「遅れない」「つらくない」編集者のスケジュールの立て方
こんにちは、高橋ピクトと申します。
実用書の編集を行っています。
今日は、書籍のスケジュールの立て方について、
「遅れない」「つらくない」調整の方法をご紹介したいと思います。
書籍をつくって、販売するまでにはたくさんの人が関わります。
一度発売日を決めたら、その日に向かって、できる限り遅れないように進行するのが編集者の仕事です。
書籍のスケジュール管理は難しい?
書籍づくりのスケジュール管理で難しいと感じるのは、
原稿執筆やデザイン作成など、0から1を生み出すような工程、つまり、作業期間が読みづらい仕事が多いところです。そんな中で、著者、ライター、編集者、デザイナー、イラストレーター、撮影チーム、校正者、印刷会社など、たくさんの人が関わるのも管理を複雑にします。
前提としてお話しておきたいことがあります。
これは恥ずかしい話ですが、今まで出版業界は、限られた時間の中でも、深夜残業や徹夜をすることで無茶をしてスケジュール通りに仕上げることがありました。しかし、今はそういうことがかなり少なくなりました(まったくないとは言えないのが、やっぱり恥ずかしいところです)。
当たり前ではあるのですが、今回の記事は、そんな中で関わる人全員が「遅れない」「つらくない」ことを目指したスケジュール管理の話だということを先にお伝えしておきます。
私の今までの経験や、先輩や仲間たちから意見を聞いたことをまとめて書籍づくりのスケジュール管理の実態をご紹介する記事です。もしかすると、他業種の方でも共感していただけることがあるかもしれません。
まず、とてもざっくりですが、
書籍づくりは、こんな感じの工程で動きます。
構成づくり → (取材) → 執筆 → (撮影)
デザイン→ (イラスト執筆) → 初校 → 印刷入稿 → 見本出来
※( )内の工程は本によっては、ありません。
ここからはスケジュール調整のポイントを紹介していきます。
1 逆算する
スケジュールは終わりの方から立てていきます。
まずは、印刷会社にデータを入稿してからの日程を把握し(色校出稿~印刷・製本)、本の中身のデザインができてから、そのチェックの期間を把握して(デザイン~初校出来~念校)、デザイン、原稿やイラスト、本のそれぞれの要素の製作期間を把握して、作業を開始します。
このときExcelで表を作るなど、ビジュアル化して共有することが大事だと思っています。各スタッフが自分の作業にどれくらいの時間をかけられるのか、一目でわかるからです。
「執筆期間に対して、初校のチェック期間が長くない?」など、時間のかけ方の偏りもわかります。
2 時間が読めないところはどこか?
スケジュールを管理する(責任をもつ)人は、
「作業時間が読めないところ」を見定めます。
ここが、スケジュール通りにいくかどうかのキモになるからです。
たとえば、「原稿を書く人が、初めてのテーマを書く場合」
あるいは、「何本も並行して仕事をかかえる編集者が編集を行う場合」
「1ページごとのデザインが緻密な場合」などです。
もしくは、「原稿を書く人が、本業のかたわらで執筆を行う」ケースも作業時間が読めない(作業する時間が読めない)と言えるでしょう。
ここを理解したうえで、スタッフとコミュニケーションを取ります。
3 時間の使い方は人によって異なる
スケジュール管理が難しいのは、ここです。
作業の速さや、どれくらいの時間を割くことができるかは、十人十色。
さらには書籍によって、ページ数も、1ページに対する作業量も異なるので、どれが正解と言う事ができません。
そこで大事になるのが、コミュニケーションです。
その仕事ごとに目標値を設定します。
たとえば、
「1章分の原稿は、どれくらい(何日)で書けますか?」
→「1~3章は1週間ずつで、4章だけは10日ほしいです」など。
これは、ピッタリこの通りにいかなければ、まずいというものではなく、
あくまで目標として、それ以降も、余裕をもったスケジュールを組みます。
4 長い仕事は、目標値を前倒しで設定
出版時期がずいぶん先で、原稿はじっくり書いてOKという企画がありますが、そういう企画ほど、目標設定が大事です。また、時間をギリギリまで使うと、本当にギリギリになってしまうので、制作期間に余裕がある場合は、作業終了を極力早めに設定して、余裕を持つ方がよいと思います。
たとえば来年、2025年の2月に本を出版する場合は、1月に印刷会社に入稿というスケジュールを立てたいところですが、この場合は、11月末くらいにデータを完成させるようなスケジュールを立てられると理想です。なかなか難しいのですが、長い制作期間が、結局ギリギリになってしまった経験が多くあるので、このほうが安心して進行できることがわかりました。他の編集者の話では、制作が前倒しだと、営業用の資料が前もって用意できるので注文アップにつながることもあるそうです。
5 問題が起きたらどうするか?
