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読書インタビューVol.1 一般読者U


自分が自分であることを、本が証明してくれたことはありますか。

この世界に自分という一人の存在があると思わせてくれる、
そんな本に出会ったことはありますか。


今回インタビューを行った社会人Uさんは、「なにもない、絶望も無ければ希望も無かったときの自分に大きく響いた本」だと評しました。



『ゴールデンスランバー』 伊坂幸太郎




💡ゴールデンスランバーってどんな話?

主人公は30前半くらい。舞台は異世界じみた仙台。首相じゃなくて大統領がいる、みたいな。その大統領を暗殺した犯人に仕立て上げられた主人公が、一体どう逃げ延びるのか、という話。

💡アクション系?

少しだけ。基本はミステリーの部類かな。
逃げ方にしても、アクションと言うよりかは頭脳戦というか。
なにげ結構人間味ある話が所々入っていたりもする。


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💡この本を手に取ったキッカケは覚えてる?

無自覚に買った本なんだよね。この本を買ったのは、僕が大学2年生の冬。
なんで無自覚かっていうと、当時下宿していた近くにGEOがあって、当時はBookOffみたいに古本も扱ってたんだよね。なんか需要がなかったのかわからないけど、大学2年の冬に閉店セールやってて、30円とか20円とかになってたから良さそうな本をとりあえず買ったの。ジャケ買いですらない、ただやすかった本。理由をつけるなら、伊坂幸太郎が有名だったから、くらい。

💡その頃から伊坂幸太郎さんは有名だったの?

2010年とかは、本を読む友達は知っていて、「重力ピエロ」がいいと言ってたな。でも僕は一冊も読んでいなかった。


💡「ゴールデンスランバー」は買ってすぐ読んだ?

2年寝かした。笑 閉店セールで本いっぱい買っちゃったから。この本を読み始めた時期の2012~14年までは大学休学しててさ、「君の名は。」がやってた時期は休学してたのよ。自分の病気がわかった時期で、しかも自分の中でその病気が何なのか全くわからなくて、先行きもわからなかった。もうどうにでもなれくらいの心境だった。ほとんど家にいたからっていうのもあって、2年寝かしたゴールデンスランバーを読み始めた。
伊坂幸太郎の本で初めて読んだのが「魔王」っていうものだったんだけど、「魔王」はあんまり響かなくてね。ほんと当時はあまりに合わなすぎて、もう一度だけ、これを伊坂シリーズ最後のチャレンジにするつもりで読んだ。

💡この本は自分に合ってたの?

前半は、「やっぱだめだわ〜」っていう雰囲気だった。でも、後半を読んで、僕はこの本が好きになった。この本のすごいところは、数え切れないくらい伏線があって、これでもかっていうくらい回収する。それもわざとらしくなく、しれしれっと。しんみりする感じで回収したりとか。後半の話の展開が、前半までと一気にマッチして、その流れがすごく好きだった。


💡なんで今回、この本を挙げてくれたんですか?

インタビュー一回目だから、惜しげもなく好きな本を出そうと思って。人生において一番、と思ったときに、考える間もなく出る本なんだ。

少し話逸れるけど、僕がこんな話し方で人と接したりし始めたのって、ここ2〜3年なんだよね。大学生の頃は「人と話すのなんて…」っていう感じだった。

💡変わる前はどんなだった?

双子だったから、弟の視線が気になるというか。兄弟でずっと一緒にいると、恥ずかしいんだよね。親と一緒にいるときに友達と「ウェーイ」ってできないじゃん。そういう感じで、今思えばずっと監視されているような気持ちだった。ずっと自分のレッテルが「双子の片割れ」だったから、自分の個性が出せてなかったと思う。

 だからこそ、

好きな本なんですか?って聞かれて「この本です」って答えられる今が嬉しいなと思う。
好きな本ってなかなか一冊に決められないことが多いと思うんだけど、自信を持ってこの本です、って言えるくらい自分にとって大きい本。

 この本が一番と言える理由だと、これも大きいなと思うことがあって、

人から勧められて何かを好きになることも結構あると思うんだけど、それもいいと思うんだけど、自分の意志で、賞とかも関係なく選んだ本で、そんな本を一番好きだと言えることがすごく誇らしいことだと感じてる。
思い入れが強くなる。「自分で見つけた」っていう。


💡自分らしさの代表がこの本なんですかね?

