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フードエッセイ『アイスクリームが溶けぬ前に』 #6|辰味食堂(裾野)
ずっと君のことを知ってて、
ようやく、のれんをくぐれたよ…というお店がある。
引戸の奥にどんな世界が広がっているんだろう、と想像する日々。
車で通りすぎても営業日にたどり着けなかったのは、恋愛でいう片思いのようだ。
今日もおあずけなんだろうなという気持ちを抱えながら運転していると、少し遠くからでも分かる「営業中」の立て看板が出ているではないか。ようやく会えた、辰味食堂へ車を乗り入れる。
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恋焦がれるって、こういう感情なのかな。
引戸をあけると、町食堂の雰囲気漂う内装と、どこか懐かしさを感じる4人掛けのテーブルとパイプ椅子がぼくを待っていた。
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クローズキッチンよりオープンキッチンが好きなのは、
次が自分の料理か…!?みたいなワクワクがあるのも一つかも。
今日のおすすめと入り口に書いてあった「さばの煮付け定食」を頼もうとしたが、注文前に醤油ベースの味つけと知って、野菜炒め定食にオーダーチェンジ。事前チェック済みのご飯大盛りで。
待っている間、ロードサイドを走りゆく車の音を聴きながら、心と頭では、午前中にカーラジオから流れてきた中森明菜の「十戒」がエンドレスで流れ、いつの間にかサビのメロディラインを口ずさんでいた。
『約40年前の歌番組が生歌、生バンドでお茶の間をとりこにしたように、さまざまな定食で人々を魅了してきた「辰味食堂」。ついに今日のメインステージ、ご飯大盛り、小鉢にお新香にデザートがのせられた野菜炒め定食の登場です…!』と、昔の音楽番組の司会が言いたくなるような、野菜炒め定食の入場だ。
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白菜のお新香からいただくと、しょうがと鰹節ベースの味に驚く。お新香にパンチを食らうのははじめてだ。
手作りのお味噌汁と野菜炒めの味付けで、無意識にご飯の量が減っていく。
この小鉢はなんだと食べてみると、小松菜とツナのマヨネーズ和えだ。この
組合せは初物だったが、これも美味しいとお腹が踊る。なんだろうこの香りは…と気になる正体はかつおぶし。この定食でのかつおぶしの大活躍ぶり、地味とはいわせない味の引き立て役。
隣に座った老夫婦がサッと入ってきて、「野菜炒め定食二つ」と頼んだとき、これはこの店の当たりだったんだ、勝利だ…と自分に向かってガッツポーズ。これだけでも十分だけど、寒天にマーマレードジャムがのったデザートは、お客さんに食後の楽しみを届けてくれる。デザートの力は偉大だ。
美味しかったときは、完食して空になったお皿たちに向かってごちそうさまを。そして、会計が終わったらごちそうさまを。
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力強い字体、それとは似つかない柔らかい店内の雰囲気。
ごちそうさまは、お店への最大の感謝の表現だ。いろんなごちそうさまに出会うたび、いろんな人やお店、食材、料理、そこでの物語に出会えたことの喜びが増えていく。
引戸を引いて次の行き先へ行く前に、ごちそうさまでした。
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次の目的地へと向かうぼくを見守っているかのように。
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