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アカデミー作品賞、個人的ランキング④(60位~51位)

みなさんこんばんは。
今回は作品賞ランキング、60~51位を紹介します。

60位 『地上より永遠に』(第26回・1953年)

13ノミネート・8受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、助演男優賞(フランク・シナトラ)、助演女優賞(ドナ・リード)、脚色賞、撮影賞(白黒)、編集賞、録音賞
ノミネート : 主演男優賞(バート・ランカスター、モンゴメリー・クリフト)、主演女優賞(デボラ・カー)、衣装デザイン賞(白黒)、ドラマ・コメディ音楽賞

他のノミネート作品
『ジュリアス・シーザー』(5ノミネート、1受賞)
『聖衣』(5ノミネート、2受賞)
『ローマの休日』(10ノミネート、3受賞)
『シェーン』(6ノミネート、1受賞)

 この回は典型的な感じで、ダントツ最多ノミネートの本作がそのままダントツ最多受賞を果たしました。ノミネート作品で特筆すべきは『聖衣』でしょうか。話としては大したことない聖書の話ですが、ハリウッド初のシネマスコープ映画として封切られ話題となりました。
 本作、ゴリゴリの戦争映画かと思っていたんですが意外とそんなことはなく、しっかりとした人間ドラマでした。
 また軍隊のイジメという暗部を初めてはっきり描いた作品としても知られます。
 写真の海辺のキスシーンなど印象的なシーンも多く、フレッド・ジンネマンの堅実な手腕が光る作品です。

59位 『80日間世界一周』(第29回・1956年)

8ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞、脚色賞、撮影賞(カラー)、編集賞、ドラマ・コメディ音楽賞
ノミネート : 監督賞、美術賞(カラー)、衣装デザイン賞(カラー)

他のノミネート作品
『友情ある説得』(6ノミネート、0受賞)
『ジャイアンツ』(9ノミネート、1受賞)
『王様と私』(9ノミネート、5受賞)
『十戒』(7ノミネート、1受賞)

 この回は『王様と私』が受賞するべきだったとの声が多いですね。あとは外国映画の躍進が目立ちます。フェリーニの『道』(脚本賞・外国語映画賞)、黒澤明の『七人の侍』(美術賞・衣装デザイン賞)が複数ノミネート、更に日本関係だと外国語映画賞に市川崑の『ビルマの竪琴』がノミネートされました(受賞は『道』)。
 なぜ作品賞をとったのか分からないという声が目立つ本作ですが、確かに話の内容としては作品賞には相応しくない気はしますが、世界を股にかけたスケール感はザ・作品賞という感じがします。
 普通に観ていて楽しかったですし、色んな国を周るのが異国情緒を感じてよかったです。日本も出てきますしね。

58位 『ディア・ハンター』(第51回・1978年)

9ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、助演男優賞(クリストファー・ウォーケン)、編集賞、録音賞
ノミネート : 主演男優賞(ロバート・デ・ニーロ)、助演女優賞(メリル・ストリープ)、脚本賞、撮影賞

他のノミネート作品
『帰郷』(8ノミネート、3受賞)
『天国から来たチャンピオン』(9ノミネート、1受賞)
『ミッドナイト・エクスプレス』(6ノミネート、2受賞)
『結婚しない女』(3ノミネート、0受賞)

 本作、若いメリル・ストリープが観られるというだけでも一見の価値アリです。この回はノミネート作品の選ばれ方が謎だなと思っています。『結婚しない女』なんですが、ノミネート数としてはこれより多いのが『インテリア』『天国の日々』など4作品あり、3ノミネートで並ぶのが『ブラジルから来た少年』など4作品あるんですよね。監督賞にもノミネートされてないしなんでなんだろう…
 それはさておき、本作ですが、写真にあるようなロシアンルーレットが有名だと思うのですが、実際観るとこうした戦地でのシーンは意外と少ないです。
 それよりも戦争が残す心の傷をヒリヒリと描いたヒューマンドラマ的な側面が強いです。また出てくる人物は白人は白人でもイタリア系、ロシア系移民などの貧困労働者階級です。
 いつの時代も戦争で心の傷を負うのは常に弱者なのだということが分かりますね。そういう意味で今にも通じる作品だと思います。

