ひとは善いことをしながら悪いことをして、悪いことをしながら善いことをする〜シンドラーのリスト
自分で自分に「なにをいまごろ」とつっこんでしまいそうなくらい「いまさら」感のある映画『シンドラーのリスト』。
そう、いまごろ。
そして、ようやく観た。
Amazon Prime Video 見放題対象だったし。
完全になめてたというか、あさってのほうを向いたイメージ、先入観をもっていたことにがく然とする。
やっぱり多くのひとが観た、評価した作品っていうのは映画にかぎらず、なんにしてもいちおうは触れておいたほうがいいなと。
とにかくたまげた。
モノクロ(意図的、象徴的につかわれる「ある」一色はあるけれど)、3時間を超える長尺、テーマが暗い(というかシリアスすぎる)というのに、あっという間だった。
そして、つづけて三回観た。
また観たくなるくらいに素晴らしい。
主人公のシンドラーはただ「善人」で、ユダヤ人を救ったとか、そんな次元の話ではなく
やはりひとというのは、善いことをしながら悪いことをし、悪いことをしながら善いことをする存在なのだと。
これは池波正太郎の鬼平犯科帳にでてくる(主人公 長谷川平蔵がいう)言い回しで、池波文学の通奏低音のひとつでもあるんだけど
ひとがかかわることにおいて、善と悪、白と黒といった、キッパリとわりきれる二項対立なんてものはなくて、重層的、複層的に編まれた(縁起ともいえる)もろもろの事象に、どの時点でどのようにフォーカス(焦点)があたるのか。
その結果として、そのときどきに認められる事象が(そのときの価値をもって)うかびあがるだけなんだと。
もちろん、本作はあくまでも事実(史実)をもとにしたフィクションなので、そのまんまうけとることは出来ないんだけど
それでも、ひとと、ひとの「業」といったものを理解しようとすることの一助にはなる。
そして、その一助は「ゼロイチ」に比するほどにおおきい。
タイミング的にもとてもよかったのは、人気のPodcast番組(もとはYouTubeなのかな)『コテンラジオ』でシンドラーをとりあげている回も聴けたこと。
こちらはいくつもの関連本をもとにしているから、映画(基本的にはフィクション)とは別に、事実(とされる)、史実(とされる)ベースで同じ「シンドラー」氏と、彼がしたこと、その評価、同時代の状況を知ることができて、超がつくほどの力作となっている。
本をもとにしているから事実、もしくは事実に近いかどうかは別のことだとしても(ひと、記憶は基本的にうそをつく)。
スピルバーグって、やっぱりすごいんだなぁ。
町山智浩氏(映画評論家)のYouTube番組もサブテクストとして観ると、そのあたりもよくわかる。
あらためて、スコトーマがはずれる思いの映画体験だった。