ブランディングに於いて「店舗」を持つ積極的な意味~地方のユニクロと都会のUNIQLO~
鎌倉の制服「Patagonia」
土日の鎌倉は大変な混雑。
沢山の国籍、沢山の年代、沢山のスタイル。ほんとうに多様な人が溢れています。
しかし平日の鎌倉は、鎌倉のレンバイ(鎌倉市農協連即売所)や鎌万水産などは、当然のことながら地元民でいっぱいです。その地元民を見れば、あなたは一つの重大な事実に気がつくはず。
そう、多くの人が「Patagonia」を着ているのです。
もちろん、東京にも多くのPatagoniaを着ている人がいます。でも、それと同じくらいTHE NORTH FACEも、HELLY HANSENも、モンベルもいます。
ところが、鎌倉はPatagonia率が異常に高いのです。私は密かに「鎌倉の制服」と呼んでいます。鎌倉に住んでいる正直な感想としても、「Patagonia」以外を着ていると、ちょっと気恥ずかしいのです。
店舗は4Cに於けるPLACE(流通)か?
さて、鎌倉ではPatagoniaが多いのは何故でしょうか?
単純な答えとしては、当然ながら「流通拠点」がある、すなわち店があるから、ということになるでしょう。
でも、現在で言えばオンラインショッピングで何でも買えます。
確かに、家の近くにユニクロができたら買う頻度が増えるでしょう。
でも、ユニクロとPatagonia等のアウトドアハイブランドは同じでしょうか?もっと別の視点を持たないといけないのではないでしょうか?
店舗とは(現代では)COMMUNITYの基点である
実は、店舗のブランディングに於ける意味とは、4Pに於けるPLACEというよちも、顧客とのコミュニティの基点ではないでしょうか?
顧客にとって、店舗は「商品を買うPLACE」から、「生活を区別するCOMMUNITY」に変わってきているのではないでしょうか?
なぜAPPLEはSONYが捨てた店舗を拾い上げたのか?
日本の家電はかつて「世界ブランド」でした。SONYだけでなく、PANASONIC、HITACH、SANYO、JVCなど多くのブランドが世界を制覇していました。
そして、SONYも、PANASONIC(NATIONAL)も、HITACHIも、SANYOも、自分たちの「店舗」を持っていました。しかし、彼らは流通主導の競争環境の変化で、それらの店舗網をすべて捨ててしまいました。
これは家電に限らず、多くの製品マーケティングで見られたことです。(もちろん、この流れはアメリカから来たものです)
ところがAPPLEは、日本勢が捨てた「自社店舗」をAPPLE STOREとして拾い上げました。これはNIKEのNIKE STOREもそうです。
APPLE製品はAPPLE STOREの独占販売ではありません(ヨドバシカメラでも、DOCOMO SHOPでも同じものが買えます)。NIKEもスポーツオーソリティやヴィクトリアでも買えます。
そうすると、単純な流通以外の狙いが、この拾い上げた店にはあるはずです。
地方のユニクロと都会のUNIQLOは、果たして同じか?
地方に行くと大型のユニクロ店舗があります。広い駐車場に広い店舗、まさにザ・ユニクロです。
一方で世界中の大都会には、UNIQLO旗艦店があります。都心の一等地に駐車スペースはなく、ハイライズのビルに煌びやかな電飾サイン。もちろん、都市の商業施設や駅ナカにはユニクロの店舗があります。しかし、それとは全く異なる規模を持つものがUNIQLO旗艦店です。(分かりやすいように、あえて「ユニクロ」と「UNIQLO」を書き分けています)
この2つのユニクロとUNIQLOは果たして同じ機能でしょうか?
地方のユニクロは、明らかに4PのPLACE(流通)です。
しかし、大都会のUNIQLO旗艦店は、TOKYOであり、NYであり、LONDONであり、上海の「顔」であることを目指しています。つまり、彼らは旗艦店を通じて「大都会の人々のコミュニティである」ことを示すために旗艦店を設置しているはずです。
単に「流通」だけを考えたら、都心の小型店舗と郊外の大型店舗を組みあわせれば一番効率的なはずです。
垂直型付加価値開発:品質の上には「コミュニティ」が来る
私は最近、水平型付加価値開発(製品開発)に対して、「垂直型付加価値開発」というものを提案しています。
垂直型付加価値開発とは、付加価値を「人間のニーズの成長」に合わせて開発するものです。人間のニーズの成長とは、端的に言えば「maslow hierarchy of needs」です。
製品の「品質」(物性と保証)の上にあるのは、コミュニティとしての価値です。
つまり、これらの新しい店舗(APPLE STOREやUNIQLO旗艦店)は、製品のためではなく、コミュニティ形成のためにあると考えては如何でしょうか?
そして、一度コミュニティが形成されれば(このコミュニティは仮想的な集まりでも十分である。ただし、その依り代となる実店舗があった方が強い)、そこで「より多くの情報(製品だけでなく、生活も含め」を提供し、そして、なにがしかの価値創造に自分も参加している感覚が生まれるのです。
Need of Love and Belongingに対応する「コミュニティの付加価値」
Need of Esteemに対応する「情報の学習と発信の付加価値」
Need of Self Actualizationに対応する「価値創造参加の付加価値」
これらが
Needs of Physiology and Safetyに対応する「製品の品質価値」
の上にあるのです。
重要なのは、自己実現までに至るこのmaslow hierarchy of needsを、「倫理の世界」から「マーケットの世界」に移し、その段階を上がることを「自己修練」から「明確なステップ・ロードマップ」に転換したことです。
そして、このように「成長するニーズ」に対して、「従来の製品」を土台にしながら、さらに「コミュニティ」、「情報」、「参加」と垂直に付加価値を開発することが、これからのマーケティングに求められると思います。
垂直型付加価値開発への転換は、「企業の経済的成長」から「顧客の人間的成長」へと仕事を再定義すること
私は30年来のブランディングの専門家です。ですから、この分野がどう変わってきたかの歴史について、日本でもかなり有数であるという自負があります。
最初のうちのブランディングは、「企業の経済的成長」、簡単に言ってしまうと(顧客に対して)如何に自分たちが優れているかを示すことにありました。これには無理からぬ所があります。なぜなら製造業の成功がもたらす利益(狭い意味での付加価値)は非常に大きいからです。
しかし、これからのブランディングは「顧客の人間的価値」を如何に高めるかに掛かっていると思います。
この辺りについてはノートの別記事に書かれていますので、ぜひお読みください。
製品の改良だけがイノベーションではありません。
製品で大きな差を生み出すためには、「日常のたゆまぬ努力」=資本やマーケットシェアに依存するトップ戦略か、「破壊的な発明」=EVなどのニッチ戦略か、しかありません。
しかし、垂直型付加価値開発を考えれば、そこには「自分たちの仕事をベースにしながら、新しい顧客や協力者との連携によるエコシステム」を考えることができるはずです。