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渦中のマー・ア・ラゴ(トランプ前大統領の別荘)

海と湖が織り成すブルーのグラデーション。そよ風、そびえ立つヤシの木、降り注ぐ日差し。プライベートな空間でありながら、便利なアクセスが可能。広大な敷地に、繊細かつ豪華絢爛な建物。最も目の肥えたゲストだけをお迎えする、地上の楽園。
「マー・ア・ラゴ」へようこそーー

どこか裕福な国の王室のようだ……。一生に一度でいいから、こんな場所でバカンスを過ごせたらな……。など(?)、あなたが抱いたイメージや願望は、次の写真で一変するかもしれない。

フロリダ州パーム・ビーチにあるマー・ア・ラゴ。ここは、ドナルド・トランプ前大統領の別荘なのである。


数日前のこと。トランプ前大統領と彼の息子らが、このマー・ア・ラゴの資産価値をつり上げる詐欺行為をはたらいたと、ニューヨーク州最高裁のアーサー・エンゴロン判事は判断した。

ニューヨーク州の司法長官が、長年にわたり虚偽の財務諸表を提供していたとして、トランプ氏や他関係者らを訴えていた民事訴訟において。トランプ氏が、詐欺で有責と判断されたということ。

判事は、パーム・ビーチの査定官の鑑定:2010年代から2020年代におけるマー・ア・ラゴの価値は、約1800万ドルから2700万ドルであるーーを引用。

トランプ前大統領は、「トゥルース・ソーシャル」に、エンゴロン判事のことを「正気を失っている」「政治的なハッカー判事」と書き、批判。彼の息子の1人は、SNSで、「マー・ア・ラゴには10億ドル以上の価値がある」と主張。

周辺の他物件の値段を見てみろ!という主旨の投稿。
1/30の敷地でオーシャン・ビューでもないぞ!と。

実際、いくらくらいなのか。

パーム・ビーチ市による2023年の市場評価報告書では、マー・ア・ラゴの価値は、3700万ドル。さすがに10億ドルではないが、判事の示した額より1千万~2千万ドル高い。このような第三者による評価もある。

フォーブス誌が、マー・ア・ラゴの財務履歴を検証。8人の不動産専門家に取材。その結果、マー・ア・ラゴには、3億2500万ドルの価値があると推定された。

パーム・ビーチの街並み

トランプ一族が怒りをあらわにしても、おかしくないかもしれない。

それでも、エンゴロン氏はこう返した。「2300%の過大評価」。(笑)

今のところ、トランプ氏本人は、いかなる不正行為も行っていないと主張している。これは政治的な魔女狩りだ、と苦言も呈している。


渦中のマー・ア・ラゴについて。

1920年代。社交界の名士で大富豪のマージョリー・ポスト氏と、夫のエドワード・ハットン氏が、これを建設した。旧ゼネラル・フーズの創業者一族だ。

マージョリー・メリウェザー・ポスト氏

ポスト氏は生前、マー・ア・ラゴが、大統領の別荘としても使われることを望んでいた。キャンプ・デイビッドのようにだ。遺族は、マー・ア・ラゴを政府に寄贈。実際、ニクソン大統領が、別荘として使ったことがある。

政府は、100万ドルの年間維持費を理由に、ポスト氏の娘に返還(1980年)。その後、郵便財団に転売された。トランプ氏が、500万ドルで購入(1985年)。さらに300万ドルで、邸宅内の家具や骨董品も購入。

ホールを黄金に改装したのはかつてのトランプ氏。
キッチンなども金ピカにした。

トランプ氏は、マー・ア・ラゴで一儲け。会員制クラブにした。

敷地面積17エーカー=約2万1千坪。日本でよく言う東京ドームだと1.5個分。大西洋とフロリダ沿岸水路に囲まれている。スペイン語で Mar-a-Lago 英語だと Sea to Lake その名の通りの立地だ。

