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おしゃれなオフィスが見つからない? ないならつくればいいじゃない。
ヘッダー写真は私たち空間デザイン事務所ワサビのスタッフ皆で、改装前に視察に行った時のものです。
タイトルからもお察しの通り、改装後の写真はもちろんお見せします。
ひとまず1枚だけ。こんな感じに仕上がりました。
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このようなオフィスにするには費用がいくらかかったのか、後ほど公開します。
また、空間デザイナーを目指す人のために、いくつかのデザインのポイントも解説したいと思います。
あまりコストをかけずに、独自性のある、おしゃれなオフィスをつくりたい人の参考になれば幸いです。
おしゃれオフィス物件探しのコツ
このオフィスには2019年の暮れ、12月に入居しました。
・・・そうです。コロナ禍の足音が聞こえてきた時期です。
小さなオフィスから、業績の向上に伴う楽しみな移転だったのですが、移転してすぐに開店休業状態になるという事態に。。。
おっと、本題から外れています。この話はまた別の機会に。
まずは、バックオフィス業務担当のスタッフに、候補物件探しを依頼しました。条件は「築40〜50年くらいの普通のテナントビル」
二つ返事の裏側で、彼女はこう思ったことでしょう。
(いや、デザイン事務所なんやから、もっと良い立地の、かっこいいオフィスビルとかの方が良いのでは、、)
さてさて、どうなるのでしょうか。
スタッフ:
リクエストもらった通りに、築40年〜50年くらいの普通のテナントビルで、当初のままだろう内装の物件をいくつか探しましたよ。
僕:
お、ありがとう。
資料見せて。
お!こことかええやん。
と見に行ったオフィスがヘッダー写真並びに以下写真の場所です。
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外装がタイル張りのこんなビルは狙い目。
南向きの連続水平窓や、その窓をまたいで乗り越えなければ出られないバルコニーが無駄に広いところ、そしてそのバルコニーが専有面積に含まれている(ここも家賃とるんかい)ところなどが面白く、良い空間になることが想像できたので、早々に契約することとなりました。
工事中の風景
まずは解体から
このようなオフィスデザインの最近の定番としては、天井を覆っている板や床材を撤去して建物躯体を表しにする、いわゆる「スケルトン」にすることです。
入居した建物はコンクリート造(RC造)の建物でしたので、天井を剥がすをコンクリートの肌が見えます。
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「スケルトン」はなぜ多用されるのか
一つの理由は「天井が高くなるから」でしょう。
古いテナントビルの天井高さは2.4〜2.6mくらいが多いですが、天井板を撤去することで、そこから0.4〜0.8m程度天井を高くすることができます。
そうすると開放感が断然増しますよね。
もう一つは「質感・モノ感」がアップすることでしょうか。
築古のビルは、いや最近のビルでもそうですが、テナント入居を前提する空間の内装仕上げは、たいてい工事費が安く済む材料です。
壁はビニルクロス、天井はジプトーン、床はタイルカーペット(ウールなどではないアクリル糸のもの)で覆われていて、それらに均質な白い光があたる空間は、とっても「のっぺり」しています。
なんというか風情が全くない。
一方で、スケルトンにして見えてくるのは、建物の躯体。
本件は建物がRC造だったので、天井を撤去して見えたのはコンクリートの素材そのもの。
現代においてコンクリートを聞いたら、いわゆる「打ち放し」を想像されると思いますが、天井に隠れて「見せる」前提になっていないコンクリートの表情は荒々しい表情で、型枠に記入した文字が転写されていたりと、表情が豊かです。
また、天井内に隠れていた金属のダクトや配線が見えるようになります。
これらは工業的な雰囲気を出すので、配線を整頓して、配管は一部塗装するなど、全体を整理すればモノ感が増して、空間のアクセントになります。
このような効果が安価に得られるので「スケルトン」を利用したインテリアがある程度の市民権を得ているのだと思います。
スケルトンのデメリット
メリットの裏には当然デメリットもあります。挙げられるのは、
部屋の気積が大きくなる
断熱性能が下がる
上記2つが原因でエアコンの効きが悪くなる。最悪追加する必要が出る。
床が硬い(モルタル剥き出し)ので歩行音や椅子を引く時の音が大きい
あたりでしょうか。
これまで、自社のオフィスに限らず、色んな店舗でスケルトンを利用した空間をつくってきましたが、大きなデメリットを感じることはそこまでなかったように思います。
さてさて、そんなところで完成したオフィスがこちらです。
完成!全体像と部分のデザインなど
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インダストリアルな印象
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奥に見えるオレンジの脚立はメタフィスのもの。
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天井面へのアッパー照明にもなっている。
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費用はいくらかかった?
このように完成したオフィスですが、一体どれくらいの費用がかかったでしょうか?
トータルで250万円(税抜)でした。
内訳は?
