「ちれい」 いつか娘を連れて行きたい場所
新婚旅行で行き損ねたモロッコ。本当は行ってみたいのに、みんなが行くから何となく敬遠してきたハワイ。インドだって気になるし、北欧にも行ってみたい。もし自分が自由にどこでも行けるなら、行きたい場所がたくさんあります。そのうちの一つは、娘と共に。
◾️世界の絶景写真集
もう時期6歳の誕生日を迎える娘がまだ、4歳前後だった頃のはなし。ある日、こんなタイトルの本を妻が買ってきた。
「奇跡の絶景 心を整える100の言葉」
この本には、世界各地の美しい風景写真と共に、古今東西の偉人の名言が添えられている。ページをめくる度に、色とりどりの絶景が目に飛び込んでくるのが特徴だ。
◾️「ちれい」
ある時、この本を僕がパラパラとめくっていたら、娘がそばに来て一緒に見だした。4歳の娘にとって、カラフルな写真は大好物。そしてあるページに来た時、娘は思わず言葉を発した。
「ちれい・・・」(きれいの意味)
まだ言葉がはっきり言えない娘が魅せられたのは、ギリシャのサントリーニ島の風景だった。夕暮れの中、茜色に染まった白い建物が段々と続く街並みが美しい。
それ以来、サントリーニ島のページは娘のお気に入りとなった。
◾️オネショをする娘
この当時、娘はまだ時々オネショをしていた。熟睡している夜中や明け方に起こされるから、親としてはたまらない。
しかも急いで対処しないと、布団から畳にまで染み込んでしまう。冬の寒い中、濡れた布団や毛布を浴室に持って行き、何とか娘を着替えさせる。寝かし付けてからは、シャワーを使っての布団の流し洗い。今でも辛い思い出だ。
オネショの原因には心当たりがある。寝る前に娘がトイレに行かないからだ。なぜか彼女は、寝る前のトイレを嫌がった。そして挙句の果てには、おしっこが出ないと言う。
でもそんなことはない。10回のうち、7回位はおしっこが出る。しかもすごい勢いと量だ。そして残りの3回も、じっくりとトイレに付き合ってあげれば、出ることが多かった。
だからポイントは、娘をいかにトイレに留めておくかだ。そこで登場したのが、冒頭で紹介の絶景写真集の本である。
◾️「ちれいちれい、しよ!」
サントリーニ島以外にも好きな風景をたくさん見つけた娘。よく僕の所にその本を持って来ては「ちれいちれい、しよ!」と言ってきた。
これはお互いが選んだキレイな風景の見せ合いっこ。娘はなぜか、この遊びにハマった。
そこで、これを娘のトイレ対策に使ってみた。娘がトイレに行くのを渋る度に、トイレの中で「ちれいちれい」をした。最終的に、その本はトイレに常駐となった。
便器に娘がまたがっている時、僕は向かい合ってしゃがみ、本を開く。そのうち僕がトイレに入っている時には、娘が一緒に入ってきて本を開いた。
こんな風に僕と娘が「ちれいちれい」を無数に繰り返すうち、娘は自分から一人でトイレに行く様になり、オネショも卒業した。
今ではもう、トイレにその本を置くことも無い。でもいつか、娘を連れてサントリーニ島に行ってみたいと思う。「ここが、ちれいちれいの場所だよ」って。