会員は、10万ドルの入会金と1万4千ドルの年会費を払う。トランプ氏が大統領就任後は、20万ドルに値上げされた。

シルベスタ・スタローンも会員。マイケル・ジャクソンもハネムーンに滞在した。

ゲスト・ルームの一例

トランプ大統領の在任中は、マール・ア・ラゴが、中国の習国家主席や日本の安倍元首相を含む、政治家や外国首脳の歓迎スポットになっていた。


マー・ア・ラゴは、今回のニュース以外でも、騒ぎの舞台となったことがある。

2021年にホワイト・ハウスを去って以来、ここを(年間の数ヶ月の)住まいとしていたトランプ氏。ある日、私の自宅が今、FBIに強制捜査を受けていると声明を出した。

トランプ氏が、大統領退任後に、機密情報を私邸に保管していた疑いから。家宅捜索の結果、FBIは、複数の文書が入った十箱個の箱を押収。

「機密情報」に該当するものが、およそ300件あったらしい。その中には、アメリカの国防に関する重大な情報や、フランス大統領に関する重要な情報があったという。

「高度な機密情報を慎重に扱うには悪夢のような環境」と大きく批判された。こんな所に保管されていた!という見出しと共に、洗面所などの写真が報道された。

絵面に笑いそうになるが、笑い事では済まなかった。


トランプ前大統領は、スパイ活動法違反を疑われた。

スパイ活動法とは、米国を危険にさらしたり、敵を助けたりする可能性のある、安全保障情報の不正な所持を違法とするもの。このケースに当てはまる。

トランプ前大統領は、この時も、司法制度を武器にした検察の職権濫用だと反発した。だが、国家レベルの重要な情報の扱いにおいて、彼が軽率であったことは、否めないだろう。

マー・ア・ラゴの書類で、核のコードにアクセスすることはできないにしても、問題ないというわけにはいかない。「NOFORN(ノーフォーン)」。親密な同盟国とさえ共有できない、極秘情報を意味する言葉。これも含まれていたとかいないとか。

アメリカではこれまで、元大統領の不正行為に対する捜査が行われたことはあっても、起訴されたことはない。


2019年に、中国人のビジネス・ウーマンが、スパイ活動に使える電子機器を敷地内にもちこんだとして、逮捕されたことがある。

安倍元首相がトランプ前大統領と夕食をとっている間に、北朝鮮によるミサイル発射のニュースが入った。レストランの一角が、緊急対策本部に早変わりした。この時、レストランの横では、クラブ会員によるウェディング・パーティーが開かれていた。

そもそもそれってどうなの?大勢のクラブ会員がそんな日にいていいの?という想いが、特に、日本人には湧き起こるはずだ。私たちの前首相は、暗殺されてしまったのだから。

この写真がその当日かはわからないが。
良く言えばアットホーム・悪く言えばカジュアルすぎか?警護が難しそうには見える。

トランプ前大統領は、さまざまな規制緩和の大統領令を発してきた。

発令前には、関連する業界の代表者と面談をした。金融・自動車・エネルギー・航空といった分野だ。経営者たちからすれば、「対応の素早い話のわかる政権」ということになるのだろう。

しかし、こういったことも、カジュアルすぎると懸念された。

大統領に接触する人物は、せめて身元のはっきりした人であってほしいと。トランプ大統領が「いつ誰と話したのか」に関する記録を残し、それを開示するよう求める法案が、提出された。

この法案の正式名称は「Making Access Records Available to Lead American Government Openness Act」だが、略称は「M A R A L A G O Act」(マー・ア・ラゴ法案)だ。ネーミングがイヤミ満載でうまくて、本当に笑う。私は、アメリカのこういうところは好きだ。


https://www.trump.com/estates/mar-a-lago-club

リンクは、マー・ア・ラゴ・クラブの紹介など。様子がわかる動画や写真がたくさんある。

マー・ア・ラゴの運命や如何に。