解体工事 40万円
家具工事 127万円(本棚、打合せテーブル、作業デスクなど)
塗装工事 6万円(配管類の塗装)
照明器具 71万円
内装工事 6万円(古いミニキッチンを来客時に隠すためのカーテン)
パソコンやオフィスチェアやOA類の費用は含んでいません。
新しく買ったチェアなどもありますが、ほとんどは以前使っていたものを持ってきました。
エアコンは前の入居者さんが設置したものを撤去せずに(つまり原状回復せずに)残置したものがあり、これがまだ使えました。そして天井まで仕切る壁のない一室空間にしたので、エアコンの増移設をせずにすみました。
その分費用は安く済んでいます。
いかがでしたでしょうか?
古い、普通〜のテナント区画がずいぶんと様変わりしたと思いませんか?
事務所に初めて来られる方は「外観や共用部(特にボロすぎるエレベーター)から想像するオフィスと全く違って驚いた」と口を揃えて言ってくださいます。
自社のオフィス空間は、空間デザイン事務所のプレゼンテーションそのものでもありますので気を遣って当然でした。
改装プランは楽しかったですし、これくらいの金額で収まってよかった。
都心のオフィスビルでこれくらいのことをしようとしたら、こんな金額では全く収まらなかったと思います。
最後に、オフィス工事に関する、主にコスト面について解説しておきます。
ちょっと長いですが、興味のある方は引き続きどうぞ。
都心のオフィスビルとどう違う?
都心のインテリジェントビル内のオフィスはとても快適で「できる人が仕事する場所」感を出してカッコ良いとは思うのですが、いかんせん零細企業には家賃が高過ぎます。
そして少しでも改装をしようものならとてもお金がかかる。
何にかかるのかというと、ほとんどは設備です。
いわゆるオフィスビルはエアコンや防災設備など、ほとんどの設備が一元管理できるシステムが導入されています。
またそれらの設備は「室内に間仕切りが一つも無い状態」を想定して設置されています。不特定多数の企業が出たり入ったりすることを考えたら当然なのですが、これが高コストの元凶です。
例えば会議室を1つ作った場合、その区画内にエアコンの吹き出し口がなければ移設をしなければならないし、スプリンクラーから水が届く範囲が壁で阻害されるなら、スプリンクラーヘッドを追加しなければならない。
ちょっとした思いつき(ここでは会議室をつくること)が大きな工事に発展します。
そしてさらに追い打ちをかけるのが、工事は「ビルが指定する工事会社」が実施するということです。専門用語でいうと「B工事」となります。
※詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
ビルの管理上、入居者が連れてきた様々な工事会社が好き勝手に工事をすると、せっかく一元化した設備などが連携できなくなる可能性がある。
またビル内の他の入居者に配慮するであるとか、そういうったことを周知していくことは大変です。
なので、こういったビルでは建設時に携わった工事業者が、竣工後もこういった入居や退去に伴う工事を担当することが一般的です。
これがなぜ「追い打ち」をかけるのかというと、賢明な読者はお気づきだと思いますが、1社で指定された会社が見積りをするので、コストの競争原理が働かず、おのずと高コストになるからです。
そして最後にもう一つ。
まだあるのか、という感じですが、一番嫌だなぁと思うのが「原状回復」です。
原状回復とは、退去するときに「入居する前の状態に戻す」行為のことを指します。
例えば、大抵のオフィスビルの床にはタイルカーペットが貼られていますが、これをフローリングに変更していた場合。
退去時にはフローリングを全て撤去し、元々貼られていたカーペットを貼ってお返しする必要があります。先の例でいうと、スプリンクラーヘッドを増設したりエアコンの吹き出し口を移設したのであれば、それらも元に戻します。
つまり、撤去費と改装費がかかるので、おおよそ入居時の工事費に肉薄するくらいの額が「出ていくとき」にかかるわけです。
貸主側からすると、契約書に書いていることですし、貸した状態で返してもらうのは昔からの常識なので「何か問題でも?」ということではあるのですが、例えば入居期間が短かろうとも、内装は全て刷新して返す、という行為はどうなのかなと思ったりします。
SDGsだなんだと言っているこの時代に、まだまだ使えるものを捨てて新しくする必要がどれくらいあるのかなと思ったりする訳です。
築古のテナントビルの良いところ
長々とインテリジェントビルのオフィスのデメリットを述べてきました。
(もちろんメリットも多々あるのですがまた長くなるので割愛します。)
最後に築古のテナントビルに入居するメリットをいくつか紹介して終わりにします。
指定業者による工事をしなくて良い場合がほとんどなので、安くできる。
設備設計が自由にできるのでコスト削減できる。
貸主との交渉にはなるが、古いビルだと原状回復義務を無くしてもらえることがあり、好きに改装しても退去時に費用がかからない。
個人的には、3の原状回復が不要になる点がかなり大きいです。
退去時には今の状態のまま出ていきます。もし次に借りる人が、この内装を気に入ってくれたなら、その人は大きなお金をかけずにいい空間に入居できるわけです。
資源の無駄も減って、win-winだな〜と思います。
仕事もリモートで多くがこなせる時代になってきました。
そんな時代には、都心の便利な場所に立派なオフィスを構えるメリットは少しずつ目減りしてきているのではないでしょうか。
場所を「ズラせば」コストも安く環境負荷も少ないオフィスが作れます。
皆が自由に、好きな空間をつくって仕事ができるようになると、きっと能率・効率も上がり良い仕事ができるのではないでしょうか。
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