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「透明な迷宮」平野啓一郎著
短編集だと知らずに借りたのだけど、むしろ長編作品よりも個人的に興味深かったので、覚えている限りで色々振り返ってみようと思う。
①消えた蜜蜂
他者の筆跡を見事に再現してしまう郵便局員の話。冒頭からかなりのミステリー要素強めで、この作品は特に印象深く読者を引き込む要素が強いように感じた。結果は悲劇的というよりは、何かやるせなさも伴う感じだけど…愚者や悪者を一方的に責めず、ある意味「クリストファー・ノーラン」的に悪い流れが連鎖する感じで状況が悪化してしまう感じも興味深い。
②ハワイに捜しにきた男
ネタバレにならない程度に書きたいけど、これも「ノーラン」のある作品に近いコンセプトの作品。恐らく、こういう企画で進めていこうと一度書き始めたはいいけど、あまりしっくりこなくって「歯切れの悪い」エンディングになったのかなと想像できる。一つの長編作品としてはアウトなのかもしれないけど、あくまで実験的なアプローチの末だと思うので、短編集への収録なら全然アリだと思う。個人的には興味深い。
③透明な迷宮
抽象的ながらオチが一番印象的だった作品。エロと歴史遺産というどうも相容れないコンセプトをあえて同じ物語で交錯させる感じも面白い。性と愛を分離して相容れないものとして敢えて描いている印象も受けるので、これは恐らくある意味「分人」という平野氏の提唱する概念も描かれているのだと思う。正直、ヒロインに対して恋愛感情を抱くのが難しいという意味では共感性の低い作品だけど(※あくまで描かれる登場人物に対しての話)恋愛作品として実験的に諸々描いているという意味では非常に興味深い。
④family affair
ある意味「緊張感」を一般市民目線で描く形の、奇妙だが面白い物語。恐らく最後の締めの部分に向けての骨格がしっかりしていれば、そのまま長編作品になりそうな印象も受ける。ローラーコースターのように展開していく感じはスリリングだし、あえてパニックを過剰に演出しない辺りも妙にリアル。
⑤火色の琥珀
奇妙な性癖を真っ直ぐ大真面目に描いている作品。笑ってしまうようだけど、当人はマジなので純愛に感じられるのも興味深いし不思議な感覚を覚える。最終的に、主人公のどこか破滅的にも思える究極の愛のカタチも、ある意味現代の先の見えないけど依存的に続いてしまう恋愛を比喩的に描いているような印象で、性癖の部分で変な人という印象で物語が終わらないのも面白い。女性とのキスの描写が、(周囲に当事者が多い故話を色々聞くので)ちょっと素人童貞っぽい感じで一番面白かった…(笑)
⑥Re:依田氏からの手紙
本作で一番力が入っている作品だと思ったけど、個人的には一番難しくて一番疲れた作品。ある意味、この作品が一番最初にあてがわれていたら読むのを辞めてしまったかもしれないね…いや、「つまらない」といった否定的な意味ではなく、それ位読み進めるのが難しい物語って意味で。時間間隔の違和感を描いているのだけれど、そもそものテーマも非常に難しいのである意味しっかりとした体験や背景知識は必要だなぁと思った。
ということで、簡潔にそれぞれの短編について感想をまとめてみたけど…この本、結構面白いからおすすめ。