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首脳会談(短編小説;1,300文字)
「P大統領とK総書記が地方都市で直接会談したってね。鉄道でやって来たK総書記をP大統領が歓迎する映像が流れてたわよ」
「ああ……でもさ、P大統領って、影武者がいっぱいいるんだってね? あれ、本物かなあ? 首都の大統領官邸でS主席のような大物と会うならともかく、今回は本人がわざわざ来る必要ないじゃん。時節柄、リスクも高いし……」
「なるほど……そうかもしれないわね。だけど、K総書記側だって影武者が何人もいるんでしょ? 権力がひとりに集中してるんだから、留守中にクーデターでも起こされたらたいへんよ。こっちも影武者を派遣したんじゃないの?」
「そうか……影武者と影武者が会談した可能性もあるか……」
「背恰好が似てる人に整形手術するウワサもあるし、わからないわよ」
「話し方とか癖を似せるために、かなり訓練するらしいね」
「その人が影武者だってこと、相手だけじゃなくって、周りの人にもわからないかも……」
「確かにね。相手が本物か影武者かなんて、どうでもいいのかもしれない。とにかく、それらしい二人が会ったって事実と、事前に決まってたことを合意した、っていう、それだけが重要なんだ」
「権力がひとりに集中してるってことは、分身みたいなのがたくさんいて……」
「それこそ、Ubiquitous(いつでもどこでも存在する)状態になっているのかも」
「そのうち、どれが本物か、誰にもわからなくなったりして……」
「重要な政策も、決断も、影武者のひとりが決めていたりして……」
「あの戦争も……?」
「じゃあ、チャップリンの『独裁者』じゃないけど、そっくりさんを送りこんだらどうかな?」
「どれがどれだかわからなくなって……」
「それで戦争を止めるわけね……」
「でも、さすがに瞳の虹彩とか指紋で判定するんじゃない?」
「あ、そうか……そうしたら、全員偽物、という判定がでたりして……」
「いつの間にか、実物は存在しなくなっている、という……でも、『独裁システム』は機能している、という……」
「そもそも、最初からそういう設計の『独裁者』ってのがありうるのかも」
「……なるほどね。1台のサーバーにデータを保存しておくだけだと、そのサーバーが壊されたり乗っ取られたら全てが壊滅するけど、『ブロックチェーン』技術で無数のサーバーに情報を分散しておけば安全、というのと同じだわね」
「『ブロックチェーン型独裁者』か! かなり怖いね」
「いやいや……AIが支配者になる話は、『1984』だったり、『2001年宇宙の旅』だったり、かなり前からあるけど、あの時代は1台の大型コンピュータというような設定だった。……今なら間違いなくブロックチェーンだわね」
「うーむ。かなり怖いね! 自分が毎日使ってるPCも、『独裁システム』の1部 ── かもしれないわけだ」
「スパイ機能も果たしていたりして……」
「……」
「……」
「ところで君、……なんだか少し若返ったような気がするけど」
「あんたこそ、最近様子がおかしいわね。ほら、また、右手を耳に……そんな癖、あったっけ」
「夫婦の『ブロックチェーン化』って……?」
「もう始まってる……?」
「……いいかも」
「……悪くないかも」