57位 『シンドラーのリスト』(第66回・1993年)

12ノミネート・7受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞、美術賞、撮影賞、作曲賞
ノミネート : 主演男優賞(リーアム・ニーソン)、助演男優賞(レイフ・ファインズ)、衣装デザイン賞、録音賞、メイクアップ賞

他のノミネート作品
『ピアノ・レッスン』(8ノミネート、3受賞)
『父の祈りを』(7ノミネート、0受賞)
『日の名残り』(8ノミネート、0受賞)
『逃亡者』(7ノミネート、1受賞)

 この回は非常にハイレベルで、『ピアノ・レッスン』『父の祈りを』『日の名残り』はもし別の回なら作品賞を受賞していたと思うほど傑作ぞろいです。個人的には『日の名残り』は人生ベストに入るほど好きなので1部門も受賞できなかったのは悔しい…
 また外国語映画賞にアジア映画が3本(香港代表『さらば、わが愛 覇王別姫』、ベトナム代表『青いパパイヤの香り』、台湾代表『ウェディング・バンケット』)入っているというのはかなり珍しいです。その中でも『さらば、わが愛 覇王別姫』はパルムドール受賞作で最有力と言われていました。ところがアジア映画で票が割れたのか、スペインの凡作『ベルエポック』にいってしまいました。
 さて、かなり脱線してしまいましたが本作の話をしましょう。本作は『カラーパープル』など社会派作品でオスカーを狙いにいっても外していたスピルバーグの切り札的作品ですよね。ハリウッド映画人にはユダヤ人が多いのでユダヤものは受けると確信してオスカーを取りに行った作品です。
 言うことなしの名作、流石スピルバーグといった感じです。美しいモノクロ撮影に赤いコートが映えます。繊細で間接的な心理描写が非常に上手く、まさしく映画的なアプローチが成功している作品ですね。

56位 『アーティスト』(第84回・2011年)

10ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演男優賞(ジャン・デュジャルダン)、衣装デザイン賞、作曲賞
ノミネート : 助演女優賞(ベレニス・ベジョ)、脚本賞、撮影賞、美術賞、編集賞

他のノミネート作品
『ファミリー・ツリー』(5ノミネート、1受賞)
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2ノミネート、0受賞)
『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(4ノミネート、1受賞)
『ヒューゴの不思議な発明』(11ノミネート、5受賞)
『ミッドナイト・イン・パリ』(4ノミネート、1受賞)
『マネーボール』(6ノミネート、0受賞)
『ツリー・オブ・ライフ』(3ノミネート、0受賞)
『戦火の馬』(6ノミネート、0受賞)

 この回は巨匠マーティン・スコセッシが初めて取り組んだ3Dのファミリー向け映画『ヒューゴの不思議な発明』が技術賞、本作が主要賞を独占する結果となりました。故に作品賞ノミネートされた中でも1部門も受賞できなかった作品が4作品とかなり多くなりました。
 さて、本作ですが、カンヌ国際映画祭でワインスタイン・カンパニーが買い付け、そのままトントン拍子にオスカーまでいったという作品です。フランス映画ですが舞台はハリウッド、そしてサイレント映画ですから「外国映画」という意識はほとんどなかったと言えます。
 とてもよくできた映画で、往年のハリウッド映画への郷愁を誘い、リスペクトもした作品であると言えます。話の内容は『スタア誕生』をそのままトレースしたようなものですが、白黒で抜群に決まったカメラワーク、的確な演出、主演二人の存在感と完成度は高いと思います。
 ただやはり作品賞にふさわしいかと言われると疑問ですね。「よくできた」以上のものをあまり感じなかったんですよね。あまりに『スタア誕生』そのまんますぎる。オリジナリティを感じないんですよね。個人的には作家性の強い『ファミリー・ツリー』か、スケールの大きな『戦火の馬』が作品賞をとるべきだったと思います。

55位 『ブレイブハート』(第68回・1995年)

10ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、撮影賞、音響編集賞、メイクアップ賞
ノミネート : 脚本賞、劇映画音楽賞、録音賞、衣装デザイン賞、編集賞

他のノミネート作品
『アポロ13』(9ノミネート、2受賞)
『いつか晴れた日に』(7ノミネート、1受賞)
『イル・ポスティーノ』(5ノミネート、1受賞)
『ベイブ』(7ノミネート、1受賞)

