【忠臣蔵映画を読み尽くす!】谷川建司『戦後「忠臣蔵」映画の全貌』
12月14日は、赤穂浪士の討ち入りの日として知られています。
その前後から年末年始にかけて、「忠臣蔵」「赤穂浪士」の話題を耳にすることが増えるものです。
この記事を書いている現在は10月下旬。忠臣蔵にはまだ気が早いのでは……という頃ですが、さにあらず。忠臣蔵の物語をたどっていくと、本伝、外伝、前日談、後日談と果てしない広がりがあり、もののひと月やふた月ではとても把握しきれません。
もはや「師走に赤穂浪士へ思いを馳せるためには、その前の年の師走から忠臣蔵の物語を知ろうとしても早すぎることはない」ほどなのです。
そんな忠臣蔵の中でも「戦後に作られた忠臣蔵映画作品」に焦点を当てた本が、今回紹介する『戦後「忠臣蔵」映画の全貌』(谷川建司著・A5ソフトカバー・432ページ・2,400円+税)です。
著者の谷川建司(たにかわ たけし)さんは、映画研究者。早稲田大学政治経済学術院客員教授として映画史を専門に研究をなさっています。
元日本ヘラルド映画の社員でもあった谷川さんは、映画の世界に身を置き、数々の映画作品の配給に携わってこられました。
谷川さんの研究テーマのひとつは、戦後の連合国軍占領下でのGHQによる映画・演劇検閲についてです。占領下において「仇討ちに関する物語」である忠臣蔵ものは、「製作を禁止すべき内容」の項目に合致するため、事実上製作できませんでした。
そして占領終結後、検閲から解放されて忠臣蔵作品も復活。1953年から1962年にかけての10年間の日本映画年間配給収入のトップ10には「忠臣蔵」映画が7本ランクインし、そのうち4本がその年の配給収入第1位を記録していたというのですから、忠臣蔵ものの圧倒的人気がうかがい知れます。
よってこの本のタイトルにある“戦後「忠臣蔵」映画”という言葉は、「戦後の占領下を経てようやく復活できた忠臣蔵映画」を意味します。
本書に掲載されている映画は本伝、銘々伝、外伝、翻案物、番外編など全68作品。
本文は第一部・第二部に分かれ、第一部には関連映画総目録が、第二部には戦後「忠臣蔵」映画論が綴られています。
第一部の映画作品目録では、【スタッフ】【キャスト】【惹句】【内容】そして【解説】を列記。スタッフ、キャストが掲載されているのも貴重であるところ、注目すべきは惹句です。当時のポスターやパンフレットに掲載されていたキャッチコピーは臨場感に溢れています。
恋も情も振り捨てゝ酔どれ武士の仮姿!
今宵に迫る仇討の別れを惜しむ涙酒!
(『忠臣藏 赤垣源藏 討入り前夜』1954年)
「天野屋利兵衛は男でござりまするッ」
元禄美挙に命を賭けた男の中の男
鉄人利兵衛の胸えぐる御存知慟哭名場面
(『赤穗義士』1957年)
ズバリ地獄の顔が300名一斉に自動拳銃の引金を絞る!
(『ギャング忠臣蔵』1963年)
これらだけでも、映画の空気感が伝わってきてわくわくします。
内容、解説は、日本ヘラルド映画で鍛えられた谷川さんの筆が冴えわたるところで、実際の映画で役者の演技を観るのが楽しみになり、また、あたかももう作品を観たような感覚にさえなるのです。
第一部・第二部の間には、〈戦後「忠臣蔵」映画ポスターギャラリー〉がカラーで16ページにわたり続きます。忠臣蔵研究の傍ら当時のポスターやパンフレット、ノベルティなどを集める谷川さん秘蔵のポスターも多数掲載。
昔の映画ポスターのデザインや、勢いのある文字に見入ってしまうこと必至です。
上の画像はポスターギャラリーページからピックアップした、様々な「忠」の字です。同じ「忠」でもそれぞれ描き方が異なり、味わい深いですね!
第二部の忠臣蔵映画論〈戦後「忠臣蔵」映画の発展と変質〉では、占領期の自粛から映画公開に至る背景、歌舞伎作品との比較、テレビにおける展開、そして日本映画界の発展と忠臣蔵映画の内容の変化まで、たっぷりと綴られています。
巻末には、忠臣蔵関連作品DVDリストも掲載。この本が刊行された2013年から現在に至る間に、ネット配信映画もポピュラーとなりました。本書をきっかけに、観たい作品から探してみるのもいかがでしょうか。
そして本書の巻頭には、九代目松本幸四郎氏(現・松本白鸚氏)による貴重なエッセイ〈「忠臣蔵」と映像〉を寄稿いただいています。
師走に赤穂浪士へ思いを馳せるには、本書で準備万端。
戦後「忠臣蔵」映画に、どっぷりひたる季節にいたしましょう!
『戦後「忠臣蔵」映画の全貌』書籍詳細
http://www.shueisha-cr.co.jp/CGI/book/detail.cgi/0234/
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