この世界には、まだ食べたことのない野菜がたくさんある。
私の母は、料理が苦手な人だった。シングルマザーで、フルタイムで仕事をしていたこともあり、食卓に並ぶのはお惣菜ばかり。お惣菜が良くないとは言わないが、毎日近所のスーパーのお惣菜だと食べるものが偏る。おふくろの味は?と聞かれても、何も思い浮かばないくらい母の手料理は食べたことがない。
そんな母の子どもである私も、社会人になり、一人暮らしを始めた。新居は職場近くのマンション。近くにスーパーはあるが、仕事終わりに行くと夜遅くなるため、自然と自炊をするようになった。休日にスーパーに行き、色んな野菜を品定めする。料理の仕方も、味も分からない野菜がたくさんあった。
自炊を始めて気づいたことがいくつかある。まずはナス。火加減で味も食感も変わる。肉に火が通るまで茄子と一緒に煮て食卓に出す。食べ始めのナスよりも余熱でトロトロになったナスの方が美味しい。それから、カボチャ。種類によって甘さが違う。場合によっては、同じ種類でも甘みが違うことがある。甘さは食べてみてのお楽しみなのがわくわくして楽しかった。あと、セロリは私には合わなかった。
野菜を選ぶのも、料理するのも、食べるのも楽しい。こんなに楽しいなら、祖母が田舎から送ってくれた野菜もちゃんと食べればよかった。母が野菜を腐らせることを当時は何も感じなかったけど、今は悪かったと思う。あの野菜は祖母との繋がりだったのに。雪の下の白菜。また食べたいな。
今は夫も娘もいる。美味しい美味しいと言って私が作ったものを食べてくれる。娘はトマトが大好き。今年は家庭菜園でトマトを育てる予定。こうして私の楽しい料理は広がっていくのだ。