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モスリンという布地
1 モスリンはどんな素材?
モスリンは、着物をお召しの方々には着物の下に着る長襦袢や裾除けの素材として親しみ深いのではないでしょうか。「薄手の生地なのに暖かい」このモスリンは、極細のウールの単糸で織られた、独特の風合いのある平織の生地です。最初明治期に輸入され、その後日本で大量に製造されました。ウールの染色性のよさも相まって、大正から昭和期にかけ、様々な模様が染められました。
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2 その名の由来は?
メソポタミヤの首都モスルで織られた薄手の綿布をアラビヤ人がモセリヤの名で各地に輸出し、フランスでモスリンとよんだことからこの名があるといわれています。わが国では純毛品をメリンスともメレンスともいい、綿ものを綿モスリンと呼びます。またこの生地に友禅染めしたものをモス友禅ともモスリン友禅とも呼びます。別名で、唐縮緬、毛斯倫、メリンスとも呼ばれています。聞き取り調査の際、モスリンを「フクリン」と呼ぶ方もあります。日本では大阪が主産地で、近年まで多くのモスリン工場がありました。群馬県でも製造されていたという記録があります。戦後に化学繊維が入ってから、生産量がだんだんと少なくなり、今ではわずか数社しか製造されていないというのが現状です。
3 モスリンを素材とする作家
しかし、その柔らかな手触り・軽く暖かく、美しいドレープができるという性質は、今の服飾素材としても最適なものです。また、染めた時の発色の良さもモスリンのすばらしい特徴です。
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近年、若い作家がモスリンを素材とした作品を制作しています。拙著「明治大正の可愛いモスリン」では、モスリンを素材とする作家さんの一人として、中井由希子さんをご紹介しています。
中井さんとのご縁は、中井さんが京都市立芸術大の大学院生だった頃に遡ります。当時モスリンに関心を持ち初めておられた頃、京都古布保存会のモスリンコレクション見学会に参加していただきました。それが数年後に実を結び、モスリンを染め、洋服を作る作家になられました。
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中井さんに取材をさせていただいた際のご意見です。
「染め上がりの色の感じが鮮やかなので驚きました。 染めた直後の乾いていない状態の色の透明感が、染上がってより一層深みがでることも魅力的なところです。
また、その風合いと皺になりにくい性質も気に入りました。特に身にまとうときのドレープの落着き感が素晴らしいと思います」
この取材のとき、中井さんは奈良市内にアトリエをお持ちでした。このたび新規に古民家のアトリエに移られました。一層制作が進まれることを期待しております。
【参考サイト】