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SAKEの小さな未来に向けて



この文章は、クラウドファンディング最終日の活動報告にてお伝えした内容です。「寿命を超える長い時間軸」に挑戦するLINNÉとして、支援期間あと数時間の少し先にある未来についてのお話をしました。


いまSAKEの定義について、さまざまな議論や想いがあると考えています。これから述べることは、私なりのひとつの答えであり、議論の呼び水となることを期待して描いたひとつの未来です。

未来のSAKE定義全体像

LINNÉの目指すSAKEのあり方は、このイラストのように「米を中心としながら、より大きな素材たちの集合としてのSAKE」が最大の到達点と考えています。

LINNÉの目指す未来のSAKE全体像

焼酎の世界ではすでにこれが実現されていて、「米焼酎」「芋焼酎」「麦焼酎」など素材が並列して大きな焼酎技術になっていますし、「麦味噌」「豆味噌」など味噌・醤油でも同様です。よって、本来「清酒」「SAKE」においてもその多元的な世界観は可能だと私は信じています

なぜこれを実現したいのか。
「寿命を超えて受け継がれてきたSAKEの技術や文化を、一造り手の寿命を超えて、次の未来へ託すため」です。

今年12月、ユネスコ無形文化遺産として登録された「麹を用いた伝統的な酒造り」ですが、大きな流れの中では酒蔵の数は毎年激減し、失われゆく側面がたくさんあります。また、清酒の原料である米も、気候変動の影響を受けながら水不足や日照変化による米不足のリスクはあります。そもそも、米が重要作物として生産される地域は世界的には限られています。
そうした危機に対して、どうしたら未来が繋がるのか。そのヒントとなる2つの日仏交流事例を、私はフランス滞在によって知りました。ひとつは「蚕」、もうひとつは「牡蠣」です。


蚕と牡蠣

蚕によるかつてのシルク産業、あるいは現代の牡蠣は、歴史的にフランスにおける重要産業です。そのどちらも一時期病気が流行り、産業壊滅のピンチを迎えた時期があります。それらを救ったのは、どちらも「日本由来の強い品種や技術」です。この事実を知る方は、そんなに多くないかもしれません。

蚕では、当時の皇帝ナポレオン3世が感謝を述べ、まだ鎖国中だった江戸時代末期の日本と国交開始。牡蠣では、フランスを救った三陸の真牡蠣に恩返しするため、2011年の東日本大震災の大きなピンチをフランス人生産者たちが助けたそうです。
このように、一つの国やエリアだけでは大きな危機に対して乗り越えられないケースでも、国を超え海を超え、技術や素材が分散された上で交流していくことで、産業が継続し、さらには断絶状態の国交を結ぶほどの強い絆が生まれ支え合う関係性になっていくと考えています。

江戸幕府に御礼の馬を贈ったフランス最後の皇帝「ナポレオン3世」

この世界的な関係性をSAKEで実現することが、未来を支える基盤になるのだと私は信じています。


多様性から、多元性へ

私は、WAKAZEの日仏米での酒造経験を通して、「日本酒を世界酒に」を実現するための技術開発をしながら、日本人として米を大事にするアイデンティティを重視してきました。一方で各土地で栽培される主要作物が、その気候風土や食文化の中で愛され調理される様子を目の当たりにしてきました。彼らのその素材でお酒を醸すことの方が、よっぽど新しい日常や豊かさを生む上で“王道”になる可能性はないだろうか、と考えました。

「誰かの大事にしていることを、当たり前に自分も大事にしていくこと」

こうした姿勢が積み重なっていった先に、「多様性(diversity)」を当たり前の前提条件とした「多元性(plurality)」。つまり、あらゆる自然物にそれぞれの神性(=八百万の神々)を見出した日本人の精神性が表れていくのではないかと私は考えました。そうして、米という純粋な作物だけでも、これだけの価値を引き出し多様なSAKEを生み出した増幅技術(麹を用いた伝統的な酒造り)を持ってすれば、それぞれの素材を繋ぎ、さらには国交を結びうるような結合を生むのではないかと思い至りました。

