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数珠繋ぎ

 私はリオのコパカバーナビーチで日差しを浴びながらアイスティーを片手に横たわっている。久々の休日で家族と海にいくことに決めたのだ。妻はブラジル人で私のブラジル滞在3年目の時に出会い、結婚した。一昨年起こった太平洋大洪水の後、日本に帰れなくなったのだ。
 私は日本に恋人がいた。いつかまた会えるだろうと思ってさよならしたあの日から彼女とは一切の連絡が取れなくなった。彼女はどうしているだろう。大洪水から3年が経とうとしている今でもネットワークは復旧していなかった。ブラジルはほとんど被害を受けておらず、車に乗り会社に行き家庭に帰ってくる、という毎日だ。家族を得て、仕事も順調、とても充実感を感じている反面、私はカラの体を運んでいるにすぎないという感覚も同時にあった。
 「100万回生きたねこ」という絵本の名作をご存知だろうか。「100万回転生を繰り返したねこは愛するねこと幸せな家庭を築いたあと、もう次の人生を送ることはなかった。」超簡単に言えばこのような話だ。私はこの絵本のエンディングに感動したし、今読んでも涙目になるはずだ。なぜあんなに感動したのだろう。数珠繋ぎになっていく命、自分より大切なものの存在ができた時、人は死を乗り越え、宇宙の連鎖を感じる。そういうことだろうなと思う。そしてそれがすごくよく分かる。子どもができた時、なんかもう頑張らなくていいなと感じた。「うまくバトンパスできた、繋がった、後は任せた。」的な。すごくよく分かるのだが、それと同時に私はこの生が終わっても生まれ変わらないだろうか?と疑問に思う。幸せだが心残りは色々ある。いつかまた会えると思って会えなくなった人はたくさんいて、その人々とどんな数珠繋ぎができたか。切なさと共に思いをはせてしまう。そうやってみんな生きているのだろうか。
 一瞬の海岸の風に手をかざした時、私は何かに触れたような気がした。


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