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こ 「コート」


冬にコートを着なくなった。10年前にあったコートは全部筋トレでサイズが合わなくなり着られなくなってしまった。今は一着だけ持っているけれど、それは筋トレ後にXLを買ったので今もなんとか着られる。それ以外の冬服は大きめのダウンジャケットと、ミリタリージャケットだけだ。筋トレをすると、自分の体型にあうコートを探すのが難しい。冬のアウターはもう今所有しているものでほぼ完璧に満足しているから、向こう5年か10年は買う必要がなさそうだけれど、筋トレとファッションの両立って難しい。「筋トレをシリアスにしている人はみんな普段着がジャージになっていく」というのは実は奥深い問題なのだ。

まず、筋トレをして腕や足が太くなり、肩周りや胸囲が大きくなると、それに合わせて買った服はすべからく袖と裾とウエストが不釣り合いに長く、大きくなってしまう。かといって袖や裾やウエストで合わせると他の部分がパッツパツで、座った瞬間にビリっと行きそうになる。かくして「ストレッチ素材こそ神」ってなってくる。Tシャツやズボンはわりとストレッチ素材が多いし、ユニクロのハイパーストレッチシリーズ(神)にも救われる。

ところが「ストレッチ素材で作りにくいもの」が世の中には存在し、それらが一番悩ましいアイテムとなる。その代表的なのが「コート」なのだ。特にステンカラーコート、チェスターコート、ダッフルコート、ピーコートといったクラシカルなコートはメリトンウールという硬い素材で作ることが多く、まったくストレッチが効かない。なので、去年着れたけど今年は無理、ということを恐れて我々はそれらを避けるようになる。結果的に大きめのダウンジャケットや、オーバーサイズのコートや、デカいミリタリージャケットになっていく。あとの温度はインナーで調整する。

世の中の服というのは、「標準体型の人が着たときに一番格好良く見える」ようにデザインされていることを痛感する。かくして筋トレガチ勢は次第にファッションから興味を失っていく。これは我々がファッションを見放したのではなく、ファッションのほうが我々を見放したと考えるほうがよい。ファッションに見放されたトレーニーは、判で押したように普段着がジャージになっていく。何事にも奥深い理由があるのだ。


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