【蒸留日記vol.21】何が何でもキタゴヨウからそれなりの量の精油を抽出する!
和精油(日本産素材)の精油でネロリドール(Nerolidol)が含まれることからアロマテラピーで重要な精油とされるゴヨウマツ精油(キタゴヨウ )を、意地でも大量に抽出してやります。
ざっくりと方法としては、ニオイヒバの抽出改善のメソッドを応用した感じになります!
●キタゴヨウ(Pinus parviflora var. pentaphylla)のざっくりとしたプロフィール!
キタゴヨウは学名がやたら長いのですが、それは九州を中心に生えているヒメコマツ(Pinus parviflora)の寒地適応変種だからなんですね。
なので姫小松の学名にvar. pentaphyllaが付きます。
で、日本のゴヨウマツ類の中核を成す存在で、本州の東部・北部・北海道を代表するゴヨウマツです。
さらには北海道や青森において、さらにハイマツ(Pinus pumila)との交配種であるハッコウダゴヨウなんていうのも存在しています。
外見的特徴としては、九州・西日本代表のヒメコマツを大きくしたような特徴を持ちます。
松ぼっくりをたくさんつける性質があります。
■Materials & Method
ガッツリ大枝が折れて落ちてますね!
片付けられちゃう前にさっさと活用部位を回収しちゃいます。
頑張れば全部使えるんですけど、手鋸と金切バサミというアナログなマンパワー道具しか持ってないので、できる限りでやっていきます。
■No.1キタゴヨウの針葉を細切れにしてみる。
実験A-葉っぱをそのままぶっこむ
実験Bを実施するにあたって、通常のゴヨウマツ精油の歩留まりを確認する目的でこの実験項目があります。いわゆる対照実験というやつです。
AパターンがあればBパターンもある、という…まぁここは理系大学生の常識ってやつですね。
実験Aは葉っぱを処理せず釜に放り込むだけの通常蒸留となっている。
その抽出結果は5mL程度と、キタゴヨウといえばこの程度の少なさだよね といった抽出量。
実験B-葉っぱをひたすら刻んでぶっこむ
単純に、針葉を切り刻むことによって切断面(断面積)が増えることで、葉っぱの細胞がより露出する→オイル成分が放散しやすくなるんじゃないか?という見立てで葉っぱ細切れの蒸留パターンを用意しました。
金切バサミで一つ一つ葉っぱを刻んでこの物量用意するのに2時間半かかりました。もう2度とやりたくありません。
目に見えてわかりやすく精油の抽出量が増えた!
とは言っても、そんな劇的にドバッと増えたわけではなかった。
アカエゾマツと同程度の歩留まり水準に押し上げられたかなー?くらい。
この程度ではまだまだ精油の販売価格は¥3000~4000と高止まりだろう。
ニオイヒバでの件でもだけど、やはり針葉樹葉っぱの蒸留は熱い水蒸気が葉っぱの表面を撫でて抜けていくだけなので、しっかり葉肉細胞を露出させることによりガッツリと抽出量を増やすことができる!ことが証明されたと思う。
■No2.キタゴヨウの若枝を細切れにしてみる。
収集できた素材は釜満杯ではなく、25L蒸留釜の半分を満たす程度の物量でした。
大枝の折れた断面・年輪の節目からヤニが滴っているのは確認したんですが、主幹であろうと末端の枝先であろうと、同じ木部なら構造はほぼ同じハズ。
とみて、細胞がイキイキしている葉っぱ付き枝の太い部分を金切バサミで1、2センチ大に細かく刻みました。
これを若枝木部試料として蒸留してみます!
ちなみに姫小松・ゴヨウマツ精油においてネロリドールが多く含まれているのは木部精油だとされます(論文ソースなし)。
細切れにした若枝がヤニまみれになっていたためか、抽出液がポタポタしてからすぐに精油が厚く溜まりはじめた。
やはり「若い枝先の木部は新鮮な精油成分がたくさん含まれてるだろう」という読みは当たったよう!
そして、トドマツの若枝蒸留と似て抽出してすぐの精油は白く濁っている。
抽出直後の精油がなぜ濁っているのかはいまのところ、知見なし。
トドマツ(葉)に差し迫るほどの精油抽出量となった!
蒸留素材の体積としては釜の半分程度なので、素材の切り刻みに時間をかけて釜満杯分にすると、概算してこの2倍以上の精油が採れることになる。
なんや、キタゴヨウ精油たくさん採れるやんけ!笑
若枝は長く切りやすい素材なので、おそらく処理が最も手軽で用意できる部位だろうと思われる。
■No3.松ヤニがこびりついた松毬を蒸留してみる。
前回キタゴヨウを蒸留した際は、「落ちてた松ぼっくり」を蒸留したんですが、北米産マツであるストローブマツ(Pinus strobus)とは真反対の結果となり、惨敗。。。
が、よく考えると蒸留試料に使ったのは地面に落ちて風化した松ぼっくりばっかりだったなぁーと。
今回は、折れ枝に付いていた新鮮な松ぼっくりを蒸留してみます!
これで精油採れなかったら、ゴヨウマツ松ぼっくりからはオイル採れない!という認識で終わることになるかと思います!
(未熟な松ぼっくりとかって条件分けもできるんだけどね…)
キタゴヨウの3部位の中では歩留まりが最も低くなりましたが、3部位を蒸留した中でもっとも黄色味が強い精油が抽出されました!
おそらくセスキテルペン系芳香物質が多く含まれるためか、松ヤニ状態で長時間空気に晒されていたため酸化反応などが進み、重くまろやかな香り特性に変化したのだと思います!
■Discussion
ヒメコマツの変種であるキタゴヨウ(Pinus parviflora var. pentaphylla) で手軽に得られる3部位からそれぞれ精油を抽出してみました!
特に葉っぱは細切れにして葉内の樹脂道を露出させる処理(ま,ようは細かく刻んだんですが)を行なったものと葉っぱそのままとの対照実験を行いました。
商業生産を考えるとき、それだけ手のこんだ処理作業を行うことで労力に見合った量の精油収量を上げられるか?という判断に役立ちます。
しかし葉っぱの実験ではそこまで精油の収量を上げることができなかったため、そもそもキタゴヨウ葉っぱにはそこまで精油は含まれていないという結果になりました。
続いて金切バサミでも刻める範囲の太さの枝(若枝と呼称した)は3部位中もっとも精油の抽出量が望める部位であることがわかりました。
太い枝の折れた断面から透明な松ヤニがかなりの量滴っていたこともあり、本実験蒸留とあわせてゴヨウマツ精油は木材中にもっとも多く含まれているものだと推察されます。
松ぼっくりからの精油抽出は、部位そのものが落果・あるいは傘が開いて成熟するまでに長期間外気に晒されているため、精油の質自体が比較的大きく変容しているものと思われます。
またこびりついたヤニもそこまで多くないため、抽出歩留まりはそこまで期待できないものでしょう。