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日本人から見たトルコ料理あれこれ
2024年8月、トルコを旅行した。誰が呼んだか知らないが、世界三大料理のひとつとされるトルコ料理。意外とみんなどんな料理があるか知らないんじゃなかろうかと思い、備忘も兼ねて記録しておく。
①メゼの盛り合わせとパン
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トルコで一番お世話になった料理。ほとんどの店でとりあえず頼んだのが「メゼの盛り合わせ」だった。メゼは冷たいおつまみのことで、トルコの人からすると飲み会のスタート時に頼むものだ。フムス(ひよこ豆のペースト)や、なすをつぶして煮たもの、トマトベースの煮物やヨーグルトなど、トルコらしい味わいを一気に楽しめる最高のセットメニュー。メゼを頼むと毎回大量にパンがついてくる。トルコはパンの消費量が世界一の国で、なんと国民ひとりあたりの消費量は二位に倍近い差を付け、3食+おやつでパンを食べる国である。コメかパンが欲しくなる日本人としては、この付け合せのパンで命を繋いでいる感があった。トルコにいる間、どんどん細胞がミックスメゼプレートと付け合せのパンに入れ替わっていった。
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店ごとに少しずつ違うメゼが用意されてくるので、結構楽しい。また自分でメゼの種類を選んでオーダーすることも出来て、お惣菜を選べる食堂的な面白さがあるのだが、初見だと見た目から何味か想像するのは難しい。とりあえず全部パンに合う。
②イスケンデル・ケバブ
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日本でケバブというと、パンに挟まったドネル・ケバブが想像されると思う。そもそも「ケバブ」とはローストした肉のことだ。なのでトルコでレストランに入るとドネル・ケバブ以外にも、色んなケバブ(=肉料理)を頼むことが出来る。その中の一つが、イスケンデルさんが考案したというこのケバブ。溶かしたバターとトマトソースで羊肉を味付けし、ヨーグルトを添える。肉の下にはパンが隠れており、味がしみ込んでいて美味しい。ヨーグルトは正直合う合わないがあると思うが、適度な酸味が加えられていて俺は好き。外さない味付けで羊を食べるトルコ北西部名物。
③ピデ(トルコ風ピザ)
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ピデは生地の上にひき肉や大量のチーズ、バターなどがのせられたトルコ風のピザともいわれる料理で、かなりボリュームがあった。みんなが思う「大量のバター」の3倍が乗った生地を想像してほしい。それです。イースト発酵を経ているので、他の中東風のパンに比べると生地がもちっとしていてお腹いっぱいになる。
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空港ではバターとチーズたっぷりのピデを頼んだのだが、生地を成形するところから始まった。伸ばし終えたらピデ用の窯へ入れて、なんどか向きを変えながら焼いてくれる。生地伸ばしたてで提供されることも、トルコの人たちのピデへの愛を感じるところ。焼き立てはもちろん美味しい。ちなみに一人で食べると多すぎ。
④クイマック(メチャクチャ伸びるチーズ)
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トルコの激ウマ朝食、クイマック(Kuymak)。衝撃的なぐらい伸びるチーズは、いつまでも切れないので協力が必要になる。途中からチーズであやとりしてるみたいになってくる。しょっぱめの味がパンと合いに合う。チーズ・バター・コーンミールを混ぜて作るらしいが、イスタンブールなどの黒海沿岸に行くなら絶対に食べたほうがいい料理。
⑤サバサンド
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こちらもイスタンブール名物。サバが挟まったサンドイッチ。地球の歩き方には「究極のミスマッチ」とか書かれていたが、まぁそうかも。炭火で熱々に焼かれたスパイシーなサバと、デカすぎるハード系のつめたいパン。別々に食べたほうが美味しいような気がするのだが、それぞれのレベルが高いので成立はしていた。大きいので一撃で満腹になった。
⑥シーフード・パエリア
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港町・イズミルでは普通にパエリアを食べた。海を渡ればギリシャなエーゲ海有数の港町だけあり、トマト・ムール貝・エビなど全部のクオリティが高い!素晴らしいお味。特にムール貝は悲しくなるほど身が小さいが、味が超絶濃厚でエビ味噌みたいな味わい。
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一緒に頼んだ黒ニンジンのジュースは、しょうゆとほぼ同じ味で頑張って飲んだけど血管きれそうだった。しゅわしゅわ微炭酸のしょうゆを想像してください。それです。
⑦イズミル名物・サンドイッチ(クムル)
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エーゲ海の真珠と名高いトルコ・イズミルの名物が、このチーズ・サラミ・トマトが挟まったサンドイッチ。またまたとんでもなくでかい。ハード系のパンに挟まっているので、マジで腹いっぱい。大量のチーズでジャンクに満たされる。あと何気に床がタイルで可愛い。
⑧紅茶(チャイ)
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トルコでは暑さをしのぐために熱々の紅茶をのむ。熱湯並みの熱さで出てくる紅茶に砂糖をたっぷりとかして、じわじわ体を温める。いったん汗をかいて放射熱で冷まそうという逆転の発想、なんという荒療治。お茶の味はちょっと渋めで、日本で飲む紅茶のちょっと濃いやつという感じ。
ちなみにこの時、同行者が紅茶をこぼして自分のズボンにかけてしまったのだが、トルコ人のおっちゃんが0.5秒で机の上に置いてあった水をかけてくれて、火傷を回避できた(もちろん水浸しだが)。こっちがポカーンとしてる間にペットボトル丸々一本分くらいかけててメチャクチャ面白かった。優先順位の判断が早すぎる。なぜか全然関係ない俺にもかけてきた。
