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【詩】出口のない楽園の内側で あるいは入口のない楽園の外側で

蝉時雨の降りしきる幹の中は
消されることのない記憶の奔流なのだろうか
あの大鎌でさくりと斬ったのは いつのこと
あの感触は 確かに血管の森に潜り込み
無彩色の天頂には 仄白い斬り口
白一色の虹がそこよりなだれ落ちたのは 見た
記憶から外されたのは 斬られたものの名
いまだ沈まぬ斬り口は 太陽と呼ばれるらしい

緋色のリボンをほどいてみれば 夜は驟雨
眼球には始点と終点がないから めった刺しを繰り返す
振り上げたのは 年をいつわり買ったジャックナイフ
ぼくとは違う顔かたち 手脚の数 牙・ウロコ
だから いくらでも刺して良いと
お伽話の終わりは いつもおんなじ
なあ、驟雨
ジャズのステップで舗道を打てるだろ?

あの大鎌は大鎌であったことを忘れられ けれど
朽ちた柄の周囲を周る身振りは 今に伝わり
その儀式の最中
枯草の冠の皇帝と
錆釘の冠の愚者と
どちらが先に 緋色の斬り口
仄白いあのヤロウを 握り潰してやろうと
藻掻いて登り 足掻いて登る
蝉時雨の幹を登り切ったら 何がある
首を落とされ 清々とした
顔なしの世界がある



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今年の7月、トランプ氏の暗殺未遂事件があったのがきっかけで、この詩を書きました。でも、書き終わったら、ぜんぜんアメリカ大統領選挙とは関係ない内容になっていました。「世界になにかを問うぜ」みたいなのはちっとも書けないのね、俺。
詩を書いたときは大統領選挙の前。そのときのトランプ氏は前大統領だったけど、今(2024/11)は現大統領ですね。

アメリカ大統領選について思うことを、ふたつ。
どんなものでも栄枯盛衰があるように、アメリカ合衆国も今、凋落の真最中で、日本が凋落した時(失われた30年とかなんとかの初めの何年?)よりは時間をかけてゆっくり落ちぶれるのだろうけど、だれが大統領になってもどうせ国力の低下は避けられないのだろうから、あまりジタバタしないでほしいなあ。落ちぶれるスピードが速まるぜ。
もうひとつは、歴史が浅くて多民族国家というのが理由なのだろうけど、アメリカ国民にとって、大統領選というのは「自分はアメリカに住んでいるんだ!!」と思わせる宗教行事なんだろうな。国民に国との一体感を感じさせるのは、国家としちゃ大事な仕事なんだ、特にああいうバラバラな国ではな。で、ゲームのルールはだれもが参加できるくらい単純なのがいいから二者択一方式(二大政党制)で、定期的にやらないと一体感が薄まるからオリンピックサイクルなのか。

開票前のニュース。投票を済ませたアメリカ人がTVのインタビューで「すごく興奮している」と言っていたけど、国家の未来に自分自身の未来を重ねて見ている感があった。
目がキラキラして、ちょっとまちがった触れ方をしたら簡単にヒステリーを起こしそうにナーヴァスで、今時の日本人のほとんどには程遠い感覚だ。その感覚の一部は錯覚だけど、一部は錯覚じゃないんだよ。ヘンな人が大統領になったら、じっさい困るんだし。
でもそんな実利方面をすっとばして、スピリチュアルな方面で国家とつながっているワタシ、みたいに深く陶酔した印象だった。そんなふうに国家に接続してもらって、みんな良かったね、大統領選があって。でも、ほんとうはどのくらいの距離感で政治と付き合えるのが、幸せなのかな。



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