教師の名札に『漢文・返り点』落書きで『ウマく一生を渡る』
高校時代の古文授業に関わるエピソードを書きました:
ならば、『漢文』がらみのエピソードも書かねば……。
仲間うちでは、『漢文』は『古文』ほど人気がありませんでした。今でもぼんやり憶えているのは、『五言絶句』『七言律詩』という詩の分類がぼんやりと……ぐらい。
でも、漢文を日本語読み(訓読み)する時に使う『返り点』のルールは今でもわかります。それにはやはり、関連エピソードがあるからです。
『返り点』には『レ点』や『一二点』があります:
・レ点:一つ下の文字を読んだ後に戻って読む。
・一二三点:二文字以上戻る場合に使う。一、二、三の順番に読む。
さて、物理の教師に馬渡一生先生という方がいました。体格のいい、寡黙な人格者、という感じの先生でした。
この先生は当時40代後半ぐらい、おそらく物理教科の主任のような役職にあったのでしょう ── 物理実験室の安全責任者でした。
このため、物理教室の入口には、この先生の名前が書かれた、2cm✖10 cmぐらいのプレートが掲げられていました。
ある日、クラスのひとりが気付いたのです。
「おい、物理実験室のネームプレート見たか?」
「え、何のこと?」
「先生の名前に『返り点』がついてるんだよ!」
よくわからないまま、彼の先導で見に行きました。
「なんだ、これ?」
「あ、そうか……『馬ク、一生ヲ、渡ル』……」
『ウマく一生を渡る』だ!
「……誰のいたずらだろう?」
「……先輩だろうな」
「……これは、すごいな!」
「……ああ」
これほどウィットに富んだいたずらは、それまでもその後も、出会ってはいないように思います。
ある種の『バンクシー』……いや、それ以上かもしれない。
え、先生のその後ですか?
それから十数年後、馬渡一生先生はその高校の校長に就任されました。