そうだね、まさにそう。双子って言うと、どうしても二人で一つって言われることが多い。この本を選んだあたりから離れて過ごす事が多くなったからこそ、自分らしさが出てきたものの代表なのかな。


💡「魔王」は合わなかったのに、そんなに好きになったんですね。

自分の人生観に影響を与えた本っていうのもあるし、自分の持ってる考え方とか大切にしているものは合ってるんだよ、と認めてくれた本だからかな。本を読んでて、そのままセリフとか描写のメッセージじゃなくて、本全体から受け取るメッセージというのを初めて感じた本。なんか本って言うと、「このセリフが好き、この場面が好き」はあると思うんだけど、ずっと読んでいると、裏ではこういうことを言いたいんだな、っていう気付きがある。この本にもそれがあって、初めてそういうメッセージを感じた本。僕が思っている勝手な”ゴールデンスランバーや伊坂幸太郎の言いたいこと”で感じるのは、「傍から見るとバカバカしいような些細なことって意外と大切だし、逆にそっちのほうが大切なんじゃないの」っていうもの。伊坂幸太郎の別の本、新しい本を読んでも、やっぱりその感覚は合ってるんだなと感じられるくらい伝わってくる。伊坂幸太郎と話すタイミングがあったら、↑って大事ですね、って話がしたい。ゴールデンスランバーには特にそれが伝わってくる。

💡読んだ時期にも関係あるのかな?

そうだね。さっきの話に繋がるけど、この本を読んだ時期が絶望に近い”なにもない”時期。何も嫌なことはないけど、希望もない時期だった。僕はこの本の終わりのシーンが一番好きなんだけど、すごい素敵な終わり方で、それがあるからこそゴールデンスランバーが僕の中で一位だと断言しきれる。僕の感性にマッチする。あの時期の何も無い時期の自分に響いた。大学生って多感な時期だから、大学時代に一番好きな小説、作家に出会えたっていうのは本当幸せなことかなって思う。

 ちなみに

ゴールデンスランバーって何かっていうと、ビートルズの曲のタイトルなんだよね。この曲のタイトルが全部100%作品を表しているわけじゃないんだけど、この本の良さの、あるエッセンスをオシャレに抜き出したものがこの本のタイトルなんじゃないかって思う。ほんのちょこっとネタバレ含むけど、ビートルズの歌の歌詞に、"Once there was a way, To get back homeward."っていうのがあって、日本語にすると、「あの頃は帰る道があったけど今はない」っていうものなんだ。歌の主人公の友達が大学時代のことを、”今この年になって振り返ってももう戻れないんだね”って話しているような部分。


💡初めて伊坂幸太郎作品を読んでから結構経つかと思うんだけど、あれから他にも読んでる?

いろいろ読んでるけど、全部面白い。合う合わないはあるかもしれないけどね。

💡「魔王」はまた読んだの?

読んでない。笑 でも本屋大賞4位くらいのすごい本なんだよね。
あ、でも、ゴールデンスランバーもすごくて。本屋大賞1位だし、”このミステリーがスゴイ”で1位だし、、、いろんな賞を総なめしてる。でも、それに留まらない良さがある。


うん、本当に思い入れが強い本。

この本がなかったら、今までこんなに読書してこなかったんじゃないかな。この本を読んでから読む本を切らしたことがなくて。主軸に「ゴールデンスランバーが好き、伊坂幸太郎が好き」があるからこそ、今「本好きです、読み続けてます」「本が生活の一部です」と言える生活になっていると思う。そういう意味でこの本は僕にとって特別。これが無かったら僕は「言葉絵師見習い」になってない。本が好きになったキッカケ



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自分が自分であることを、本が証明してくれたことはありますか。

この世界に自分という一人の存在があると思わせてくれる、
そんな本に出会ったことはありますか。




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