光の列車
この街には光の速度で走る列車がある。
前面部に印刷されている大文字の青いMは劣化でくすみ、その左右に位置する楕円形のヘッドライトはバッタの顔を彷彿とさせる。人を食わんとする勢いで酷い金切り声を上げると、列車はゆっくりと動き出した。金切り声は徐々に音程を上げていき、じきに聞こえなくなった。
音を忘れた列車は孤独に夜の街を走る。高速道路沿いの地上を走っているものの、他の車は到底見えない。速度のせいか、闇のせいか、わからなかった。
視界も、音も遮断された列車は世界から遮断される。残るのは列車の中の世界だけ。ステンレス製のポール、薄いクッションの青い座席、床に張り付いた黒く変色したガム、無数に続く無機質な蛍光灯。
列車は際限なく加速する。
あの暗闇の中をたった一人で駆け抜ける様を思うと、決まって涙が溢れる。勇ましく、気高く、美しい。
今日もまたどこかで走っているのだろうか。どうか、どうか私も連れていって欲しい。
願わくば、願わくば。