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忘れ物のストレングス〜キニナル彼女が気になる私⑧〜

 忘れ物をすると、恥ずかしくて、間違えた自分を消したくて、どうしていいか分からなくなる、私。
 だけど、彼女は忘れん坊。
 この前の、英語のテスト直前の週末。
彼女は、英語の教科書、ワーク、プリント類、ノート全て、学校に置いてきてしまった。月曜に出す提出物どころか、テストにでるよ!と言われたポイントの内容すら、分からない。
 なんで全部?😱

病気?性格?
発達障害?その人らしさ?
変わる?変わらない?
このままでいい?何かしていかなきゃダメになる?
いつもハザマで揺れる、娘と私の日々。

今回のテーマは、「忘れ物」。
思わぬ形で知った、彼女のストレングスと、それに救われた小学生のお話。

 朝、7時半に、下の娘たちが、慌ただしく家を出る。あーあ、机の上のお椀に、味噌汁が残ってる。でも、茶碗は空だし、まあいいか。
 残っていた食器を片付けていると、お菓子籠の前に、見覚えのあるピンクのコップと白い箸箱が、置いてあった。


 あー忘れていったな。箸とコップ。
 もしや今日カレーでスプーンつく?と給食献立表をみると、焼き魚に大根煮物。バリバリの和食、そして箸必須メニューだった。
 下の娘は想定外のことが苦手だ。自分用の割り箸も多分持ってない。
「どーすんのかな。〇〇(下の娘の名前)、箸、忘れていった。割り箸かて、持ってない。」
 先生に、貸してと言えず泣いちゃうんじゃないか。お腹の底が、ザワザワしだす。

「学校に割り箸、いっぱいあるで。」

 上の娘が、朝ご飯を食べながら応えた。
「どこに?」
「給食台の白い引き出しの中に、いっぱい入ってんで、輪ゴムと割り箸。忘れたら、みんな、そこの使ってた。何段目か忘れたけど。」


忘れ物して、得することって、あるんや!

 暗雲立ち込めていた私の身体の中が、急にパアアと明るくなった。

 小1の時から、上の娘は忘れ物帝王だ。参観日に、隣の子に教科書見せてもらっていることなど、6年間あるあるだった。
 なんで今?と、私はいつもガックリくる。

 それでいて、忘れ物をしても一向に焦らない彼女に、私はずっとイライラしていたのだけど。

 忘れ物をしょっちゅうしていると、借り方が上手になるのね。

 忘れ物して、誰かに借りたり、どこのを使ったらいいか、後でどうしたらいいか、彼女は、ずっと経験し学んで来ていた。だから、人の助けを借りることに抵抗感がないし、固まらずに次のことへ行ける。
 それは、彼女が身につけた、生きやすくなる術。
 思い起こせば、冒頭に書いた英語教材全忘れの時も、通信教育のワーク一本でテスト勉強をして、提出物は遅れて出す、と決めたことで、返って普段よりテスト勉強ができた。

 あ。
 先生に貸してと言えず泣いちゃったのは、私だ。

 私は、小学生の頃から、忘れ物をしないようにしていた。ある時、書写の時間に、書く半紙が無くなってしまったことがあった。ミスった。足りると思って持ってこなかった。どうしよう。
 紙が無くなりました、と先生に言えば良いことなのだが、私はもう恥ずかしさで声が出ず、涙まで出てきていた。
 周囲の友達の、泣いてんで、と言う声。もう消えちゃいたーい、と思っていたら、その子たちが、紙を一人一枚くれた。
ありがとうもまともに、言えなかった気がする。


 重い。こんな借り方😅。毎回出来ん。
 忘れ物はしない方が良いけれど、忘れたら、早めに「貸して」といえるほうが楽にだよね。自分も、周囲の人も。そしたら、返す時の「ありがとう」も、さらりと言える。

 朝、下の娘の忘れ物に固まっていた私に、彼女は、忘れ物しても大丈夫、と教えてくれた。それは、あの時動けなかった子どもの私が、一番知りたかったこと。
 そして今も求めている、「その人が、次の場所へ動き始められることば」。

 翌朝、寝起きの傍らに来た下の娘に、昨日お箸忘れて、どうしたん?と聞いた。
 娘は、ペンギンのぬいぐるみの手をぎゅっと合わせた。
「自分の割り箸、使った。」
 持ってたんや。
「学校の、借りられへんの?」
「先生から借りれる。けど、借りたらかえさなあかんし。自分のあったから、使った。」
 ささいなことのように話す、娘の声とは裏腹に、彼女の手の中のペンギンは、とても誇らしげな顔をしていた。

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