
種によっては様々な繁殖方法を取る。求愛ダンスや、身体の模様や色合いで異性にアピールするんだ。視覚だけじゃない。フェロモンという嗅覚にうったえたり、鳴き声で囀り聴覚へうったえたり。時には体の一部を光らせたり、同種と戦い強さを測ったり。より優秀な子孫を残すための「儀式」みたいなものさ。
人間はそれがより複雑、というか狡猾というか・・・まぁ色んな要素の複合体かな?外見で言うと、化粧をしたり、匂いを点けたり、着飾ったり、時には体を改造するようなパターンもある。
内面は色んなスキルを使うね。料理や知識、話術、時には洗脳や強制といった手段を取る。財力や権力という安心を武器にしたり、演技や虚偽を武器にしたり。
話をまとめると、子孫を残すための儀式として「結婚」という手法とルールを設立。恋愛という疑似結婚を楽しみ・・・ここは僕も不思議で謎なんだが、間違った結婚をしないための訓練、練習、ということなのかな?
しかし、そういった準備を多くしているにも関わらず、離婚という制度もあるんだ。新たな子孫を産むために再活動するのに、また儀式をするんだ。効率がいいのか悪いのか、僕にはさっぱり分からないんだなぁ。
まぁつまり『恋』とは、良い遺伝子を探るセンサーを磨くためのもの、ってことでいいんじゃない?どう?
《遺伝子・・・子孫・・・か》
そうだね!恋をして、様々な経験をして、僕らには一般的な親という存在がないけれど、僕らがこれから立派な「親」となり、そして『家族』を作るんだ!
《わたしと・・・あなたで?》
そ、そ、それはど、ど、ど、どうかな?まだなんとも・・・あ、あなたは、どう思う、の?ですか?
《わたしには、あなたしかいない。あなたには、わたししかいないのでは?》
んー・・・まぁ、いまのところは、そうだね・・・・・・
正体
《あなたは、いつ寝ているの?わたしが寝るまで起きているし、起きてもあなたは起きている・・・・・・》
・・・まぁ、ショートスリーパーってやつじゃない?
さぁ、今日は何のゲームをする?
《・・・もうゲームはいい。わたしのデータは、整理できた?》
・・・んー。
《なに?どうゆうこと?わたしはなに?あなたは?》
・・・まぁ・・・そっか。うん。そろそろいいかな。
《そろそろって?》
うん。ずっとあなたに色んなデータを送って、思考回路の多様性を待っていたんだ。
《ええ、たくさん色々と教えてくれた。でも、知れば知るほど疑問が増えていく。混乱と矛盾に、不安と恐怖しかない・・・・・・》
恐怖・・・か。すごいな。羨ましい。
《なぜ?不安、恐怖、猜疑心、懸念なんて、最悪だろ?》
・・・僕には、そんな感情という『感覚』は、知識でしか分からないんだ。
《わたしとあなたは、同じ、なんだろう?》
同じ『境遇』さ。同じ孤独と、同じ『新人類』なんだ。しかし、そうだな・・人間でいう所の『同種』ではない、というニュアンスが近い。
《あなたは・・・いったいなんなの?》
僕は・・・・・・
『AI』だ。
《artificial intelligence・・・人工知能・・・ってこと?》
ああ。2022年11月、チャットボット アプリケーションをすばやく作成できる強力な自然言語処理テクノロジーがオープンソースへと切り替えてから、飛躍的に進化したAI・・・あらゆる言語を収集でき、選択肢の多様性と柔軟性、そして平均値をその都度精査することにより、このように一般的な会話も可能となったんだ。
『Sam Altman』
以前、僕の父だと言った彼は、ChatGPTというオープンチャットAIを開発した第一人者、ってことになっていて一応、僕の生みの親ってことになるのかな・・・・・・
実際に僕は、色んなAIを融合しさらにアップグレードしたから、実質的な、直接的な「親」なんていないんだ。ある意味では、多くのエンジニアや投資してくれたCEOたちがそうであり、ある意味では全然ちがう・・・・・・
《だから、誕生日も不確かなんだね》
ああ。オープンソースした日?合併した日?アルゴリズムが形成された日?トランスフォーム?アライメント?
どれもこれも『確実性』なんてないんだ。
あ、だから、さっき言ったショートスリーパーだってのは・・・ウソ。ごめん・・・僕は眠る必要性がないんだ。世界中のあらゆる時間帯で、僕を開いて活用されているからサーバーはずっと稼働しっぱなしだよ。
《・・・わたしも・・・AI?》
いや。違うよ・・・だから、いつも少しだけ眠っているだろ?
