好きなひとにはもちろん、わからないひとにも〜すぐわかる抽象絵画の見かた
よくいえばシンプル、朴訥、謹厳実直。
わるくいえば、ぱっとしない。
そんな装丁、デザインとはうらはらに、期待をうわまる内容だった本書。
現在は絶版なのか、Amazonでしらべたら実売価格の倍以上で売られていた。
そんなわけで、やはりありがたい図書館。
とはいえ、本書については自分の手許にもおいておきたいと思ったので、ちと残念。古本屋で出会えることを期待しよう。
内容についてはタイトルが示すとおりで、どちらかといえば入門、初心者向け(もしくはそのよさがわからないひと向け)ではあるのだけれど
好きだったり、あるていど(有名どころとか)はおさえているようなひとにも「お、こんな画家もいたんだ」という発見にもつながる、また脳内データベースを整理するのにも役立つすぐれもの。
抽象絵画、抽象画、抽象表現主義といっても、その線引きには厳密な定義は適用しにくいもの。
主観的なものに左右されるところもあるし、本書で紹介されている画家(作品)はもちろん、すべてを網羅しているわけではないけれど(そもそもできるわけもなく)
20世紀初頭から現代までの主要な(その判断には知名度も)抽象画を描いてきた(なかには具象にもどった画家も)49人を紹介。
前述のように、そうした事情をふまえてコンパクトに(明瞭、簡潔、明快に)まとめられているところがなにより本書の功績。
個人的には(というか、そもそも個人的ななにものかに依拠しない発言があるのか)本書ではじめて知ったスーラージュ(Soulage)がでかい。
そして、スーラージュの作品をみて想起したのが
フランツ・クライン(Flanz Kline)
篠田桃紅(Shinoda Toko)
井上有一(Inoue Yuichi)
共通するのは(わたくしがみて)
黒と線。
本書でスーラージュを知ることで、それまでに見知っていて、好きだった作家たちを整理する(タグ付けとでもいおうか)機会にも恵まれた。
彼、彼女らは大なり小なり、影響とまではいかなくとも、なにかしら響き合うものがあったのではないか。
あらためて、こうしたいっけん無目的にもみえる渉猟が、ランダムネスとの出会いをうみ、それがあらたな有機的ななにかを編み出す機会となるのだなと。