ゆっくり息を吸って
ゆっくり吐く
金色の光を吸って
金色の光を吐く
萬のものはすべて流れる水の如し。
古来より、水は、私たち人類のすぐそばにありました。
古代ギリシャにおいては万物の根源
すなわち、アルケーは、水ではないか
という説が唱えられました。
確かに、私たちの体内の組成のたいがいは水
そして宇宙ができた時、初めてできた物質が水素でした。
そして生命は海で誕生しました。
水は全てを溶かし、なおかつ全てを癒す。
流転し、形を変えながら、その本質は少しも変わっていません。
水の流れは不可思議なるかな。
すべてを溶かし、すべてを癒します。
今から2500年有余年の昔
この時代は、洋の東西にさまざまな偉大な聖者が誕生します。
東にはインドのゴーダマ シッダールダ
西には古代ギリシャの哲学者
中国においては老子
まさに人類の目覚めの季節でありました。
あなたの師匠は、”万物の根源は水であるぞ” と解く
古代ギリシャの有名な哲学者「ターレス」でありました。
当時、あなたは今でいう「ライアー」
当時、「リラ」と呼ばれる楽器の名手でありました。
しかし、腕前は最高の域に達していましたが、
なかなか自分のファンが増えずに悩んでおりました。
技量を磨き、腕を磨けば磨くほど、友人たちは皆こぞってこう言いました。
これでは、生計が成り立ちません。
さて、あなたの師匠にそうした生活上の悩みを打ち明けますと、
ターレスはまったく、その話には答えようとはしませんでした。
あなたはそれに反発しました。
しかし、毎日の生活が困窮を極めるのに従い、
ますます苦悩が深くなりました。
いったいどうしたものか。
ターレスはぼそりと言いました。
そんなある日でありました。
あなたの姪が生まれつき、目が弱く、
このままでは失明してしまうであろうと、医師から言われておりました。
ついにはほんとに視力を失ったのでありました。
この姪のためにも、何とか有名にならなければならない。
思えば思うほど、先行きが不透明となりました。
その姪がある時、あなたにこう言うではありませんか。
そう姪に言葉をかけました。
すると、驚くべき答えが返ってきたのであります。
そう言われて、そうかもしれないと思うようになったんです。
確かに今までは、弦楽器を弾く時、自分の指の動きをしっかり見つめていました。
思い切って、目を閉じることにしたんです。
そして、自分の音を聞くようになりました。
さらに音を聞くことから、指で触れる感覚に心を振り向けるようになりました。
その時、初めて気がついたことがあったんです。
音楽というのは、楽器と自分が触れ合って、一つになることだ。
目だけは自分と相手が離れて存在しますが、耳も嗅覚も味覚も、すべて相手と一つになることです。
自然に楽器と一つになろう、一つになろうとする意識が生まれました。
そのことを通じて、聞き手と一つになろう、一つになろうとする心の働きが育っていったんです。
しばらくして、師匠のターレスに会いました。
その気づきを申し上げると、
それからね。
あなたはリラの楽器を弾いても、器と一つになろう、聞き手と一つになろうなろう、と心がけるようにしたんです。
すると不思議なことが起きました。
お客さんの感情がふと手に取るようにわかり始めたんです。
次第に自分が弾いてるのか、お客が弾いてるのか
お客もまた自分が弾いてるのか、あなたが弾いてるのか
ついにはどちらでもいいという気持ちになったんです。
それからですよ。
絶賛される演奏家になったのは。
あと一歩のところまで、あなたは来ていらっしゃいます。
世界は、自分が世界と触れ合って、一つになる場である。
万物は水の如し。
水、すなわちすべてと触れ合い、すべてと一つになる道なり。
これを TAO(タオ)という。
流れよ
流れよ
永遠の導きの空間の中
人とともに
我とともに
ゆっくり吸って
ゆっくり吐く
もう一度
ゆっくり吸って
ゆっくり吐く