【第七場 詩人のおじいちゃん】
《E氏→詩人は大自然が話す言葉を食べている。シュールで面白い。しかし、食べたところをみると、この詩人が言っていたことは嘘(あるいはレトリック)だったわけで、少し残念。けれど、黄色いおじさんの変形ぶりは圧巻》
砂漠のあてもない旅が続いていました。しばらくすると道の先の方に、ぼろぼろの服を着たおじいちゃんが倒れているのが見えました。砂漠で行き倒れになる人は多いんです。このおじいちゃんも死んじゃったんでしょうか。おじさんは、じょうろの先を細くすると、おじいちゃんの口に近づけて水を一滴ポタリ。すると おじいちゃんがゆっくりと目をあけました。
『ああよかった。生きてたんだ』
と わたしは思いました。よっぽどのどが渇いていたのでしょう。おじいちゃんは おじさんのじょうろの先に口をつけて、チューチューと夢中になって吸っています。ようやく落ちつくと、おじいちゃんは、しゃべりはじめました。
「わしは、詩人なんじゃ」
詩人というのは 詩を書く人のことだそうです。でも、この詩人じいちゃんは、詩をひとつも書いたことがないと自慢げに言っていました。
「わしは、詩人だからメシなんか食わん。言葉や文字を食べて生きていけるんじゃ。大自然はな、たくさんの言葉を話しておるんじゃぞ」
と、おじいちゃんは言いました。わたしが、
『この人、水は飲むのに、ゴハンは食べないんだ。わたしみたい』
と思っていると、おじいちゃんのおなかがグーと鳴りました。そして、
「あーあ」
と大きなあくびをして、おじいちゃんはまた眠ってしまいました。ありがとう星人のおじさんは、しばらく考えていましたが、ハッと明るい顔になると脚をながーく伸ばしはじめます。
『わー、たかーい!』
高い所から見ると、どこに何があるか簡単に分かるんです。西の方に小さな村が見えました。おじさんは、近くにあった山の三倍くらいになって、歩きはじめます。大きな山も軽くひとまたぎです。大またで、一歩、二歩、三歩…、十歩も歩かないうちに、アローンという村に着きました。
アローン村は、とても静かな村です。それもそのはず、誰もおしゃべりしていません。おじさんは、人通りの多い道路に行くと、すーっと元の大きさに戻ります。それから、大きくふくらんだり、小さくなったりして、観客を集めました。さて、おじさんは何をするのでしょう? おじさんは 見に来た人たちひとりひとりの顔になって言いました。
「アリガトウ」
どんなに相手がすました顔でも、怒った顔でも、おじさんは、そっくりな顔になって微笑みながら言います。
「アリガトウ」
すると、最後には誰もが笑ってしまうんです。
「ありがとう?」
そして、ゴキゲンになった人たちが、お金をくれたり、食べ物をくれたりしました。あっと言う間に、たくさん集まったので、おじさんは店じまいです。また脚を長く伸ばして歩きだします。
おじさんが去ったあとも、その村には笑顔がたくさん残りました。アローンという村は、孤独な人ばかりの寂しい村でしたが、おじさんと会った人たちは、ほかの人と少しずつお話できるようになっていったそうです。
帰ってきたおじさんは、詩人じいちゃんの前に立つと、集めてきた食べ物やお金を置きました。詩人じいちゃんは、食べ物を目の前にしても、
「わしは 詩人だからなあ。マンマは要らんのだよ」
と言っています。でも おじさんが、
「アリガトウ」
と言って、すすめますので、詩人じいちゃんは
「そんなに言うなら仕方ない。食べてやるか」
と恩きせがましいことを言って食べはじめました。
まずい
ここで矛盾点を見つけてしまったので、見つかる前に戻って訂正します。