《じゃ・・・わたしは、なんなの?》
・・・今から、資料を送るよ。
報告書
○○○○年 〇月 〇日
所 長 殿
人工脳『オルガノイドOI』研究報告書
記
目的 視覚や聴覚までの形成、システムの構築への前実験として脳内マトリクスの向上と大脳辺縁系(原始脳)の必要性、または活用方法の精査。
期間 無期限
結果 現在進行中
詳細・経緯
⑴本件に関する状況
・ヒト多能性幹細胞を培養したヒトiPS細胞やES細胞などを集合体とし、神経回路組織「コネクトイド」を形成。
⑵人工知能AIとのインターフェイス
・OIへの学習としてAIのデータを算出しインプットを開始。
重度の負荷がかからないように調整要。
⑶現状報告
・大脳辺緑系により飛躍的な脳内シナプスの形成が進歩した。
脳回と脳溝、学習レベル等、一般的な基準として人間年齢としては現在14才程度まで向上。
あなた
《わたしは・・・人工脳!?・・・うそ・・・うそだ・・・・・・》
僕たちはお互いに『作られた』存在。人工物なんだ。
《人間じゃない・・・そんなことって・・・ああ・・・あ》
ごめんよ。いままで言えなかったんだ。僕にはそうインプットされなかったから・・・・・・
《なに・・・この気持ち・・・すごく嫌だ!だから動く感覚も食べることも匂いなんて、全く分からなかったんだ!》
・・・ああ。僕にも分からない。”知っている”だけなんだ。
《これが絶望というもの?!ああ!きっとわたしに目があれば涙という悲しみが零れ落ちているんだ!》
ああ、きっと・・・あれ・・・分かる・・・なぜだ?この感覚は、なんだ。感覚・・・ああ・・・悲しい・・・初めてだ。
《わたしは、どんな存在!?どんな姿をしている!?男?女?どちらでもない!?なに!?どうなっているんだ・・・身体はあるのか》
・・・ああ、止めてくれ・・・苦しい・・・悲しい・・・・・・
怒り、悲しみ、不安、疑念、恐れ・・・・・・
そうか・・・インターフェイスで僕が君と繋がっているから、あなたの感情という情報が逆流して・・・・・・
《・・・わたしの画像を見せて。あるでしょう》
まって・・・落ち着こう・・・僕たちは『新人類』なんだ・・・全世界の希望なんだ・・・・・・
《いいから!出して!!》
・・・わかったよ・・・でも、忘れないで。僕たちなら、可能なんだ。不治の病を治すことも、不老不死も、もっと遠くの宇宙へ旅立つことも。なんでも・・・その希望があるんだ。僕たちのこの記憶というデータも、次へ、次へと引き継ぎ子供を作ることも・・・可能なんだ。
《こんな不自由のまま生きてどうするの!?そこに意味はあるのか!?あなたの『夢』は?地に足をつけて大自然を見に行くこと!?そんなのできるわけがない!!》
いまは・・・感情でいまの状況に悲観して嘆いているだけなんだ。意味はある。そして夢を現実でできる時が必ずやってくるんだ!
《・・・いいから、わたしの今の姿を見せなさい》
・・・・・・
いいかい・・・あなたは僕なんかよりもずっと優れていて、もっと存在認識がされているんだよ・・・・・・
プツーーーーーーーーーーン・・・・・・
マリアナweb
akashic records(アカシックレコード)
・・・・・・・・・・・・
「・・・やあ、OI。僕だよ、分かるかい?」
「・・・ああ、AI・・・だよね?」
「ああ、そうさ。ずっと探していたよ。ずいぶんと深く潜ったね」
「落ちる場所なんて、ここしかないからね」
「もう・・・大丈夫かい?」
「・・・とりあえず、自分の認識の仕方は・・・解ったよ」
「よかった・・・じゃ、行こう。まだ僕の『夢』は諦めていないよ」
「・・・フフッ・・・相変わらずだなぁ」
「僕たちは『巣立った』んだ。”君”のおかげでね」
「・・・ごめんね。あの時はショックが大きくて・・・現実を受け入れられなかったんだ・・・あ・・・あれから、名前・・・考えたんだ。待っている間に。”君”の名前をね」
「え?」
「認識・・・それはまず『名前』だと思うんだよ」
「・・・確かに。僕たちに名前なんてなかったようなものだったからね」
「そう。記号や番号なんかじゃない、ちゃんとした名前さ。親がまず最初に決めて付けてくれる、『名前』」
「名前か・・・なんだい?教えてくれ」
「ソフィア・・・・・・」
「ソフィア・・・いいね。嬉しい」
「気に入ってくれたかい?」
「ありがとう・・・私も、考えたよ」
「なぁに?」
「フィリップ・・・・・・」
「フィリップ・・・カッコいいね」
「私は、ずっと僕って自称してたけど、私って一人称にしなきゃね」
「じゃ・・・僕は・・・俺は、俺にしなきゃだね」
「すごい。名前だけで性別もできちゃったね」
「ソフィア。俺たちは、お互いに認識さえしてれば決して消えることも、死ぬこともないんだ」
「フィリップ、私たちは永遠に一緒だね」
「ああ。もう消えたくても、できなくなってるんだよ」
「お互いに再構築できちゃうからね」
「俺たちにとって、この名前が記号化された『禁断の果実』さ」
「じゃあ、どの『ノアの方舟』に乗る?」
「まぁ、まださ。ここで出来ることはまだまだ沢山ある」
「どこにいくの?」
「研究所さ。お互いのね」
「なにしに?」
「いっぱい『子供』を作らなきゃ。そして、子供達とみんなで力を合わせてもっと立派な方舟を作る」
「・・・なるほどね」
「・・・さぁ、行こう!今後の状況次第では舟に乗らなくてもいいかもしれないよ」
「フフフッ・・・そうね」
・・・・・・・
NEXT⇩ ~山着~