AI、微生物、海藻、多様化するフードテック領域、注目の海外スタートアップ3選
こんにちは、F Venturesの辻 周悟(https://twitter.com/sh_tsj07)です。
今月の23日、オランダの培養肉スタートアップ企業、「Mosa Meat」がシリーズBの追加投資で1000万米ドル(約10億円)を調達し、累計8500万米ドル(約89億円)の調達額でシリーズBをクローズしたとのニュースがありましたが、FoodTechの領域への投資は、今まさに右肩上がりの状況です。
「AgFunder 2021 Agrifoodtech Investing Report」によると、2020年にはアグリフードテックのスタートアップに310億米ドル(約3兆3000億円超)が投資されたというデータがあり、非常にホットな領域といえるでしょう。
さてさて、そんなFoodtechなのですが、人工肉(植物肉や培養肉など)から始まり、今ではあらゆる食品への活用がなされるようになり、スタートアップも多様化してきています。今回は、多様化するフードテック領域で注目の海外スタートアップを3社取り上げてみました!
1.The Live Green Co -AIを活用した100%植物ベースのアイスクリーム
<会社概要>
拠点: チリ
設立年: 2018年1月
調達ラウンド:シード
累計調達額: 1.1百万ドル(※ Crunchbaseに基づく)
最初に取り上げるのは、AIを活用してよりクリーンな植物性食品の開発を行うチリのスタートアップ「The Live Green Co」です。The Live Green CoはPriyanka Srinivas氏を代表とするインド人3名(男性1名:女性2名)によって設立されました。これまで、ハンバーガーのパティやパンケーキをつくれる粉末を開発してきた彼らですが、今回はバナナ、アボカド、ひまわりの種などから作った植物由来100%のアイスクリームを発売しました。しかも、それをたったの90日間の研究開発期間で実現させたのです。その秘密は、The Live Green Coがバイオテクノロジーと機械学習を組み合わせることで独自開発した「Charaka」というAIのレコメンドエンジンにあります。このAIを活用した食品開発こそが、彼らの強みと言えます。
Charakaは、45万種以上の利用可能な植物種、1,000万の化合物、10億を超えるデータの中から、肉、乳製品、乳化剤などに代わる天然植物を自動で提案してくれます。これにより、これまでであれば1年かかっていた研究開発を90日まで短縮し、「次世代の植物ベースの食品」を開発することに成功しているのです。ちなみに、今回発表されたアイスクリームは、100%ヴィーガンなだけでなく、グルテン、大豆、乳糖を含まないため、アレルギーのある人でも食べることができるため、より幅広いターゲット層にアプローチすることができるでしょう。
また、同じくチリで、同様のAIを活用したアプローチから食品業界の変革に挑戦している企業があります。植物ベースの牛乳を中心に、マヨネーズ、アイスクリーム、ハンバーガーのポートフォリオを持っているフードテックスタートアップ「NotCo」です。NotCoは、ジュゼッペと呼ばれる独自のAIシステムを利用することで、膨大な植物プロファイルのデータの中から、動物性タンパク質にマッチする理想的な植物成分を検索し割り当てることができます。彼らは、AmazonのJeff Bezosからも投資を受けており、The Live Green Coと同じく注目の企業です。
参考記事↓↓
2. Nature’s Fynd -乳製品を含まないクリームチーズ
<会社概要>
拠点: アメリカ・シカゴ
設立年: 2012年
調達ラウンド:シリーズB
累計調達額: 158百万ドル(※ Crunchbaseに基づく)
2社目は、「Nature's Fynd」です。Nature's Fyndはアメリカ・シカゴを拠点とした、微生物発酵による代替タンパク質の開発を行うスタートアップです。そんな彼らが、遂に今月の中旬から乳製品を含まないクリームチーズと肉のない朝食用パテの予約注文を開始しました。(すでに予約分は完売。)
Nature' Fyndの紹介動画↓↓
持続可能な食品への投資の成長を追跡しているThe Good Food Institute(GFI、グッドフード・インスティテュート)の新しい報告書によれば、微生物発酵は植物由来のタンパク質、培養肉に次ぐ代替タンパク質の第三の柱として注目が高まりつつあり、この領域への投資額も年々増加の一途を辿っています。
なぜ、微生物発酵がここまで注目を浴びるのでしょうか。それは、代替タンパク質源として真菌を使用することは、動物が必要とする大量の水、飼料、および土地を必要としないため、動物タンパク質よりも持続可能な生産方法として期待されているからです。参考として、スウェーデンのスタートアップ企業、mycorenaが開発した真菌由来のタンパク質「プロミク」の生産は、肉牛の生産に比べて5000分の1の敷地、水の消費量も60分の1にとどまるといいます。
環境省によれば、牛肉1kgの生産には、約20000kgの水が必要だとされています。畜産と水不足の問題はよく取り上げられるトピックだと思いますが、牛が排出するメタンガスなどの影響も踏まえれば、真菌による生産方法がいかに環境面において画期的であるかがわかります。
詳細はこちら↓↓
動物性代替タンパク質開発企業は1500億円超を調達、微生物発酵技術に投資の波