この価値観の表現が、万物を観察する「博物学」の知識を持って、自然界すべて(=八百万、やおよろず)をSAKEとして表現した「800(ヤオ)」の目指す世界です。

2024年12月、鹿児島大学・第20回焼酎学シンポジウム特別講演にて

“さざれ石の巌となりて、苔のむすまで”

ここまで考えて、自分の中に“あるイメージ”が湧いてきました。それは、日本国歌「君が代」に歌詞で出てくる「さざれ石」です。
さざれ石とは、非常に細かい石のことであり、それが長い時間をかけて結合して「巌(いわお、大きな岩石)」になっていく、という歌の情景。そのくらい子孫繁栄や平和を願い、寿命を超えうる時間軸を表現した日本的価値観が、国歌の一節「さざれ石の、巌となりて」だと解釈しています。

米を中心とした清酒を核としながら、LINNÉの醸すひとつひとつのお酒は、さざれ石の細かい粒のようなものかもしれません。あるいは、日本や世界で現在進行形で醸造される1本1本の酒も、さざれ石と解釈できるかもしれません。
それでも、ひとつひとつのバトンを繋ぎ、大きな技術体系・文化となしていくことで、最終的に「巌」となっていく。それだけでなく、「苔がむすまで」長い時間に託して未来を祈っていく。

冒頭の「LINNÉの目指す未来のSAKE全体像」のイラストで示したかったことは、以下の写真のような「さざれ石」を最終的に実現し、あらゆる自然界素材が一体となった「ひとかたまりの価値=巌」を、《SAKE》と成していく未来です。

京都・賀茂御祖神社(下鴨神社)の"さざれ石"

「日本酒」と国の名を冠して、日本で生まれた伝統を世界に示すのであれば、こうした未来を描いていきたい、と一醸造家としての信念を持っています。引き続きどうぞ応援よろしくお願い申し上げます。

2024年12月25日 LINNÉ代表・醸造家 今井翔也


これまでとこれからのLINNÉをまとめた記事やイベントご案内

よろしければ、ぜひご覧になってください。
LINNÉの麹造りを全面的にサポートしてくださっている糀屋三左衛門/BIOCさんとのイベント「KOJI THE KITCHEN Academy」は、現在申し込み受付中です!

KOJI THE KITCHEN Academyお申込み受付開始!
【お申込み締切】2025年1月14日(火)15時

創業600年の種麹メーカー糀屋三左衛門が2021年に発足した「麹」の新しい可能性を引き出し食文化を創造探究していくプロジェクト「KOJI THE KITCHEN」
2025年2月20日(木)のゲストとして、今井が登壇します。29代当主の村井 裕一郎社長の講義や、研究室長の白石 洋平さん含めた3者パネルディスカッションに加え、発酵をふんだんに取り入れたランチやホテルアークリッシュ豊橋総料理長今里 武さんによるディナーまで込みの充実したプログラム。

今回のLINNÉの異素材麹はすべて糀屋三左衛門さんの種麹を使わせていただき、麹分析や設計アドバイスなど全面的にサポートいただいて実現しております。これまでの日本の麹文化技術をさらに未来に羽ばたかせるため、種麹屋さんと醸造家から見える景色を共有する1日になると考えています。

  • 【開催日】2025年2月20日(木) 10:30~20:00

  • 【会 場】emCAMPUS FOOD 東海道新幹線 豊橋駅より徒歩6分(ディナー:アークリッシュ豊橋)

  • 【募集人数】24名 ※申込者多数の場合は抽選を行います。

  • 【参加費】66,000円(税込) ※ランチ・ディナー・ドリンク込 ※LINNÉ「800」ご提供込

【発酵対談】LINNÉ代表|今井翔也「麹を解放しSAKEを再定義する!」(なかじさん)