 この回の注目ポイントはずばりエマ・トンプソン!彼女は『いつか晴れた日に』で主演女優賞と脚色賞にノミネートされ、脚色賞を受賞しました。演技賞と技術賞に同時ノミネートされるというのは並大抵のことではありません。演技賞と監督賞、というケースはかなりあります。まさにこの『ブレイブハート』はメル・ギブソンが監督、主演しています。古くはチャップリン、最近だとウディ・アレンやケネス・ブラナーあたりでしょうか。でも脚本を手がけて受賞もしたというのは稀ではないでしょか?まあエマ・トンプソンはケンブリッジ大学を出ている才女なので当然と言えば当然ですが。
 さて本作ですが、非常にアカデミー賞らしい活気に満ちたスケールの大きい史劇です。調べると史実との違いからかなり批判もあるのですが、概ね僕は楽しんで観られました。
 とりわけ戦闘シーンの迫力、拷問シーンの残虐さは凄まじく、メル・ギブソンがやりたかったことがもろに伝わってきて好きですね。エキストラを2000人使ったというだけありますよね。
 かなりの長尺ではありますがあっという間に感じられるほどテンポが早く、俳優陣も素晴らしい。ソフィー・マルソーがノミネートされていないのはおかしいと思うんですよね。

54位 『フレンチ・コネクション』(第44回・1971年)

8ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演男優賞(ジーン・ハックマン)、脚色賞、編集賞
ノミネート : 助演男優賞(ロイ・シャイダー)、撮影賞、録音賞

他のノミネート作品
『時計じかけのオレンジ』(4ノミネート、0受賞)
『屋根の上のバイオリン弾き』(8ノミネート、3受賞)
『ニコライとアレクサンドラ』(6ノミネート、2受賞)
『ラスト・ショー』(8ノミネート、2受賞)

 この年はイタリア映画が複数主要部門に食い込んでいるというのが特色かなと思います。ヴィットリオ・デ・シーカの『悲しみの青春』が外国語映画賞と脚色賞にノミネートされ外国語映画賞を受賞、ベルナルド・ベルトルッチの『暗殺の森』も脚色賞にノミネート、ルキノ・ヴィスコンティの『ヴェニスに死す』は衣装デザイン賞にノミネートされています。また外国語映画賞には黒澤明の『どですかでん』がノミネートされました。
 さて、本作ですが普通にめちゃくちゃ面白い警察モノだったなという印象です。とにかくクオリティとか考える間もなく勢いで突っ走って行くみたいな展開はあっという間でした。
 また本作は警察も警察で大した作戦もないまま行き当たりばったりで突っ走るので刑事たちの横暴っぷりが凄いんですよね。
 名シーンとしてあげられる電車とのチェイスシーン、確かにあの執念と勢いは凄まじいですね。

53位 『トム・ジョーンズの華麗な冒険』(第36回・1963年)

10ノミネート・4受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、脚色賞、作曲賞
ノミネート : 主演男優賞(アルバート・フィニー)、助演男優賞(ヒュー・グリフィス)、助演女優賞(ダイアン・シレント、イーディス・エバンス、ジョイス・レッドマン)、美術賞

他のノミネート作品
『アメリカ アメリカ』
『クレオパトラ』
『西部開拓史』
『野のユリ』

 この回は、『野のユリ』シドニー・ポワチエが黒人として初めて主演男優賞を受賞したというのが最も注目すべきポイントでしょう。また、本作から助演女優賞ノミネートが3人というのも見たことないですね。他にないんじゃないでしょうか。日本関係だと中村登の『古都』が外国語映画賞にノミネートされました。
 本作はそもそもソフトが品薄で、配信はもちろんTSUTAYAなどのレンタルショップにもなく、私は1万円弱で購入せざるを得ない状態でした。そうしたらその後すぐにU-NEXTで配信が始まって死んだ目になったという苦い思い出があります…笑
 それはさておき、本作はかなり誤解されがちな作品だと思います。作品賞なんてとってしまったから余計だと思います。そもそもこのトニー・リチャードソンはイギリス・ニューウェイヴの作家として名を上げました。カンヌで男優賞と女優賞に輝いた『蜜の味』や『マドモアゼル』、『ホテル・ニューハンプシャー』など作家性の強い作品をつくるタイプなんですね。
 そのため本作は一応原作はありますが、かなり大胆なタッチで描いています。系譜としては今のアダム・マッケイやデヴィッド・O・ラッセルに繋がる感じだと思います。かなり大胆なコメディ要素、過激な要素を含む時代劇です。アカデミー作品賞としてはかなり異質なんですが、作家性を感じながら観ると楽しめるはずです。

