なぜZARAは年間2,000本ものジャンボ機をチャーターするのか?
インディテックスというスペイン企業をご存じでしょうか。もしかしたら、社名よりもファッションブランドの「ZARA」の方が有名かもしれません。2021年現在、同社は売上世界一のアパレルメーカーです。
アパレル業界では、最近ユニクロ(ファーストリテイリング)の時価総額がZARA(インディテックス)を上回ったことが話題になりました。けれど、売上高では依然としてZARAが世界一(約3.5兆円)をキープしています。
今回は、世界一のアパレル企業のユニークな戦略に迫っていきます。
ジャンボジェットを使った贅沢な物流
ZARAの特徴の一つは「空輸」です。1年間になんと2,000本(週に40本!)ものボーイング747をチャーターして商品を空輸しています。ちなみにボーイング747はいわゆるジャンボ機で、世界でも有数の大型旅客機です。
空輸を選択することで、ZARAは圧倒的な「高速物流」を実現しています。ヨーロッパで生産された商品を世界中のどこへでも48時間以内に届けられる驚異的な物流インフラを構築しているのです。
ZARAの高速物流はすごいけれど、当然ながらデメリットもあります。それはコストの高さです。
日本のZARAは、ぶっちゃけ高い
空輸の一番のデメリットは、コストがかかることです。船便など他の輸送手段に比べ費用がかさみます。その結果、ZARAの商品はスペインから遠ければ遠いほど高くなる傾向にあります。
いまから2年程前、私はスペイン旅行に行く直前に日本のZARAでジャケット(15,000円)を購入しました。旅行中に立ち寄った現地のZARAで、同じ商品が8,000円程度で売られているのを見たときには、なんとも言えない気持ちになったことを覚えています。それだけ内外価格差が大きいわけです。
ZARAと対照的なのはH&Mです。H&Mは「グローバル統一価格」を基本戦略にしています。世界中どこでも同じ低価格で商品を提供しようというわけですね。ZARAは高コストの空輸を選んでいるから価格統一ができません。
ここで一つ大きなギモンが湧いてきます。なぜ、ZARAはわざわざ空輸を選んでいるのでしょうか。
なんで低コストの船便を使わないんだい?
ZARAがジャンボ機を使った空輸にこだわる理由は「スピード」に尽きます。コスト面では船便の方が安いのは間違いありません。けれど、船便を選ぶと世界中に48時間以内に商品を届ける高速物流が実現できないのです。
ファッション産業におけるZARAのポジショニングは「トレンドファッション」です。トレンドですからシーズンごとに流行も変わりますし、新商品の当たりはずれが大きくブレる可能性があります。
そして、その不確実性をカバーするのが高速物流というわけなのです。いったいどういうことでしょうか。
トレンドを読むのではなく追いかけるのがZARA流
移ろいやすい消費者のトレンドを読み切るのは、世界一のアパレル企業とて至難の業です。そこでZARAでは、シーズン初めに少量生産したトレンド商品を店頭に並べて、消費者の反応をテストするアプローチを採っています。
少量生産した新商品を世界中の店頭に並べてみて、消費者の反応が良かったものを取り入れて素早く追加生産するのがZARA流です。そして、こうした多品種少量のスピード生産を可能にしているのが、高速物流なのです。
世界中のどこへでも48時間以内に商品が届けられるわけですから、トレンドファッションについて素早い仮説検証サイクルを回ることができるのです。
まとめ
今回はZARAのユニークな戦略について整理しました。
よく「ファッションは生もの」と言われますが、それを誰よりも理解しているのはZARAなのかもしれません。同社は高速物流インフラを構築することによって、素早い仮説検証サイクルを回せる体制を構築しているのです。
ZARAやユニクロについては、これ以外にも実に様々な論点があるので、別の機会にも整理していきたいと思います。お読みいただきありがとうございました。
※参考文献