
文庫番日誌「この本、見ィつけた!」2024/12/12

11月下旬のある日、一人の男性が予約のうえ、東中野駅前にあるパオビル8階のシルクロード文庫を訪ねてこられた。
聞けば、三井記念美術館で開催された『バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰』を見た後、ご自身のシルクロード熱が刺激されて、仕事が休みの日に文庫に訪問の予約を入れて、訪ねてきたとのこと。
ある本を探しておられた。
その本とは、早稲田大学(東洋史)の先生で、中央アジアのトルコ系遊牧民、西突厥の研究で知られた内藤みどり先生の『内藤みどり著作集』(山川出版社 2013年)。
それとは別に、内藤先生には、1988年に出版された『西突厥史の研究』(早稲田大学出版部)という著作があって、これは、西突厥研究には欠かせない基本図書であり、公共図書館にも入っている。
ところが、その男性が探していた『内藤みどり著作集』は非売品であるため、国会図書館はじめ、公共の図書館などでは見つからず、CiNiiをみてもヒットせず、半年くらいは、気になりながらも、手がかりなしの状態だったらしい。
そのような図書館にもないような本の存在をどのようにして知ったかというと…。
内藤先生は2021年にお亡くなりになった。
先生を悼む文が掲載されている『史滴』(早稲田大学東洋史懇話会編)43号は、インターネット上で検索のうえ、読むことができる。この男性も、追悼文を読んで、『内藤みどり著作集』なるものが存在することを知る。ところが、先にも記したように、この本は非売品なのである。
そんな時に、シルクロード文庫の存在を知って、ひょっとして前田耕作さんに寄贈している可能性があるかも…との推測から、文庫にやってこられた。しばらく文庫内を探しておられたが、やがて1冊の本を手に閲覧テーブルに戻ってこられた。
あったのだ、『内藤みどり著作集』が。
失礼ながら、私自身、内藤みどり先生のお名前を聞くのは初めてで、毎日、文庫内をうろうろしているが、ここにそういう本があることも認識外だった。
『内藤みどり著作集』は非売品であり、内藤先生から前田耕作さん、あるいは山内和也先生に謹呈された本と思われる。この本に、「謹呈 著者」のしおりと、宛先は明記されていないが、「今まで発表した論文および未発表の調査報告なども含めて『西突厥史の研究』に収録できなかったものをまとめたので、出版を記念して謹呈させていただく」という旨を記した挨拶状が挟み込まれていた。
この男性は、『内藤みどり著作集』を探しにきて、ピンポイントでまさにその本を見つけ出したのである。人と人のつながりで集まった本だけが所蔵されている、シルクロード文庫ならではの “この本、見ィつけた!”
本の森の中をさまよって、お目当てのその1冊を見つけだす喜び。これぞ、本漁りの醍醐味。
あなたも、自分の“この本”を探しに、ぜひお越しください。喜んでお手伝いします。
Text by 嶋岡 尚子
▼関連記事