52位 『クレイマー、クレイマー』(第52回・1979年)

9ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演男優賞(ダスティン・ホフマン)、助演女優賞(メリル・ストリープ)、脚色賞
ノミネート : 助演男優賞(ジャスティン・ヘンリー)、助演女優賞(ジェーン・アレクサンダー)、撮影賞、編集賞

他のノミネート作品
『オール・ザット・ジャズ』(9ノミネート、4受賞)
『地獄の黙示録』(8ノミネート、2受賞)
『ヤング・ゼネレーション』(5ノミネート、1受賞)
『ノーマ・レイ』(4ノミネート、2受賞)

 この回はパルムドール受賞作が3作品そろったんですよね。何気にレベルが高い回かもしれません。その3作品は『オール・ザット・ジャズ』、『地獄の黙示録』、『ブリキの太鼓』で、いずれも何かしら受賞しています。
 最近『マリッジ・ストーリー』が現代版『クレイマー、クレイマー』と言われて再度脚光を浴びましたね。確かに離婚をめぐるシリアスなドラマというのは似ています。
 ただ決定的に異なるのは『マリッジ・ストーリー』が夫婦にかつてあった愛情を繊細な演出でみせていく手法だったのに対し、こちらは父親と息子の関係に絞ったつくり。ダメダメな父親を演じるダスティン・ホフマンは素晴らしいです。
 ただやはりメリル・ストリープ演じる妻側がほとんど描かれないので感情移入どころか不快になってくるんですよね。正直この妻が自分勝手な女にしか見えないんです。夫が家庭を顧みずモラハラ気味だったというのも裁判の証言で言うのみで実際そうだったのか見せてくれないので不信感だけが募っていくんですよね。
 メリル・ストリープは助演女優賞にふさわしい演技をしているとは思えないし、ジェーン・アレクサンダーに至っては出番も少ないしさして印象的な演技もないので何故ノミネートされたのか…
 クオリティの高さは認めますが、僕としては不快な映画ですね。

51位 『わが谷は緑なりき』(第14回・1941年)

10ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、助演男優賞(ドナルド・クリスプ)、美術賞(白黒)、撮影賞(白黒)
ノミネート : 助演女優賞(サラ・オールグッド)、脚色賞、編集賞、録音賞、作曲賞

他のノミネート作品
『塵に咲く花』(4ノミネート、1受賞)
『市民ケーン』(9ノミネート、1受賞)
『幽霊紐育を歩く』(7ノミネート、2受賞)
『Hold Back the Dawn』(6ノミネート、0受賞)
『偽りの花園』(9ノミネート、0受賞)
『マルタの鷹』(3ノミネート、0受賞)
『我が道は遠けれど』(1ノミネート、0受賞)
『ヨーク軍曹』(11ノミネート、2受賞)
『断崖』(3ノミネート、1受賞)

 本作は「映画史上に残る傑作『市民ケーン』を負かした映画」というレッテルを貼られてしまっている作品です。まあ確かにいかに名匠ジョン・フォード作品といえど『市民ケーン』の芸術的到達度には及ぶべくもない作品なのは間違いないですね。
 ただ、作品賞らしい作品賞とは言えるかもしれません。炭鉱で働く一家のハートウォーミングな物語で、スケール感もちゃんとあるということです。まあ確かに4度の監督賞に輝く巨匠のベストか、と言われると違和感がありますが、ちゃんと面白いです。
 家父長制の崩壊、炭鉱を主産業とする田舎町の衰退、そして田舎独特の閉鎖的社会といった暗部に切り込んだ作品としても見応えがあります。端正なストーリーテリングと緑豊かな自然の撮影は素晴らしいです。


ということで今回はこれまでです。
読んでいただきありがとうございました!

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