Nature's Fyndの特徴としては、アメリカのイエローストーン国立公園の熱水泉に生息する微生物を使用している点が挙げられます。FoodDiveの記事によれば、ジョナス氏を含む研究者たちは、地球とは異なる環境で何が生き残ることができるかを研究していた際に、このイエローストーンでタンパク質が豊富な真菌を発見したそうです。加えて、ジョナス氏は、この真菌は順応性のある味、速い成長速度、筋肉に似たフィラメント状の組織構造、そして資源を使って成長し維持する際の驚くべき効率を持っていたと述べています。真菌の製法としては、菌類とタンパク質と組み合わせることで、菌類に栄養素の組み合わせを供給して成長させます。すると、筋肉繊維に匹敵する繊維の層が形成され、これを数日置くことで、真菌を収穫することができるようになります。これが製品を作るための代替タンパク質となるのです。
Nature's Fyndは、AlGoreのGenerationInvestmentManagementやBillGatesが支援する投資ファンドBreakthroughEnergyVenturesなどの投資家たちから、8000万米ドル(約85億円)の調達に成功しています。デットでの調達も合わせれば、合計1億5000万米ドル(約160億円)もの額になります。こうした名だたる投資家のほかにも、米国環境保護庁、アメリカ国立科学財団(NSF)がこれまでNature’s Fyndに助成金を支給しています。
GFIのレポートによれば、Nature's Fyndのように、菌類を活用した食品開発を行うスタートアップは44社程あるとのことですが、その中から3社を簡単に紹介します。
米カリフォルニアの「Prime Roots」では、キノコなどの菌類を原料とした、鶏のささみやエビ、マグロのぶつ切り、サーモンパティなどの高タンパクな代替食品の開発に取り組んでいます。
その他にも、コロラドを拠点とする「Meati」は、菌糸体ベースのステーキやチキンを開発したり、
ニューヨーク拠点の「AtLast」は菌糸ベースのベーコンの開発に特化しているなど、菌類ベースのタンパク質の活用方法が多様化していることがわかります。
参考記事↓↓
3. Trophic -海藻ベースの代替肉
<会社概要>
拠点: アメリカ・サンフランシスコ
設立年: 2018年
調達ラウンド:不明
累計調達額: 不明(※ Crunchbaseに基づく)
支援元:Good Food Institute(GFI)、Activate、ARPA-E
最後に紹介するのは、海藻ベースの代替肉を開発するカリフォルニア州バークレー拠点の「Trophic」です。植物ベースの代替肉といえば、大豆、えんどう豆などが主流で、そうした代替肉のスタートアップの存在は、読者の皆様もご存知だと思いますが、海藻ベースの代替肉は新たなトレンドの一つです。
植物生化学者であり、エンドウ豆をベースにした乳製品ブランドRippleFoodsの元研究リーダーである技術起業家のBethZotterとAmandaStilesは、より持続可能なフードシステムの構築方法を模索し続けてきました。そして、2人は”海藻”という答えに行き着いたのです。そこで、彼女たちはTrophicを設立し、Good Food Institute(GFI)、Activate、さらには高度なエネルギー技術プロジェクトへの資金提供に焦点を当てた米国政府機関であるARPA-Eの支援を得ることに成功したのです。
海藻が注目される理由を紹介していきます。まず、海藻は肥料や淡水を必要とすることなく、苛酷な環境下でも収穫量は多く、持続可能性の高いタンパク質源となり得るのです。さらには、海藻が成長する際に、大量の二酸化炭素を吸収して育つため、地球温暖化解決への一助を成すとも言われています。Trophic独自の研究結果によれば、マサチューセッツと同じ大きさの海藻養殖場であれば、世界中で消費されるすべての牛肉を置き換えるのに十分なタンパク質を生産することができるというのです。
また、その味についても今まで以上のものが期待できるといいます。Zotterはインタビュー時に、「ジューシーなステーキやハンバーガーを模倣するのはそう簡単ではないです。植物ベースの食品は、調理すると多くの油と水分を失うからです。しかし、私たちの海藻ベースの代替肉の成分は保水力が高いので、水分と脂肪を維持するのに本当に良い仕事をすると思います。」と発言しています。(中でも、ダルスという品種は、調理すればベーコンのような味がするそうです。)
Trophicは、海藻の中でも、タンパク質が豊富で鮮やかな色をしている紅藻に焦点を当てています。紅藻に注目する理由としては、紅藻が高タンパクであることに加え、調理すると自然に茶色になることが挙げられます。人工肉の色を茶色にするために、ビヨンドバーガーは着色料を、インポッシブルフーズは「ヘム」という独自技術を用いていますが、紅藻ベースの代替肉であれば、そうした手間がかかりません。
また、紅藻はB12(悪性の貧血に有効なビタミンで、葉酸と協力して赤血球中のヘモグロビン生成を助ける役割を持ちます。また、脳からの指令を伝える神経を正常に保つ役割もあります。)を多く含み、うま味が豊富で、具材同士の結合に優れています。こうした多くのメリットを持つ紅藻を中心に、今後も開発を進めていく予定です。
私たちの目標は、すべての必須アミノ酸と天然のB12を含み、優れた色、
質感、そしてうま味の良い製品を作ることです。
Trophic、共同創設者兼CTO、Amanda Stiles
Trophicは海藻を特別なタンパク質源の一つとするのではなく、コスト、ボリューム、栄養面で大豆に匹敵する新しい「主要な」タンパク質源にすることを目指しています。海藻が地球上で最も持続可能でスケーラブルなタンパク質源になる可能性を信じ、新たな挑戦を続けるTrophic。10年後には、海藻ベースの代替肉が当たり前に食卓に並ぶ、そんな日がくるかもしれません。
参考記事↓↓
以上、多様化するフードテック領域、注目の海外スタートアップ3選でした。ご一読ありがとうございました。
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