第34回読書会レポート:中島 敦『山月記』(感想・レビュー)
(レポートの性質上ネタバレを含みます)
今回も満員御礼!キャンセル待ちが出るほどの大盛況!
じわじわと当会の認知度が上がってきて嬉しい限りですヽ(*^ω^*)ノ
教科書にも掲載される本作品は、学生時代の授業での一コマなどさまざまな話で盛り上がりました。
さらには常連さんからのワインの差し入れもあり、久々にほろ酔い気分で和やかな会になりましたよ。
参加者のご感想
・短い!
・名声を欲している
・とにかく名声!
・他者との比較
・自分大好き男の末路
・評価を外に置く李徴、内に置く袁傪
・若さを感じる
・中島敦のテーマだったのでは?
・虎は日本では勇ましさの象徴だが中国では悪の象徴。
作者:中島敦(なかじま あつし)について
私は作家論をとらないスタンスなのですが、読書会での「山月記は中島敦のテーマだったのでは」という指摘が気にかかり調べてみましたよ。
勉強しなくても成績が良く、でも健康に難のある愛に飢えた生涯。
そんな大きな影を背負っているところはさながら少女漫画に出てきそうな、女子が世話を焼きたくなるような人物に感じました。
(相当モテたと推測しますが、どうだったのでしょうか?私はこんな男性に惹かれやすいのかも??)
エリート一家に生まれさまざまに恵まれた環境で親の敷いたレールを走って来たのかと思いきや、実はその逆で家族に恵まれず可哀想な人生だったのだと同情してしまいます。
作家としての芽も出ず焦りだけが募っていった敦。
たしかに『山月記』の李徴にも通じそうです。
『山月記』:あらすじ
できない上司の下で働く気持ち……分かる!!
高級官僚としての地位をあっさりと捨てて、詩人として名を揚げることを選んだ李徴の気持ち、、、
なんでこんなにできない上司の言うこと聞かなきゃいけないんだ!と、私もいくつか転職を重ねてきたためよくわかります(なんだそりゃ笑)。
生活よりも自尊心を守ることを優先するという……。
もっとうまくやれればいいのでしょうが、博学才穎の李徴は組織でくすぶっているのは御免とばかりに、野心満々に詩人への道を突き進みました。そんな自己顕示欲を持て余した男の末路は悲惨なものと言わざるを得ません。
もちろん自分の心を守ることも大切です。我慢して働く必要はありません。
しかし同時に世間の評価と実力とのギャップを客観的に冷静に判断できる知恵を兼ね備えていなければなりません。
これは才能あふれる人の代表的な罠といえるでしょう。
残念。
「(非常に微妙な点に於て)欠けるところがある」とは?
李徴の詩は言わずもがな、第一級品なのですが、袁傪は微妙に何かが欠けていることを感じ取ります。
一体何が欠けているのか?
なぜ評価されないのか?
読書会では、「詩への愛や真摯な姿勢が欠けているのでは?」という指摘が出てきてその意見に私は深い感銘を受けました。
自身の技巧に酔いしれた高慢な詩が、人の心を打ち人生の支えになることはありません。
李徴は名声が欲しいがために、その手段として詩人の道を選びました。
けして情熱を持って我武者羅に詩人への道を突き進んだわけではないのです。
要するに分かりやすく他者からの評価を欲していただけで、ちやほやされたいという、ねじ曲がった自己愛が李徴を突き動かしていただけなのです。
評価を外に置く李徴、内に置く袁傪
それとは対象的に袁傪は温厚で身内を信じる人物として描かれています。例えば人食い虎が出るから危険だといわれても、「供廻りの多勢なのを恃み」出立します。
ここでの行動は、袁傪の部下の力を信じての行動ととれるのではないかという指摘がありました。
大きな組織の先頭に立ちながらも、お互いに固い絆で結びついた関係性を読み取れます。
物語の佳境でやっと李徴は、なぜ虎になったのかを悟ります。
妻子が道塗に飢凍することがないように計らって欲しいとのくだりで自嘲気味に、
「先ずこのことを先にお願いすべきだったのだ(中略)己の乏しい詩業の方を気にかけているような男だから、こんな獣に身を堕とすのだ。」と。
なにか吹っ切れたように感じる場面でもあります。
「二声三声咆哮した」とは何を言っていたのか?
読書会の最後に、「”二声三声咆哮した”とありますが、何を言っていたと思いますか?」という質問が出てきました。
私は、虎として生きることを受け入れた雄姿を晒し、かつての友と決別する覚悟を示したかったのではないかと、虎として潔くプライドを持って歩んでいくことを誇示したかったのではないかと、人間の言葉を失った瞬間の咆哮と考えました。
みなさんはどのように考えますか?
ちなみにこの質問はかつて、中学校の授業で国語の先生から出されたものだったそうで、
そのときの授業では「さようならと言ったのではないか?」という意見が出たそうです^^
「さようなら」
たしかに!
そうかも笑
(2022年11月23日開催)
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