【絵本】「だいじょうぶ だいじょうぶ」 いとうひろし
「だいじょうぶ だいじょうぶ」
「だいじょうぶ だいじょうぶ」 いとうひろし
僕には、おじいちゃんと呼べる人がいませんでした。
おじいちゃんと会えてたら、どんな感じだったんだろう?
優しかったかなぁ? それともよくしかられたかなぁ?
写真もないし、両親にもあまりおじいちゃんの話を聞いたことがなかったんです。
だから
この絵本は、はじめておじいちゃんと出会ったような気持ちになりました。
僕の亡くなった父と子どもたちを見ていたときも、とてもほほえましくて、「おじいちゃんと孫の関係っていいなぁ」って思っていました。
「だいじょうぶ だいじょうぶ」
この絵本の表紙のおじいちゃんとお孫さんの絵がスナップ写真のようであり、ほんとにほのぼのしていて、この絵を見ているだけで幸せな気分になれました。
僕は潜在的におじいちゃんに会いたかったのかなぁ。
この絵本の表紙に、すごく惹かれてしまったんです。
ページをめくるごとに、おじいちゃんと子どもの表情がやさしくて、癒されます。
ぼくが いまより ずっと あかちゃんにちかく、おじいちゃんが いまより ずっと げんきだった ころ、
ぼくと おじいちゃんは、まいにちのように、おさんぽを たのしんでいました。
絵が語りかけてきます。
お散歩のときに手をつないだり、紙ヒコーキをつくっていっしょに飛ばしたり、石を動かしたらヘビがでてきたり、ただ、家の近くをのんびりと歩いているだけでしたが、いろんな冒険をしているような楽しさがあったんです。
この絵本は「おじいちゃんとぼく」との思い出がいっぱい。
しだいに
“ぼく”は、少しずつ成長してゆきます。散歩の途中で、おじいちゃんといっしょにいろんな話をしながら、歩くようになりました。
ひこうきは そらから おちる ことが あるのも しったし、あちらにも こちらにも、おそろしい ばいきんが うようよしてるって ことも しりました。
大きくなってくると、不安だってだんだん増えてきますよね?
泣き言を言ったことも、たくさんあったのかもしれません。
だけど その たびに おじいちゃんがたすけてくれました。
おじいちゃんは、ぼくの てを にぎり、おまじないのように つぶやくのでした。
「だいじょうぶ だいじょうぶ。」
“大丈夫” って言葉は、おまじないのようであり、やさしい「お守り」のような言葉だと思います。
きっと、他の言い方をされるより、こんなにも愛情を感じ、安心できる言葉ってないんじゃないかなって。
不安なときに、“大丈夫”って言われるとほんとうにうれしいし、安心できるし、マイナスをおもいっきりプラスに変えることができる力があります。
「だいじょうぶ だいじょうぶ」
それは、むりして みんなと なかよく しなくてもいいんだって ことでした。
「だいじょうぶ だいじょうぶ」
それは、この よのなか、 そんなにわるい ことばかりじゃ ないって ことでした。
なんども、なんども、おじいちゃんは少年に「だいじょうぶ だいじょうぶ」と言いました。辛いことや、嫌なこと、不安をこの魔法の言葉で取り除いてくれました。
おじいちゃん
いろんな人生経験を経て、嬉しいことや辛い事をたくさん感じてきたからこそ、「だいじょうぶ だいじょうぶ」が少年の心の中に、ス~っと沁みこんでいったのでしょう。
「だいじょうぶ だいじょうぶ」
「きみを信じているよ」って。
少年は勇気をもち、自信をもって前に進んで行きます。
そして
少年は大きく成長します。大人の階段を登っていきます。
少年が大きくなるにつれて、おじいちゃんはずいぶん年をとりました。
少年はお花屋さんで、花を買って歩いて行きます。
お花をかかえて、停留所でバスを待っています。
だから こんどは ぼくの ばんです。
少年はおじいちゃんのお見舞いに、病院にやって来ました。
おじいちゃんの てを にぎり、
なんどでも なんどでも くりかえします。
「だいじょうぶ だいじょうぶ」
だいじょうぶだよ、おじいちゃん。
【出典】
「だいじょうぶ だいじょうぶ」 いとうひろし 講談社