⑨トルコアイス
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正直なめてた。ただちょっと食感の変わったアイスなんやろ?ぐらいに思ってたら、本場のトルコアイスは衝撃的な旨さだった。いわゆる「モッチモチの食感」をゆうに超える斬新なねばり。もちもちもちもちもちもちもちもちしたアイス。この食感を生み出す植物がかなり希少らしく国外輸出が禁じられているので、トルコ国内でしか味わうことが出来ないとか。繰り返し食べた。
⑩バクラヴァ
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これもトルコを代表する伝統的なデザート。すごく簡単に言うと、めっちゃくちゃ甘くてナッツの香りのするパイの実。シロップで少しネットリ気味になってるのが美味しい。15世紀頃のオスマン帝国の宮廷料理本にはもうレシピが載ってるという歴史あるデザート。
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店構えもやたらといかつくてよかった。1864~ということはオスマン帝国のころから続いている老舗ということだろうか。お菓子のレイアウトが王に献上するときの並べ方で気持ちがいい。
⑪はちみつヨーグルト
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ヨーグルトを色んなものにかけるトルコ。肉にかかってたりすると少しためらう我々も、はちみつとの組み合わせは大歓迎だった。トルコは世界2位の生産量を誇るはちみつ大国。トルコ人の愛が結集したはちみつのヨーグルトがけは流石にうまい。
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はちみつ屋さんの店内にはハチの巣がドーンとレイアウトされているのだが、この店の周りだけ異常にミツバチが飛んでいる。やたらとブンブンしていて衝撃的な風景。確実にハチさんが取り返しに来てるんだけど、ある意味宣伝効果があるのかな。
⑫オレンジジュース
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知り合いの元トルコ航空の添乗員の人にオススメの料理を聞いたところ、まさかのオレンジジュースとのこと。試しに飲んでみたら、確かに旨かった。めちゃくちゃフレッシュなお味。300円ぐらいで何個もオレンジを絞ってくれる。
⑬生還祝いのシャンパン
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気球ツアーに参加した際、無事フライトが終わったタイミングでふるまわれたシャンパン。おっちゃん四人がめちゃ派手に空けて、こっちにもかけにきてて笑ったが味はなんかただ甘いだけだった。気球を運転している人がキャプテンと呼ばれていて、なんか乗組員が全体的に海賊寄りのノリだったので、ジャンプでよく見る「宴だ~!!!!」的なことなのだと思われる。
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景色がすごくよかった。
日本人が見たトルコ料理
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トルコ料理の特徴を勝手にまとめる。
バターの量がとんでもない
トマトとチーズで旨味を確保しているのでイタリア料理に近い
ケバブとついてる料理頼むと肉にありつける
予想外の食材にヨーグルトがかかってることがあるが、それ以外は親しみやすい味
ナスビが良く使われている
肉は牛肉・羊肉・鶏肉で、豚肉は一切出ない
正直、ヨーグルト以外はかなりとっつきやすい味で、フムス(ひよこ豆のペースト)も食べてみるとピーナッツバターみたいで美味しい。なすをトマトで煮込んだものとか、パンにバターとチーズをのっけたものとか、嫌いになる理由がない。またちょくちょくメロン・スイカなどの果物も食べたが、日本の味よりあっさりしていてこれはこれで美味しかった。
東南アジアのスパイス中心の料理に比べたらはるかにとっつきやすいと思うので、一度日本のトルコ料理店でメゼとケバブあたりを食べてみるのもおすすめ。世界三大料理といわれるトルコ料理のおもしろさとしたしみやすさを感じた旅だった。
旅行に行く前に読んで影響を受けた本
個人的な経験としては、旅行に行く前に稲田俊輔さんのこの本を読んだので、かなり影響を受けていた部分があった。エリックサウスという南インド料理屋を日本で成功させた稲田さんが、「日本にある外国料理」と「現地の料理」の違いや、その差異の背景にある事情を各料理ごとに研究してエッセイにまとめている。
実はこの本、トルコ料理のことは出てこない。でも海外の料理全般について、魔法が解けるようなことが書いてある。それはイタリアンも中華もインドカレーも、(特に)多くの店舗が展開されている店では日本人向けに併せて調理されており、大抵の日本人には、日本で食べたほうが美味しく感じられること。だけど現地の味にいかに近く、どれだけ未知の味を味わえるかというところに面白さを感じているマニアたちがたくさんいること。マニアにとっては「美味しいかどうか」よりも「現地の味に近いかどうか」が重視されること。
この本を読んでいったおかげで、想像と違う味が出てきた時も割り切って食べることが出来た。そもそも人が何かを美味しいと感じる時、大抵は経験の蓄積である。生まれながらにコーヒーやウイスキーを美味しいと思う人が珍しいのと同じように、人はその食べ物と出会ったシチュエーションや、誰に「美味しい」と教えられたか、何回食べたかなどで、同じ食べ物をおいしいと感じたりマズいと感じたりする。だから我々が美味しいと感じる大トロやイクラが、海外では値が付かず捨てられていたり、逆に現地で絶品とされてる料理が日本人の舌に合わないということが起こる。美味しいと感じられるところまで経験値が溜まっていないんだ。
この『異国の味』という本に登場する「現地らしい味わい」を求めるマニアたちも、どうやら初めて出会う味に対して「美味しい」と思っているわけではなく、俺と同じように「なんだこれは!?」と感じている。そしてその疑問を抱えながら、繰り返し食べるうちにハマっていって美味しさを感じるようになる。これが未知の味に対して挑戦していく勇気を自分に与えてくれたと思う。最高に面白い本だった。
今回の旅行では死ぬ気で完飲した黒ニンジンのジュースとも、いつか分かり合える日が来ることを願う。