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#02 浪花千栄子〜おもろうて、やがて悲しき〜

 現在、朝のNHK連続テレビ小説として絶賛放送中の『おちょやん』。
 BK製作特有のドタバタコメディーで、杉咲花演じる主人公「千代」の溢れるチャーミングさ、持ち前の勝ち気と根性、そして小気味良いおとぼけが見ていて面白いです。
 そんな「おちょやん」のモデルとなったのが、ナニワのお母ちゃん女優と親しまれた浪花千栄子です。

 浪花千栄子、本名 南口 キクノ(なんこう きくの)。
 戦前は松竹新喜劇の女優として、戦後は花菱アチャコとの名コンビでラジオドラマ『アチャコ青春手帖』と『お父さんはお人好し』で人気を博した生粋のコメディエンヌ。
 このほかにも、本名を「軟膏効くの」という言葉に引っかけてオロナイン軟膏のCMに起用されるという微笑ましいエピソードを持っていました。
 人を笑わすエッセンスを常に持っていたように見える浪花千栄子ですが、その背景にはつらく悲しい人生を背負った人でもありました。

 幼い頃は貧しさから教育を受けられず、そのために字の読み書きができませんでした。この辺は先日のドラマにも描かれていたかと思います。その後、苦労に苦労を重ね、独学で文字を覚えて無学から脱します。
 その努力が実を結び、知人の紹介で入った女優の道。映画に移り、端役から徐々に役を重ねて、ついには準主役に大抜擢。しかし、給与未払いなどの問題から映画界を去ります。
 その次の次に入った舞台で2代目渋谷天外と出会い、夫婦となって喜劇に励むも、天外が不倫の末にその人との子供を作ってしまうという事態を招いたことから離婚。「松竹新喜劇」からも離れてしまうのでした。
 このように、努力に努力を重ねて地位を固めようとするも、必ず誰かしらからに足を引っ張られてしまうのが浪花千栄子の悲しさでした。
 しかし、こうした出来事が彼女にとって芸の肥やしとなり、その演技に遺憾なく発揮されるのです。
 戦後まもなく、名コメディエンヌぶりを見せた浪花千栄子でしたが、映画出演が多くなると次第にカメレオン女優へと変貌を遂げていきます。
 人情味溢れる庶民的な母から、気品さ漂う上流階級の夫人、迫力満点の女博徒、不気味な老婆の妖怪など、まさになんでもござれ状態。そうした幅広い役柄をこなすことができたのは、まさに彼女が歩んだこれまでの人生、そして身についた経験が活かされたといって過言ではないでしょう。

 浪花千栄子の魅力は、どの役をやっても違和感がないところです。
 普通の役者が演ると台詞回しが妙にクサかったり、無駄に顔の表情で演技をしようとするところ、浪花千栄子が演るとすべてがサラッと軽く見えるのです(もちろん良い意味で)。芝居が芝居に感じない、ありのままの自然体に感じます。
 これはひとえに、身につけた喜劇的なセンスを活かしての「力まない演技」、そしてあの抑揚の効いた台詞回しによるものではないかと思います。
 
 そんな浪花千栄子の魅力がたっぷりつまった作品が、小津安二郎監督の『彼岸花』です。
 彼女の役どころは、主人公・平山(佐分利信)のなじみである京都の旅館「佐々木」の女将・佐々木初。

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