なかじ|麹文化研究家/元蔵人|株式会社麹の学校代表
2024年12月15日、なかじさんのゲストとしてオンライン対談したライブ配信動画アーカイブです。麹を世界に広める第一人者であるなかじさんとの対談は、フランスと日本を繋いだ数年前以来。初心者にもわかりやすく、解説しながら紐解いていただきました。
https://youtube.com/live/__rRkCFwWkA?feature=share

「SAKEの新たな扉が片方だけ開いた日」(シライジュンイチさん/ごはん同盟

2024年9月に開催されたトークイベントの内容をもとに、今後の保存版で全人類に読んでいただきたいほど、LINNÉ「800」の構想の要点をまとめていただいてます。「絵画に例える」「醸造家にとって麹は道具」「チル」キーワード盛りだくさんです!以下のように、創業年を評していただき、大変光栄で背筋が伸びます。ありがとうございます!

「伝統的酒造り」の再評価と、今井さんが取り組む麹を解放する新しい酒造りのチャレンジ。2024年は、日本の酒造りにとって歴史に残る一年だったと思います。

「SAKEの新たな扉が片方だけ開いた日」(シライジュンイチさん/ごはん同盟)

「LINNÉの酒造りにSAKEの概念を覆された話」(じゅんまいさん)

シライさんの記事のトークイベントにスタッフとしてお手伝いいただいた、じゅんまいさんのInstagaram投稿です!3枚の素敵なイラストで、トークイベントのまとめをわかりやすく紹介してくださってます。必見です!かわいいLINEスタンプなどもあるので、お酒好きな方はぜひフォロー購入してみてください。

新日本酒紀行「LINNÉ 800」(山本洋子さん/週刊ダイヤモンド)

山本洋子:酒食ジャーナリスト
LINNÉ創業以前、WAKAZE創業期や新政酒造修行時代からお世話になっている山本洋子さん。今回のクラウドファンディングでも、あたたかい応援メッセージを寄せてくださいました。
創業して間もないLINNÉにもかかわらず、世田谷の発酵デパートメントでのトークイベントに参加してくださり、素晴らしい記事を週刊ダイヤモンドさんの企画で取り上げていただきました。誠にありがとうございます!

“ラジオただいま発酵中”LINNÉ登場回

LINNÉ名付けの親でもある発酵デザイナーの小倉ヒラクさんとイッシーさんによる伝説の発酵podcastのLINNÉ登場回。
2024年10月下旬、福岡のクラフトサケブリュワリーLIBROMで、まさに《800 薩摩芋(ヤオ サツマイモ)》の醪が発酵している最中に、遠隔でオンラインLIVEしながら収録しました!そのライブ感もぜひ楽しみにしてください。軽快なテンポで、LINNÉのエッセンスがぎゅっとわかりやすく詰まってます!Podcastは前後編に分かれています、映像込みのYoutube動画も気になる方はぜひ!

TIMELINE「麦と麹でSAKEづくり。クラフトサケのパイオニア杜氏の飽くなき探求。」

WAKAZE創業期からずっと追いかけてくださっているTIMELINEの酒井純信さん。
2024年春・夏と数回に分けて、濃密に取材いただき、珠玉の動画が完成しました。福島・haccobaの《800 大麦》と、新潟・阿部酒造《800 蕎麦》《800 米》の貴重な醸造シーンが動画で見られるだけでなく、恩師の東大名誉教授・日本醸造協会会長の北本勝ひこ先生のコメントもあります。クラウドファンディングでもメイン動画として紹介させていただきました。酒井さんによる紹介記事はこちら。

“Voice of LINNÉ”(公式Podcast)

毎週〜隔週ペースで、LINNÉのいまをお届けしています。
話し手は、今井。聞き手は、LINNÉをいつも支えてくださっているタケさんこと柳瀬さんです。ゆるい感じでやってますが、2025年はちょっとだけパワーアップしていきます。コメントもお待ちしてます!

小さな小さな一歩を大事にしながら、皆さんの毎日や未来が明るくなるような挑戦をこれからも続けていきます!ぜひこれからも楽しみにしていてください。

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