本づくり、というよりも、仕事に不測の事態はつきものです。
「トラブルが発生しない仕事はない」と考えて、冷静に、周りの先輩、仲間に相談しながら、そのときできる限りのことをしています。
A 原稿が期日にいただけない
期日が来たのに原稿をいただけない場合は、連絡を取ります。返事がなくても大丈夫、受けとった人はきっと見てくれています。数日経って、原稿と一緒にメールが届いたら一安心。
よくあることですから、こういうことを見越して数日ならば吸収できるようなスケジュールを立てたいところです。
また、当初立てていたスケジュールでは、作業時間が足りないケースもよくあります。こういう場合は、何に時間がかかるのかをしっかりヒアリングして、スケジュールを調整する必要があるのか、それとも他の対策が必要かを見定めます。
たとえば、取材や資料が足りていなくて原稿が書けない場合があります。また、コンセプトの相互理解が不十分で、原稿を書く人が悩みながら作業をしている場合もあります。
「悩むこと」は本づくりにとって大事なことですが、何をするかよくわからない状況はよくありません。その時点で、一度電話や対面での打ち合わせを行って、どうしたらスムーズに作業を進められるのかを話し合います。
また、あると困ってしまうのですが、期日から3日経っても連絡がない、1週間経っても連絡が取れない。ということも、あります。対応はお願いしている方によって変わりますが、そういうことがあるけど“わかって”お仕事をお願いしている場合は(それも織り込み済みなので)待ちます。初めてのお仕事の場合や、何度目かのお仕事の場合は、周囲の関係者に連絡を取り、どういう方なのかを理解したうえで、連絡手段や、次善の策を考えます。
こういうときは、周りの先輩や仲間、スタッフの意見を聞くことがとても大事です。感情的に連絡をすることはどんなケースでも何も生みませんので、あくまで冷静に、丁寧に対応します。
B 遅れた結果、しわ寄せが発生した
これがとても大事なことです。
たとえば、原稿や編集作業が遅れた時、前もって予定していた期間で調整できる場合はよいのですが、後の作業にしわ寄せが発生することがあります。大体の場合、イラストレーターさんやデザイナーさん、印刷会社さんの作業となります。
ここからはチームワークが密になりますので、丁寧に調整をすることで、各スタッフが作業しやすい環境を整えたいです。
まず、スケジュールが遅れることが分かった時点で連絡を入れるのが大切です。そのうえで、対策を考えます。
たとえば、編集者からデザイナーへの入稿作業(原稿やレイアウトをデザイナーに渡す)の場合、できることならば、作業工程、章ごとの進行表をつくります。
どの章がいつ入稿されて、どれくらいの作業期間があるのか、それで作業が可能なのか、作業者全員の合意の元、作業を進めるのが大事です。
時間が限られている場合は、皆が無理せず、正直に意見交換してスケジュール表を作ります。最近便利だと思うのは、こういうタイミングでリモート会議を活用できることです。対面する時間はないけど、顔を見て話したい(お詫びしたい、今までの仕事にお礼がしたい)というときに素晴らしく有効な手段だと思います。
出版月はなんとなく決められたものではありません。
たとえば、夏に向けてダイエット本を、ワールドカップの前にサッカー本を、と一番売れるタイミングを編集、営業で考えて決めたものです。可能な限り時間内でできる方法を考えたいところです。
でも、ここで、スタッフに無理!と言われたら、やっぱり無理です。
スタッフだって、売りたい気持ちに応えて作業をしてくれていたはずですが、それでも難しいと判断しているのですから。
しわ寄せによって、作業時間が短縮されてしまった方からそういわれたら何も言えません。調整に入ります。
6無理な場合は速やかに調整に入る
出版月がずれずに進行すれば、素晴らしい事ですが、そうとも限りません。
前述のように、スタッフが無理だという作業をお任せすることはできません。そういう場合は、社内調整に入ります。編プロの場合は、版元との相談となります。
その場合、ただ遅れるということだけでなく、できるだけ詳細に報告します。
どの作業工程で一番時間がかかったか、
そのうえで、今、時間がかかっている作業は何か、
その作業はどれくらいの時間で終了するのか、
そして、その企画の作業終了はいつなのか、いつ出版になるのか。
担当部署によっては、細かい報告は不要かもしれませんが、
すべてのスタッフが誠実に時間を使ってきた結果遅れてしまったのなら、そのことを、
途中、トラブルがあったら、その内容と対処を明らかにしながら、遅れることを伝えます。
そうすれば、大概の場合は、困られながらも、わかってくれると思います。
以上、スケジュールの立て方と進行管理の方法について、書かせていただきました。あたり前のことの積み重ねですが、誰もがそのとおりにできないのがスケジュール管理の難しいところです。
「遅れない」「つらくない」調整と書いておきながら、
だいたいが遅れた場合の対処の仕方になってしまったようにも思いますが、
私が見た、書籍のスケジュール調整の実情は以上です。
チームが気持ちよく仕事ができて、なおかつ遅れないように動けることを理想に、日々の業務を行っています。
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文 高橋ピクト
生活実用書の編集者。『新しい腸の教科書』『コリと痛みの地図帳』などの健康書、スポーツや囲碁、麻雀、競馬、アウトドア、料理など、趣味実用書を担当することが多いです。「生活は冒険」がモットーで、楽しく生活することが趣味。ペンネームは街中のピクトグラムが好きなので。
今までの反省や、いつも考えていることを書き出してみたら、あっという間に記事ができました。しかし、何度読み返しても大したことを言えていないというか、当たり前の事しか言えていないです。また、他の方が見たら、きっと編集者側に偏った視点だと思われるはず。これからもいろいろな立場の方とコミュニケーションをとって、少しでもよい本づくりの現場をつくりたいと考えています。
Twitter @rytk84
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